ミキ、『M-1』以上に欲しているもの「あれが取れたら真の漫才師」 “これまで”と“これから”語る
●主戦場は劇場 全国ツアー「ミキ漫」を活動の軸に
劇場を活動の主軸とし、毎年全国ツアー「ミキ漫」を開催している兄弟漫才コンビ・ミキ。今年は6月28日より全国11カ所12公演を巡る「ミキ漫 2024 全国ツアー」を開催する。ミキにインタビューし、「ミキ漫」への思いや結成13年目の今の活動について話を聞くと、「今が一番楽しい」と充実した表情。『M-1グランプリ』に縛られていた時期も経てたどり着いた、自分たちにとって心地の良いお笑いとの向き合い方、そして今後の目標とは――。
――まず今年の「ミキ漫」をどういうものにしたいと考えているかお聞かせください。
昴生:例年と構成的にはあまり変わりませんが、去年とは100%違う、テレビでやったことのない漫才ばかりなので、それを楽しみに見に来ていただけたら。本当のミキの姿がここにあります。
亜生:ミキの素が見られるのがこのツアーだと思うので、どんどん素を出していければなと。毎年楽しいので今年も楽しみです。
――劇場とテレビでネタを変えているわけですね。
昴生:劇場はお金を払って時間を割いて来てくださるので特別感があるし、僕らはそこを主戦場にしているので、劇場専用の漫才をお見せしたいなと。その漫才に飽きたら、テレビで皆さんに見ていただいて、劇場ではまた違う漫才を、というように入れ替えながらやっています。なので今年の「ミキ漫」も新ネタです。
――今年は11カ所中、6カ所が初開催となりますが、楽しみにしていることは?
昴生:今年も行ってないところにチャレンジしているので、楽しみは多いですね。秋田や佐賀は仕事でもあんまり行かないので。
亜生:営業で行ったとしてもすぐ帰る。ツアーはゆっくりできるのでうれしいです。
――お二人でご当地グルメを食べたり?
亜生:お兄ちゃんは食べ物なんですけど、僕は釣りが好きなので朝に釣り行ったりしています。
昴生:終わった後はみんなで打ち上げしますけど。
――劇場が主戦場というお話もありましたが、「ミキ漫」は活動の大きな軸ということですね。
昴生:そうですね。これを軸でやっていきたいなと。コロナで1回なくなったときにどうしようかなと思いましが、亜生が「どうしてもやりたい」と言うので、「じゃあやろうか」と。やり出したらやっぱりこれを軸に動くのが一番健全やし、自分らに合っていると思いました。僕らは全国いろんな場所で漫才をやりたいというのがモットーとしてあるので。
亜生:達成感があるんです。これがないと逆に何するんやろうと。ここの県のお客さんはこんな反応をするんだとか、そういうのも楽しいです。
――ここ数年で劇場や全国ツアーに対する気持ちなど、何か変わったことはありますか?
昴生:やっぱりコロナ禍が大きいですね。お客さんがいないと俺らの職業は成り立たないんやなとほんまに思ったし、お客さんが来てくれることがこんなにも幸せなんやなと、あの2、3年で気づかせてもらいました。
亜生:舞台に出たらお客さんがいるのが当たり前になってしまっていましたが、お客さんが来てくれることは本当にありがたいことなんだなと感じました。
――改めて、自分たちらしさはどのように考えていますか?
亜生:お茶の間、近所の子という感じですかね。
昴生:身近な存在。「兄弟を思い出しました」とか「うちの息子を見ているみたいでした」と言われるのがうれしいですね。ちゃんと等身大、平均のお兄ちゃん、弟だからだと思います。自分でも「俺、お兄ちゃん感出てるわ」って思いますもん(笑)
亜生:「弟ってこんなんやな」っていうのが僕です(笑)
――仕事のパートナーになっても関係性は変わらず?
