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「お金の管理は夫任せで貯金額を気にしたことはなかったのですが、年齢を重ねてからテレビや雑誌の『老後貧乏』という言葉が気になりだして……。

【グラフ】ここ20年で2倍以上に…高齢者の生活保護受給世帯数の推移

 不安で夫に相談したら『問題ない』って言うんですけど、通帳を盗み見たら300万円しかないじゃないですか!夫婦2人とも50代で貯金なんて無理に決まってます」(Aさん・50代女性)

生活保護受給者の半数は高齢者!?

 老後2000万円問題や老後貧乏、老後破綻……など、今後の人生に対して不安を煽(あお)るような言葉がメディアをにぎわせて久しい。年齢とともに待ったなしで迫る問題だけに、Aさんのように将来への漠然とした不安を抱えている人も多いのではないか。

「高齢者の生活保護受給者が増加傾向なのは事実」と話すのは、ファイナンシャルプランナーの山中伸枝さん。

 厚生労働省によると、生活保護の受給世帯全体の55.6%は高齢者であり、過去20年間でなんと2.25倍に増加。そして、受給世帯のうちの9割は単身世帯だ。

 ここで特に問題になっているのは、独身者や夫との死別を含めた高齢の単身女性の貧困化。以前の女性は結婚をしたら家庭を守るのが一般的だった世代では、お金に関しては夫である男性に依存し、資産管理などを夫任せにしているケースも多い。

 夫との死別や離婚により、年金額が激減し、苦しい生活を送ることになるのだ。今年1月に発表された国民生活基礎調査をもとにした調査では、65歳以上の1人暮らしの女性の貧困率は44.1%だった。

「高齢の単身女性は、『基礎年金』のみを受給していることが多いのですが、その月額は令和6年度で6万8000円(満額)。物価高のなか1人あたりの生活コストも高いため、貯金を取り崩さないと生活費を賄うのは困難です」(山中さん、以下同)

 もちろん、老後の生活で困窮する人の理由はさまざまだ。中でも自分が「老後貧乏」になると想像もしなかった人は悲惨だ。

「実際、『老後貧乏』に陥ったケースには、長生きするとは思わずにお金のことなどを考えてこなかった、夫や自身が早期リタイアをしていた、退職後に豪華旅行をしてしまったなどの背景が多いんです。

 逆に、どんな人もきちんと将来のライフプランや公的な制度や仕組みについて考えれば、自分らしく楽しい老後を送れると考えています」

50代のお金の使い方で老後の人生が決まる

「会社員なら一般的に50代は高給で、子どもも独立するのでお金が貯めやすい時期。夫婦ならまず、老後のライフプランをすり合わせましょう。それによって貯めるべき老後資金額が変わります。妻のほうが長生きし、1人になったあとの遺族年金を含めた収入額まで想定してライフプランを作ると、さらに安心です」

 100歳まで生きた場合の具体的な資金計画を立てることから始めよう。

「元気なら少なくとも65歳まで働くこと。パートなら夫の扶養範囲を超え、厚生年金額を増やしたいところです」

 また、「ねんきん定期便」を必ず確認し、老後の収入、生活費や住居費などの支出を試算してみることも大切だ。

「今の収支を把握していないなら、家計簿を1か月間つけ、今の月々の支出を把握して。50代はそのうえで生活を少しずつダウンサイジングしていく必要があります」

 しかし、老後のための節約を考えていても、世帯年収がそこそこ高いと将来の見通しが甘くなりがちだ。

「つい『どうにかなる』と思うのは、物事のリスクを自分に都合よく解釈して小さく見積もる『楽観性バイアス』が働くせい。しかし、必要な金額がわかると、気持ちも財布のひもも引き締まります。

 まずは毎月出ていく固定費、特に保険料などを見直し、無駄な出費を省くことから始めると効果が大きく、モチベーションもアップしますよ」

 頻繁な外食やコーヒー代などの浪費グセを洗い直し、収入が減ったときに月々の生活費が赤字にならない工夫を。

「例えば、維持費のかかる自動車を手放して移動手段を自転車にしたとき『しんどい』ではなく、『運動不足を解消できる!』とプラスにとれたら楽しくなります。発想の転換で乗り切ることも大切」

 加えて、比較的家計に余裕のある現役のうちに、資金運用で増やすことも考えよう。

「老後資金の資産運用であれば、投資信託のみで十分。NISA(ニーサ)やiDeCo(イデコ)などの非課税投資制度を用いれば、より効率的です。ただ、必ず投資の勉強をしてから行って」

 60歳の定年前後になると、豪華旅行や資産運用などのダイレクトメールが届き始める。

「人間は大金を手にすると使いたくなるものですが、退職金をもらったら、いったん冷静になる必要があります。難しいなら、1年間は解約できない個人向け国債にしておくなど、少し様子を見て用途を考えたほうがいいですよ」

老後ビンボーになる人がやりがちなこと

老後資金は「どうにかなる」と楽天的

 メディアで発表された退職金や年金の平均額をそのまま信じている人も多い。

「よく耳にする退職金の平均相場2000万円は、中小企業ではほぼありえません。また、たびたび紹介されている『モデルケース』は、浮世離れしていることも多いので、うのみにしないで。一度、『ねんきん定期便』で1か月の年金受給額を確認してみると、自分がもらえる金額の少なさに驚くはずです」(山中さん、以下同)

