今年3月に放送作家を引退された鈴木おさむさん。引退と同時に贈る、“覚悟の1冊”として書かれた『もう明日が待っている』(文藝春秋刊)は、20年以上SMAPに併走してきた放送作家だからこそ描ける“小説SMAP”として多くの人の心をつかんでいます。そこで今回は、鈴木さんが戦友と語るSMAPと、彼らの活躍の礎となったSMAP×SMAPについて伺いました。

「SMAP」は、おもしろい存在。人生のどこかに関わりがある

――著書『もう明日が待っている』を発売して数か月経ちますが、読者からの感想で印象に残っていることなどあれば教えてください。

鈴木おさむさん(以下、鈴木):XなどのSNS投稿でこの本の感想を見て、改めてSMAPって本当に「おもしろい存在」だったんだなって思ったんですよね。ファンじゃない人も、ちょっとファンっていうか、自分の人生にどこか関わりがある存在として見ている。だから、みんながSMAPと、それぞれの人生の「あの頃」を照らし合わせながら読んでいるのがとてもおもしろいなと。今、そんなことができる存在って、なかなかいないですよね。

――本の中では、SMAPはもちろん、マネージャーのイイジマさんをはじめ、鈴木さんご自身を含めたスタッフもリアルに描かれています。

鈴木:SMAP×SMAP(以下スマスマ)って、最初の頃はどうせアイドルの番組だろって、業界の期待がめっちゃ低かった。でも、SMAPを主役にゴールデン・プライムの時間帯で成功して、アイドルの定義を書き換えて、業界の常識を壊していって…。番組終了から7年以上経った今、改めてすごく評価されているんです。

番組が大きくなっていく過程で、SMAPのパワーアップはもちろん、スタッフも彼らの勢いに振り落とされないようにめちゃめちゃ必死。それが番組の熱量、すごみになっていったんですね。だから、自分たちのつくったものを、SMAPのことはもちろん、スタッフの思い、過程も含めて絶対に残さなきゃって、僕のその思いが込められた本になっています。

(スマスマの歴史の後半で中核を担った)プロデューサーの黒木さんにも、お亡くなりになる3日前に本を渡すことができました。それもスマスマが起こしてきた、たくさんあるなかの奇跡のひとつ。おもしろいといったらあれですけど、間に合ったことも含めてスマスマに関わっていた人っぽいなと。

僕が放送作家をやめるから書ける話もいっぱいあって、どこまで書くか悩みもしましたけど。スマスマのスタッフの人が「1人1冊絶対です」とか「孫の代まで自慢できます」とか言ってくれて、それを聞くと本当に書いてよかったって、ありがたく思いますね。

東日本大震災で、背中を押したさんまさんのひと言

――2011年の東日本大震災が起きたときのことも、鈴木さんご自身の気持ちや、みんなの不安、放送でSMAPになにをしゃべってもらうか? など、同書にこと細かく描写されていますよね。

鈴木:震災があったのは金曜日。その4日後の火曜日にさんま御殿が地上波のバラエティー、震災後初めての放送になったんです。放送翌日にさんまさんと会ったときに、「昨日すごかったですね」と感想を伝えたら、さんまさんが「だれかがやらんとな」って言ってくれて。

そのとき、僕たちはスマスマの生放送に向けて準備してたんですけど、スタッフ一同もちろん不安だし、家族のこととか考えると、うわの空な所ももちろんあって。でも、さんまさんのそのひと言がバラエティーのつくり手としての僕らの背中を、すごく押してくれたんですね。だから、そのときの思いを含めて、震災のことは書かなきゃって思いました。

――番組を改めて見返してみて、なにか思うことはありましたか?

鈴木:無理に励ますのではなくて、共感しようってつくりになってましたね。視聴者から受け取ったFAXをもとに、メンバーが「電気つけっ放しにしちゃう」「買い占めしちゃう気持ちも分かるとか」とか、今できてないことまで含めて自分の言葉で語って。視聴者が「それでもいいんだよな」と思えるように、弱い気持ちにも寄り添っていて。

「だれかがやらんとな」の話につながると思うんですけど、つくり手含めたみんなが不安で、テレビへの批判も怖いなかで、視聴者含め多くの人を励ます、バラエティーでしか、SMAPでしかつくれない番組ができたと、今でも思っています。

「ゼロ地点」に感じた希望

――SMAPの解散以降もさまざまなできごとがあって、いろいろなことが変わり始めているかと思います。もし、最近鈴木さんが感じた変化などがあれば教えください。

鈴木:以前、テレビのインタビューで、林修先生と(草なぎ)剛くんが話していて、(スタジオを映した画面の)ワイプでは中島健人くんがうなずいているリアクションがあった。それを見て、改めて「時代が変わったな」と思いました。本にも書いてますけど、SMAPの解散に至るまでには、とてつもない悲しみとか、悔しさとかがあって。でもそれを経て、芸能界も大きく変わった。みんなが「つまらないことはやめようよと」行動できるようになった。

剛くんが「俺、あんまりテレビ出てないからさ」って言ってましたからね。人気がなくなって出ていないんじゃなくて、くだらないルールとかしがらみで出れなかったんだって、世の中の多くの人が感じている。現に、「昔人気だった」ってことじゃなくて、今もめちゃめちゃ人気があって引っ張りだこ。テレビのつくり手も、自分たちが共犯者であった罪を含めて、放送でコメントを使っていると思うんですよね。

僕が書いたことに対して、ハレーションはあまりにも大きかったけど、今、剛くんがそういうことをしゃべれる状況になったことを含め、書いた意味をすごく感じています。芸能界にはまだ古い部分がいっぱい残っていますが、僕の小説もきっかけのひとつになって、いろいろなことが壊れて、少しずつ明日に向かうスタートゼロの地点ができてきたのかなと。そういう意味での希望の物語として、僕の小説をぜひ読んで欲しいと思っていますね。

※ 草なぎさんの「なぎ」は、正しくは弓へんに旧字体の前に刀