昴生:兄と弟という芯のところは変わらないですね。仕事のパートナーという感じでもないし、ずっと兄と弟のままだと思います。
●「今が一番いい」『M-1』を意識しすぎて苦しんだ時期も
――2019年4月に東京に進出してからテレビ出演も増えましたが、テレビの活動によって成長できたことやプラスになったなと感じていることをお聞かせください。
昴生:テレビに出て皆さんに知ってもらえるようになると、漫才で出て行ったときに最初から受け入れてもらえるんです。若手の子は自己紹介が必要ですが、僕らは自己紹介なく10分出番があったら10分丸々話ができる。それがテレビに出た最大の利点ですね。
亜生:テレビに出ている人を見に劇場に来てくれますし。
昴生:そうなんです。そこを目標にしていたところがあって。ダイアンさんがNGK(なんばグランド花月)で『M-1』の準決勝に出たときに、初っ端のボケで会場が揺れるぐらいウケて、テレビに出ていて受け入れられているからやと思ったので、そこからテレビも頑張ろうと意識するようになりました。
――『M-1グランプリ』では2017年に3位、2018年に4位と大健闘。その後、決勝から遠ざかっていますが、戦いぶりをどのように自己分析していますか?
昴生:決勝に進出した2017年、2018年は、自分ら的にはあまり好きじゃないネタだったんです。完全に『M-1』のために作ったネタで。自分らの中では今が一番いい。どんどん好きになっています。『M-1』はたくさんの人が見てくれるので、今の自分らが好きな状態を見てもらえたらなと思っています。
――自分たちが本当にやりたい漫才をするようになって好きになれたのでしょうか。
昴生:そうですね。自分らが好きな漫才をやっているというのが一番大きいですね。若い時は世に出たいから『M-1』を第一に考えるんですけど、それがしんどくなってきて。2017年、2018年頃はどこに行っても『今年M-1優勝やな』と言われて、めっちゃプレッシャーに。2019年のときに決勝は確実やなと思ったら決勝も行けなくて、2019年で卒業しようと思ったんです。和牛さんもそう言っていたので。なんとなく和牛さんの呼吸と同じような感じがして追いかけていた部分があり、和牛さんが出ないなら意味ないなと。でも和牛さんの漫才を見て『なんで同じ風に思ってたんやろ。同じことしても勝てるわけないから俺らは俺らでまだもがこう』と。15年だけ修行やと思って『M-1』に出ようと決めました。
――亜生さんも異論なく?
亜生:もともと僕からやめようとは言ってなくて、お兄ちゃんがやめようと言ったんです。でも終わったら「やっぱやる」となったので「いいよ」と。僕はなんなら『M-1』好きなので。
昴生:逃げやなと思ったんです。他人の評価ばかり気にして。結果はどうであれ、やってみればええやんって考え直しました。応援してくれている人たちの思いに応えたいという気持ちもありますし。『M-1』を見て「『ミキ漫』で見たネタや」と思ってもらえたら幸せです。
亜生:2回決勝に出させてもらっているだけでありがたいですし。
昴生:ほんまにありがたい。
――出場は続けるも、以前とは違って自分たちが好きな漫才で勝負するように。
昴生:本当にやりたい漫才を、『M-1』のお客さんとかではなく、今日のお客さんに向けてやる。だから僕らは『M-1』用のネタなんてここ何年ないです。
――決勝に進出したときはしんどかったとおっしゃっていましたが、好きな漫才をするようになって楽しめるようになりましたか?
昴生:あのときより格段に楽しいですし、好きなことができていて幸せです。初めて決勝に行った翌年に全国ツアーを始めたんですけど、『M-1』のことを考えすぎて、全部『M-1』用のネタと思ってやったら、最初の会場でめっちゃスベったんです。そのトラウマがあるから怖くて、『M-1』用として考えるのはやめようと思いました。
亜生:『M-1』を意識していたときは、お客さんの前で稽古を見せている感じでした。いかにうまいことをミスせず言うか。だから当時はガチガチでした。
――今年の『M-1』はどんな意識で迎えようと考えていますか?