 足りない分を補う老後資金を貯めるには、具体的な貯蓄計画を立てることが何より必要になる。

「将来、自分がお金の不安なく暮らせることを目標にしてみてください」

家庭の貯蓄額を知らない

 夫婦で収入を別々に管理していないだろうか。「ちゃんと貯金しているから」というお互いの言葉を信じていたら、老後の資金が足りないなんてことも……。

「夫がお金を管理していて、妻は貯蓄額を知らないこともまだまだ多いです。まずは老後のライフプランを相談し、そこから理想の生活のための老後資金について話す中で、お互いの貯蓄額をオープンに。早い段階でお互いの収支を把握できれば、収入を増やしたり、支出を減らす対策ができます」

損をしたくないのでパート勤務は扶養内に

 夫の扶養内では妻の年収が103万円を超えると納税が必要になり、106万円を超えると扶養から外れて社会保険への加入義務がある(令和6年10月以降、従業員数が50人超の会社も対象)。

「配偶者の扶養から外れ、自らが厚生年金に入るのを“損”と捉えがちですが、老後を考えるなら社会保険料を支払ったほうが、将来もらえる年金の総額も増えます」

 特に若いころ、ほとんど働かずに専業主婦になった場合、厚生年金額が少ない。

「将来、基礎年金のみでは生活が厳しいなら、元気なうちに働いて年金をつくり出すべき。正社員採用され、勤務年数が延びれば年金額も増えていきます」

気をつけるべき「カモ期」

投資を始めたが、勉強をせずに金融機関頼み

 定年前後の5年間を山中さんは「カモ期」と呼ぶ。

「退職金を見越して金融機関などから資産運用の案内が届き、投資経験がゼロなのにFXや仮想通貨に手を出してしまう。それでも、なぜか当人は失敗しないと思っているんです」

 窓口ですすめられたから「いい商品」と思い込むのは禁物だ。担当者には売らなくてはいけない商品のノルマがあり、手数料が高い商品を紹介している可能性も。

「50代のうちに効率的にお金を増やすのに資産運用は不可欠ですが、投資は自己責任。担当者に商品をすすめられたらいったん持ち帰り、必ず調べて『この商品なら購入してもいい』と思えるものを選ぶべきです」

若いころに加入した保険サービスを変えていない

「保険はあくまで“保障”のためのもの。昔と違って貯蓄型の保険商品でも運用利回りが大幅に低下しており、資産形成にはなりません。複数の保険に入っている人は見直しを考えて」

 夫婦2人になったら手厚い保障は不要だ。

「子どもが独立したら死亡保険は解約したほうが、有意義にお金を使えるかもしれません。入るのなら『掛け捨て』を中心に再検討を」

何の準備もせずに熟年離婚をする

 今、日本の離婚件数のうち2割超が熟年離婚だ。

「実は夫婦それぞれが貧困化するリスクが高いんです。妻は財産分与で退職金などをもらえたとしても、年金分割で受け取れるのは婚姻期間中の厚生年金の2分の1のみ。基礎年金を足しても、生活費として不足です」

 夫と死別後は、夫の厚生年金の75%相当の厚生年金が受け取れる。離婚は、死別より厚生年金が少なくなるのだ。

「それぞれの事情があっての離婚でしょうが、どうしてもしたいなら見切り発車は禁物。年金事務所では50歳以上なら離婚分割をした場合の見込み額を教えてくれるので、相談するのも手」

子ども世代に迷惑をかけたら「本末転倒」

収入が上がった分、使う額も増えてしまう

 収入が増えると気持ちが大きくなり、生活コストが上がるのが人間の性。

「社会保険料や税金も上がり、さらに浪費によって今までの貯蓄が減ることも。一度上がってしまった生活水準を下げるのは簡単ではありません。老後を見越し、生活レベルはむしろ下げることを考えて。増えた収入は投資に回せるとベストです」

 会社員なら55歳以降は役職定年により一般的には収入が減るので、家計管理の徹底をしていこう。

子どもや孫におごったり、お小遣いをよく渡す

 休日に一緒に出かけて、成人した子どもや孫に食事をおごったり、洋服を買ってあげていないだろうか。

「かわいくて、ついついお金を出してしまう気持ちもわかりますが、塵も積もれば山になり、少しならいいやという考えは要注意」

 誕生日など機会を限定し、無理のない範囲で行おう。

「子どもや孫へあげるお金も年間の予算を組みましょう。自分たちのお金が尽きて、子ども世代に迷惑をかけるのでは本末転倒です」

将来の年金支給額、退職金を把握していない

 定年後の大切な資金がどれぐらいもらえるかを前もって知ることは重要だ。この金額がわからないと、老後資金の貯蓄計画が何も立てられない。

「不安なら、とにかく夫婦で年金事務所へ。自宅に届く『ねんきん定期便』に書かれていないプラスαの年金がある場合もあります。加えて、年金受給開始の繰り上げや繰り下げた場合の金額も聞きましょう」

 また、定年退職時に今までにない大きなお金を手にすると、“ご褒美”と勘違いして浪費してしまい、老後貧乏になる人も多い。

「豪華客船の旅や車の買い替え、家のリフォームなどにつぎ込んでしまい、あとで困るんです。事前に会社の制度を調べて退職金額の見当をつけたら、その総額を今までの生活費で割ってみて。意外と数年で使い切ってしまうとわかれば、1円たりとも浪費できないと気づくはずです」

教えてくれたのは……山中伸枝さん●ファイナンシャルプランナー(CFP(R))。米国オハイオ州立大学ビジネス学部卒業。「楽しい・わかりやすい・やる気になる」講演、ライフプラン相談、執筆を行う。

取材・文/オフィス三銃士