オーストリアの山間に位置するレッドブルリンクは、強い雨が降ったかと思えば、強い陽射しが降り注いできた。ピットウォークには大勢のファンが詰めかけ、キャンプサイトには早くも無数のテントやキャンピングカーが並んでいる。

 前戦スペインGPが大不振に終わってしまったRBは、DRS(※)の作動トラブルで使えなかった新型リアウイングに対策を施しオーストリアにやってきた。それと同時に、バルセロナで投入したアップグレードに問題がないかどうかを確認すべく、新旧の仕様を2台で分けて比較テストを行なうことにした。

※DRS=Drag Reduction Systemの略。追い抜きをしやすくなるドラッグ削減システム/ダウンフォース抑制システム。


角田裕毅は不振から抜け出すことができるか photo by BOOZY

「2台で仕様を分けて、違うアプローチを採る予定です。新旧で仕様を分け、今回さらに持ってきた新しいパーツもあるので、そのミックスという感じです。つまり、完全に旧型に戻すわけではなくて、新旧をミックスしながら2台で違うクルマにして比較する形です」

 そう説明する角田裕毅によれば、チームはいくつか原因とおぼしき点を見つけたという。セットアップ面でもっとうまくやれたはずの箇所もあったと見ている。

 角田のマシンに関しては、スペインGP決勝中にフロアマウントにダメージを負い、それが「マシンがおかしい」と感じた原因になっていたこともわかった。しかしそれだけでは、レース週末全体を通して競争力不足に陥った説明はつかない。だからアップグレードされたフロアやボディワークそのものの検証作業を、今回やることにしたわけだ。

「レース中にフロアにダメージがあったのは事実で、その影響もかなりあったと思う。ですが、それだけで(スペインGPの低迷の)説明が100パーセントつくかと言えば、そうではない。

 ほかにもいろいろ、あったということです。いくつか原因とおぼしき要素が見つかっているのは確かです。だけど、カナダ以前のレースと比べて何が違うのかは、まだ明確な答えがないという状況です」(角田)

【シルバーストンまでに問題を解決したい】

 今週末はスプリントフォーマットゆえに、フリー走行は金曜最初の1回しかない。

 このFP1で比較テストが完了し、新型パッケージに問題ありと判断されれば、新型を担当したドライバーはスプリント予選とスプリントレースに向けて旧型仕様に戻し、ぶっつけ本番で戦うことになる。逆に、新型に明確なアドバンテージがあれば、旧型を担当したドライバーはぶっつけ本番で新型仕様に変更して戦うことになる。

 FP1で確証が得られなかった場合には、スプリントも別々の仕様で走って、さらなるデータ収集を進める。そこで判断がついた場合には、土曜午後の予選に向けて仕様を変更し、ぶっつけ本番となる可能性もある。

 つまり、今週末は新旧どちらを担当するドライバーにとっても、リスクを抱えた状態での週末になる。フリー走行が3回ある通常のレース週末ならば抱えなくてもいいリスクだが、一刻も早くこの問題を解決しておきたいというチーム全体の意思がある。

「できるだけ早く答えを見つけたいですし、逆に(次戦イギリスGPの)シルバーストンまで伸ばしたくない。だから100パーセント理解するためにフリー走行が1回しかないとわかっていても、今回このアプローチを採ったということです。

 もちろんポイントは狙いに行きますが、最悪の場合はスプリントのあとに予選・決勝に向けて(新型がダメだった場合は旧型に)戻すこともできる。スプリントもテスト的な位置づけになる可能性があります」(角田)

 この口ぶりからすれば、角田が新型を担当する可能性が高そうだ。それはチームの新型パッケージに対する自信の表われでもあると言える。つまり、設計自体に問題があるのではなく、バルセロナでの使い方とコース特性との相性といったことが疑われるというわけだ。

 エンジニアやメカニックにとってはただでさえ慌ただしいスプリント週末が、こうした比較テストが介在することでさらに慌ただしくなる。それはパワーユニットを供給し運用するホンダ(HRC)も同じで、そのサポートあっての比較テストとも言える。

【2019年に優勝を飾った思い出の地】

 RB側のPU責任者であり、ホンダの現場を統括する折原伸太郎トラックサイドゼネラルマネージャーはこう説明する。

「スプリント週末のFP1では仕様を分けて走りますので、どちらかがよくてどちらかが悪いとなった時は、駄目なほうの仕様をスプリント予選から変更することになります。その場合は、PU側もデータをアップデートしなければなりません。

 その時に(仕様が違えばスロットルの)踏み方が違ってきますので、データをどうアジャストしていくのか、そのところを想定してデータを作っていかなければなりません。ドライバーだけでなくデータのほうもぶっつけ本番になりますので、それを見越して準備をしていくことになります」

 レッドブルリンクは、ホンダにとって2019年に第4期初優勝を飾った思い出の地。標高700メートルというプチ高地が優位に働いたが、それと同時に暑さも味方した。

 今週末も、そんな暑い週末になりそうだ。

「私はあの時SMR(Sakuraミッションルーム)にいましたが、ここに来るとあの時のことを思い出しますし、今週末は暑そうなので、そこもあの時と似ているなと思います。メンバーたちとも『あの時のことを思い出すね』という話をしています。

 今週末は当初、雨の予報でしたけど、最新の予報では週末を通して晴れ。30度くらいの気温になっているので、エンジンサプライヤーにとってはけっこう厳しい環境です。FP1の限られた時間のなかで、ボディカウルの冷却設定も見極めなければなりません」(折原ゼネラルマネージャー)

 目の前のレースではなくその先を見据えて、あえて暑く慌ただしい週末を戦う。そんなRBとホンダと角田の挑戦を見守りたい。