昴生:全然考えてないです。前日ぐらいになって焦るんですけど、『M-1』のために調整するつもりはないです。自分たちらしい漫才をして、それがうまくハマったらいいなぐらいの気持ちで。
●『上方漫才大賞』は「僕らの中では『M-1』よりすごい」
――『M-1』挑戦は続けるも、あくまでも劇場を第一に考えて活動していくわけですね。
昴生:そうですね。昔からNGKで一番ウケる漫才師になりたいという思いがあり、そこを目指していきたいです。あと、『上方漫才大賞』を目標にしています。僕らの中では『M-1』よりすごいので。
亜生:『M-1』はその日の出来がいい人ですが、大賞は年間通して全部見ての評価なので。
昴生:『上方漫才大賞』は認めてもらったなという感じが本当にある。関西の人間やから小さい頃から見ていて、あれに選ばれたら真の漫才師やと思っていたから、あれは欲しい! そこを意識してもいいんやというところまで来ていること自体、誇らしいです。『上方漫才大賞』なんて夢のまた夢やと思っていたので。『上方漫才大賞』が取れたら人生最高ですね!
亜生:あれはもう漫才師です!
――『上方漫才大賞』を取った方で、特に憧れている人は?
昴生:中田カウス・ボタン師匠、オール阪神・巨人師匠、トミーズさんとか見ていましたが、僕らが一番お手本にしているのは、夢路いとし・喜味こいし師匠……いとし・こいし先生です。
亜生:先生って言うのやめてって言ってるやん(笑)。恥ずかしい。弟子にしてもらったわけでもないのに。
昴生:でも本当にいとし・こいし師匠を見て、面白くて衝撃を受けたので。そこを目指してやっていきたいという憧れがあります。
亜生:もっと近いところでいうとミルクボーイさんはマジですごいです。新ネタもいっぱいやっているし、ちゃんと漫才と向き合っていて。
昴生:ミルクボーイさんはほんまにすごい。真の漫才師です。中川家さん、やすとも(海原やすよ ともこ)さんももちろんそうですけど。同じ兄弟なのが嫌なくらい、あの2組は君臨している。どうにかしてあそこを蹴落とそうと牙をむいています(笑)。兄弟漫才師で比べられ、僕らはついていくだけですなんてスタンスでやっていたって一生勝てないので(笑)
亜生:中川家さんもやすともさんも、えぐいぐらいウケてますから。あの人らを生で見たら、漫才見たことない人は価値観変わると思います。
――中川家さんとやすともさんを超えるためには、どうなっていく必要があると考えていますか?
昴生:早くおじさんになりたいです。僕らはまだ若いから言葉に説得力がないんです。もっとおっさんになって、おっさんの言葉の説得力を持ちたいなと。いずれ亜生にも子供できたり、子供が結婚したりとかもあるやろうし、家族が増えたらまた幅が広がるので、これからが楽しみです。早く50代になりたい! 漫才師は40代後半からやろなと思います。
――亜生さんも早くおじさんになりたいですか?
亜生:僕はまだ若くいたい……老いは怖いです(笑)。漫才で考えたら年を取った笑いも楽しみですけど。(昴生は)焦っておっさんになろうとしていて、風格を出すようになったり、言い方をちょっと師匠に寄せたり。
昴生:多少は意識しています(笑)。ちゃんと職業として漫才師でありたいから、プロのしゃべり方ではいたいなと。
――昴生さんは2児のパパになり、亜生さんは結婚され、ネタの広がりをすでに感じていますか?
昴生:親になって登場人物に子供が出てくるようになったし、亜生の奥さんも出てくるようになって、広がっています。漫才師はプライベートも全部ネタにできて、失敗談もネタにできる。こんな最高の職業はないなと思います。
●「おじいちゃんになっても漫才をしたい」 歌う計画も!?
――具体的な目標を語ってくださいましたが、将来的にどうなっていたいと考えていますか?
昴生:おじいちゃんになっても漫才をしたい。あとやっぱり『上方漫才大賞』は欲しいですし、しっかり漫才師と認知してもらいたいなと。お笑い芸人ではなく、漫才師と言ってもらえるようになるのが一番の目標かもしれないです。
――「ミキ漫」もおじいちゃんになっても?
昴生:やりたいですけど、11カ所12公演みたいなのはしんどいかなと。
亜生:ネタ数も今と同じようには絶対できないです。今は体力あるから1公演で基本10本漫才できるけど、おじいちゃんになったら3、4本になっていくんじゃないかと。
昴生:30分しか漫才もたなかったら、あと1時間はもう歌しかないやんって(笑)
亜生:巨人師匠というモデルもいますし。巨人師匠、歌ってるんですよ!
昴生:そのために、ここ2、3年ぐらいでCDを出して、10年後ぐらいにベストアルバムを。
亜生:それをツアーで歌います!
――もし、アーティストとしても人気が出たら?
「ミキ漫 2024 全国ツアー」ビジュアル
昴生:そうなったら話が変わる(笑)
亜生:漫才が主軸という話は全部忘れてもらって。アーティストのほうで行く可能性もあります(笑)
昴生:でも本当に「おじいちゃんになったら『ミキ漫』どうする?」という話はしています。師匠たちが若手を呼んだりしているので、それもありかなと。
亜生:逆におっさんばっかりでツアー回るとか。師匠同士がユニットライブしていたらおもろいかなと。
――おじいちゃんになってからも楽しそうですね。
亜生:でも、おじいちゃんになってウケてなかったらやめなあかんと思っています。
昴生:50歳過ぎてウケてないなと思ったらやめます。みんなは言いにくいと思うので、自分ら判断で、「お前、今日ウケてへんかったで」って。
亜生:「次スベったらもう終わり」ってお互いにしっかり判断しようと。
昴生:漫才は50歳、60歳になったら一番ウケる人になってないとやっている意味がないので。劇場で一番ウケる人を目指して頑張っていこうと思います。
■ミキ
兄・昴生(1986年4月13日生まれ)、弟・亜生(1988年7月22日生まれ)による兄弟漫才師。京都府出身。2012年4月結成。『M-1グランプリ』で2017年に3位、2018年に4位。また、2019年に『第54回上方漫才大賞』新人賞、2020年に『第5回上方漫才協会大賞』大賞を受賞。「ミキ漫 2024 全国ツアー」は、6月28日の東京公演から11月22日の大阪公演まで、11カ所12公演開催する。
劇場を活動の主軸とし、毎年全国ツアー「ミキ漫」を開催している兄弟漫才コンビ・ミキ。今年は6月28日より全国11カ所12公演を巡る「ミキ漫 2024 全国ツアー」を開催する。ミキにインタビューし、「ミキ漫」への思いや結成13年目の今の活動について話を聞くと、「今が一番楽しい」と充実した表情。『M-1グランプリ』に縛られていた時期も経てたどり着いた、自分たちにとって心地の良いお笑いとの向き合い方、そして今後の目標とは――。
――まず今年の「ミキ漫」をどういうものにしたいと考えているかお聞かせください。
昴生:例年と構成的にはあまり変わりませんが、去年とは100%違う、テレビでやったことのない漫才ばかりなので、それを楽しみに見に来ていただけたら。本当のミキの姿がここにあります。
亜生:ミキの素が見られるのがこのツアーだと思うので、どんどん素を出していければなと。毎年楽しいので今年も楽しみです。
――劇場とテレビでネタを変えているわけですね。
昴生:劇場はお金を払って時間を割いて来てくださるので特別感があるし、僕らはそこを主戦場にしているので、劇場専用の漫才をお見せしたいなと。その漫才に飽きたら、テレビで皆さんに見ていただいて、劇場ではまた違う漫才を、というように入れ替えながらやっています。なので今年の「ミキ漫」も新ネタです。
――今年は11カ所中、6カ所が初開催となりますが、楽しみにしていることは?
昴生:今年も行ってないところにチャレンジしているので、楽しみは多いですね。秋田や佐賀は仕事でもあんまり行かないので。
亜生:営業で行ったとしてもすぐ帰る。ツアーはゆっくりできるのでうれしいです。
――お二人でご当地グルメを食べたり?
亜生:お兄ちゃんは食べ物なんですけど、僕は釣りが好きなので朝に釣り行ったりしています。
昴生:終わった後はみんなで打ち上げしますけど。
――劇場が主戦場というお話もありましたが、「ミキ漫」は活動の大きな軸ということですね。
昴生:そうですね。これを軸でやっていきたいなと。コロナで1回なくなったときにどうしようかなと思いましが、亜生が「どうしてもやりたい」と言うので、「じゃあやろうか」と。やり出したらやっぱりこれを軸に動くのが一番健全やし、自分らに合っていると思いました。僕らは全国いろんな場所で漫才をやりたいというのがモットーとしてあるので。
亜生:達成感があるんです。これがないと逆に何するんやろうと。ここの県のお客さんはこんな反応をするんだとか、そういうのも楽しいです。
――ここ数年で劇場や全国ツアーに対する気持ちなど、何か変わったことはありますか?
昴生:やっぱりコロナ禍が大きいですね。お客さんがいないと俺らの職業は成り立たないんやなとほんまに思ったし、お客さんが来てくれることがこんなにも幸せなんやなと、あの2、3年で気づかせてもらいました。
亜生:舞台に出たらお客さんがいるのが当たり前になってしまっていましたが、お客さんが来てくれることは本当にありがたいことなんだなと感じました。
――改めて、自分たちらしさはどのように考えていますか?
亜生:お茶の間、近所の子という感じですかね。
昴生:身近な存在。「兄弟を思い出しました」とか「うちの息子を見ているみたいでした」と言われるのがうれしいですね。ちゃんと等身大、平均のお兄ちゃん、弟だからだと思います。自分でも「俺、お兄ちゃん感出てるわ」って思いますもん(笑)
亜生:「弟ってこんなんやな」っていうのが僕です(笑)
――仕事のパートナーになっても関係性は変わらず?
昴生:兄と弟という芯のところは変わらないですね。仕事のパートナーという感じでもないし、ずっと兄と弟のままだと思います。
●「今が一番いい」『M-1』を意識しすぎて苦しんだ時期も
――2019年4月に東京に進出してからテレビ出演も増えましたが、テレビの活動によって成長できたことやプラスになったなと感じていることをお聞かせください。
昴生:テレビに出て皆さんに知ってもらえるようになると、漫才で出て行ったときに最初から受け入れてもらえるんです。若手の子は自己紹介が必要ですが、僕らは自己紹介なく10分出番があったら10分丸々話ができる。それがテレビに出た最大の利点ですね。
亜生:テレビに出ている人を見に劇場に来てくれますし。
昴生:そうなんです。そこを目標にしていたところがあって。ダイアンさんがNGK(なんばグランド花月)で『M-1』の準決勝に出たときに、初っ端のボケで会場が揺れるぐらいウケて、テレビに出ていて受け入れられているからやと思ったので、そこからテレビも頑張ろうと意識するようになりました。
――『M-1グランプリ』では2017年に3位、2018年に4位と大健闘。その後、決勝から遠ざかっていますが、戦いぶりをどのように自己分析していますか?
昴生:決勝に進出した2017年、2018年は、自分ら的にはあまり好きじゃないネタだったんです。完全に『M-1』のために作ったネタで。自分らの中では今が一番いい。どんどん好きになっています。『M-1』はたくさんの人が見てくれるので、今の自分らが好きな状態を見てもらえたらなと思っています。
――自分たちが本当にやりたい漫才をするようになって好きになれたのでしょうか。
昴生:そうですね。自分らが好きな漫才をやっているというのが一番大きいですね。若い時は世に出たいから『M-1』を第一に考えるんですけど、それがしんどくなってきて。2017年、2018年頃はどこに行っても『今年M-1優勝やな』と言われて、めっちゃプレッシャーに。2019年のときに決勝は確実やなと思ったら決勝も行けなくて、2019年で卒業しようと思ったんです。和牛さんもそう言っていたので。なんとなく和牛さんの呼吸と同じような感じがして追いかけていた部分があり、和牛さんが出ないなら意味ないなと。でも和牛さんの漫才を見て『なんで同じ風に思ってたんやろ。同じことしても勝てるわけないから俺らは俺らでまだもがこう』と。15年だけ修行やと思って『M-1』に出ようと決めました。
――亜生さんも異論なく?
亜生:もともと僕からやめようとは言ってなくて、お兄ちゃんがやめようと言ったんです。でも終わったら「やっぱやる」となったので「いいよ」と。僕はなんなら『M-1』好きなので。
昴生:逃げやなと思ったんです。他人の評価ばかり気にして。結果はどうであれ、やってみればええやんって考え直しました。応援してくれている人たちの思いに応えたいという気持ちもありますし。『M-1』を見て「『ミキ漫』で見たネタや」と思ってもらえたら幸せです。
亜生:2回決勝に出させてもらっているだけでありがたいですし。
昴生:ほんまにありがたい。
――出場は続けるも、以前とは違って自分たちが好きな漫才で勝負するように。
昴生:本当にやりたい漫才を、『M-1』のお客さんとかではなく、今日のお客さんに向けてやる。だから僕らは『M-1』用のネタなんてここ何年ないです。
――決勝に進出したときはしんどかったとおっしゃっていましたが、好きな漫才をするようになって楽しめるようになりましたか?
昴生:あのときより格段に楽しいですし、好きなことができていて幸せです。初めて決勝に行った翌年に全国ツアーを始めたんですけど、『M-1』のことを考えすぎて、全部『M-1』用のネタと思ってやったら、最初の会場でめっちゃスベったんです。そのトラウマがあるから怖くて、『M-1』用として考えるのはやめようと思いました。
亜生:『M-1』を意識していたときは、お客さんの前で稽古を見せている感じでした。いかにうまいことをミスせず言うか。だから当時はガチガチでした。
――今年の『M-1』はどんな意識で迎えようと考えていますか?
昴生:全然考えてないです。前日ぐらいになって焦るんですけど、『M-1』のために調整するつもりはないです。自分たちらしい漫才をして、それがうまくハマったらいいなぐらいの気持ちで。
●『上方漫才大賞』は「僕らの中では『M-1』よりすごい」
――『M-1』挑戦は続けるも、あくまでも劇場を第一に考えて活動していくわけですね。
昴生:そうですね。昔からNGKで一番ウケる漫才師になりたいという思いがあり、そこを目指していきたいです。あと、『上方漫才大賞』を目標にしています。僕らの中では『M-1』よりすごいので。
亜生:『M-1』はその日の出来がいい人ですが、大賞は年間通して全部見ての評価なので。
昴生:『上方漫才大賞』は認めてもらったなという感じが本当にある。関西の人間やから小さい頃から見ていて、あれに選ばれたら真の漫才師やと思っていたから、あれは欲しい! そこを意識してもいいんやというところまで来ていること自体、誇らしいです。『上方漫才大賞』なんて夢のまた夢やと思っていたので。『上方漫才大賞』が取れたら人生最高ですね!
亜生:あれはもう漫才師です!
――『上方漫才大賞』を取った方で、特に憧れている人は?
昴生:中田カウス・ボタン師匠、オール阪神・巨人師匠、トミーズさんとか見ていましたが、僕らが一番お手本にしているのは、夢路いとし・喜味こいし師匠……いとし・こいし先生です。
亜生:先生って言うのやめてって言ってるやん(笑)。恥ずかしい。弟子にしてもらったわけでもないのに。
昴生:でも本当にいとし・こいし師匠を見て、面白くて衝撃を受けたので。そこを目指してやっていきたいという憧れがあります。
亜生:もっと近いところでいうとミルクボーイさんはマジですごいです。新ネタもいっぱいやっているし、ちゃんと漫才と向き合っていて。
昴生:ミルクボーイさんはほんまにすごい。真の漫才師です。中川家さん、やすとも(海原やすよ ともこ)さんももちろんそうですけど。同じ兄弟なのが嫌なくらい、あの2組は君臨している。どうにかしてあそこを蹴落とそうと牙をむいています(笑)。兄弟漫才師で比べられ、僕らはついていくだけですなんてスタンスでやっていたって一生勝てないので(笑)
亜生:中川家さんもやすともさんも、えぐいぐらいウケてますから。あの人らを生で見たら、漫才見たことない人は価値観変わると思います。
――中川家さんとやすともさんを超えるためには、どうなっていく必要があると考えていますか?
昴生:早くおじさんになりたいです。僕らはまだ若いから言葉に説得力がないんです。もっとおっさんになって、おっさんの言葉の説得力を持ちたいなと。いずれ亜生にも子供できたり、子供が結婚したりとかもあるやろうし、家族が増えたらまた幅が広がるので、これからが楽しみです。早く50代になりたい! 漫才師は40代後半からやろなと思います。
――亜生さんも早くおじさんになりたいですか?
亜生:僕はまだ若くいたい……老いは怖いです(笑)。漫才で考えたら年を取った笑いも楽しみですけど。(昴生は)焦っておっさんになろうとしていて、風格を出すようになったり、言い方をちょっと師匠に寄せたり。
昴生:多少は意識しています(笑)。ちゃんと職業として漫才師でありたいから、プロのしゃべり方ではいたいなと。
――昴生さんは2児のパパになり、亜生さんは結婚され、ネタの広がりをすでに感じていますか?
昴生:親になって登場人物に子供が出てくるようになったし、亜生の奥さんも出てくるようになって、広がっています。漫才師はプライベートも全部ネタにできて、失敗談もネタにできる。こんな最高の職業はないなと思います。
●「おじいちゃんになっても漫才をしたい」 歌う計画も!?
――具体的な目標を語ってくださいましたが、将来的にどうなっていたいと考えていますか?
昴生:おじいちゃんになっても漫才をしたい。あとやっぱり『上方漫才大賞』は欲しいですし、しっかり漫才師と認知してもらいたいなと。お笑い芸人ではなく、漫才師と言ってもらえるようになるのが一番の目標かもしれないです。
――「ミキ漫」もおじいちゃんになっても?
昴生:やりたいですけど、11カ所12公演みたいなのはしんどいかなと。
亜生:ネタ数も今と同じようには絶対できないです。今は体力あるから1公演で基本10本漫才できるけど、おじいちゃんになったら3、4本になっていくんじゃないかと。
昴生:30分しか漫才もたなかったら、あと1時間はもう歌しかないやんって(笑)
亜生:巨人師匠というモデルもいますし。巨人師匠、歌ってるんですよ!
昴生:そのために、ここ2、3年ぐらいでCDを出して、10年後ぐらいにベストアルバムを。
亜生:それをツアーで歌います!
――もし、アーティストとしても人気が出たら?
「ミキ漫 2024 全国ツアー」ビジュアル
昴生:そうなったら話が変わる(笑)
亜生:漫才が主軸という話は全部忘れてもらって。アーティストのほうで行く可能性もあります(笑)
昴生:でも本当に「おじいちゃんになったら『ミキ漫』どうする?」という話はしています。師匠たちが若手を呼んだりしているので、それもありかなと。
亜生:逆におっさんばっかりでツアー回るとか。師匠同士がユニットライブしていたらおもろいかなと。
――おじいちゃんになってからも楽しそうですね。
亜生:でも、おじいちゃんになってウケてなかったらやめなあかんと思っています。
昴生:50歳過ぎてウケてないなと思ったらやめます。みんなは言いにくいと思うので、自分ら判断で、「お前、今日ウケてへんかったで」って。
亜生:「次スベったらもう終わり」ってお互いにしっかり判断しようと。
昴生:漫才は50歳、60歳になったら一番ウケる人になってないとやっている意味がないので。劇場で一番ウケる人を目指して頑張っていこうと思います。
■ミキ
兄・昴生(1986年4月13日生まれ)、弟・亜生(1988年7月22日生まれ)による兄弟漫才師。京都府出身。2012年4月結成。『M-1グランプリ』で2017年に3位、2018年に4位。また、2019年に『第54回上方漫才大賞』新人賞、2020年に『第5回上方漫才協会大賞』大賞を受賞。「ミキ漫 2024 全国ツアー」は、6月28日の東京公演から11月22日の大阪公演まで、11カ所12公演開催する。