「神経を抜いたのに歯が痛い」のはなぜ? すぐ受診すべき? 原因や対処法を歯科医が解説
大きなむし歯で神経を抜いた歯が、治療後に痛む……。そんな経験はありませんか? その痛みにはいくつかの原因があり、その原因ごとに対処法も異なります。そこで、神経を抜いた歯が痛む原因や受診の目安、具体的な治療法などを郄井歯科クリニックの郄井先生に聞きました。
≫「根管治療で歯を残す or 抜歯」、その境目をどう見分ければいいのか監修歯科医師:
郄井 駿佑(郄井歯科クリニック)
鹿児島大学歯学部卒業。大阪大学歯学部附属病院にて日本における歯内療法(根管治療)の第一人者のもとでの勤務を経たのち、郄井歯科クリニックを開院。「いつまでも自分の歯で食事をするための歯科治療」に情熱を持って取り組む。また、根管治療のスペシャリストとして多くの難症例にも対応している。日本歯内療法学会専門医。日本外傷歯学会認定医。米国歯内療法学会会員。
神経を抜いたのに歯が痛むのはナゼ? 考えられる原因とメカニズム編集部
歯の神経を抜いても、歯が痛むことはあるのでしょうか?
郄井先生
あります。歯の神経の治療は痛みと関連していることが非常に多いので、神経を抜いたあとも痛みや違和感を生じてしまうことは珍しくありません。
編集部
なぜ、神経を抜いたのに「歯が痛い」と感じるのでしょうか?
郄井先生
歯の神経は主に、冷たいものや熱いものを口にした際に「しみる」「痛む」という感覚に関与しています。したがって、神経を抜いたあとは、このような温度刺激による歯の痛みやしみる感覚はなくなります。一方で、神経は歯の内部だけでなく、歯の根っこの周りや外側にも存在しています。したがって、神経を抜いた歯であっても、その周囲で痛みを感じることがあるわけです。
編集部
具体的に、何が原因で神経を抜いた歯が痛むのでしょうか?
郄井先生
神経を抜いた歯が痛む原因については、「歯の神経の治療期間中に生じる痛み」と、「治療後しばらくして生じる痛み」でそれぞれ異なります。
編集部
では、「歯の神経の治療期間中に生じる痛み」の原因で考えられるものを教えてください。
郄井先生
治療期間中に生じる痛みの多くは病的なものではなく、治療にともなう体の正常な反応であることがほとんどです。歯の神経の治療では器具で内部に触れたり、中を洗い流すために薬液を使用したりします。このような物理的・化学的な刺激が体に一時的な炎症反応を起こし、それが痛みや違和感となって表れるわけです。ただ、痛みの症状としては軽度なものが多く、治療後2~3日をピークに1週間程度で落ち着いていきます。
編集部
歯の神経の治療中に痛みが出るのは、それほど珍しいことではないのでしょうか?
郄井先生
治療をしていれば通常起こりうるものだと考えていいでしょう。ただし、低い確率ではありますが、治療後に「フレアアップ」という急性症状が起こり、激しい痛みや腫れが出ることもあります。しかし、これも正常な体の反応によって起こるもので、治療の不備が原因ではありません。痛みが出ると不安に感じてしまいますが、痛みがあるから治療がうまくいっていないということではないので、その点はご理解いただければと思います。
編集部
では次に、歯の神経の治療後、しばらくして歯が痛む原因で考えられるものを教えてください。
郄井先生
これには大きく2つの原因が考えられます。1つは「根尖性歯周炎」という、歯の根っこの先に生じる病気です。過去に神経の治療をした歯に起こりやすく、噛んだ時に歯が痛むほか、「歯ぐきが腫れる」「歯ぐきから膿がでる」「歯が浮いた感じがする」といった症状をともないます。もう1つは、物理的な衝撃で歯が割れてしまう「歯根破折」を起こしたケースです。神経を抜いた歯は抜いてない歯に比べて、歯が割れるリスクが5倍ほど高いといわれています。何かを噛んだ拍子にズキンと痛みだしたり、あるタイミングから急に歯が痛くなったりした場合は、歯根破折である可能性が高いといえます。
神経を抜いた歯が痛んだらすぐに受診すべき? 歯医者さんではどんな治療をする?編集部
神経を抜いた歯に痛みが出た場合、すぐに歯科を受診すべきでしょうか?
郄井先生
こちらも先の「歯の神経の治療中」と「治療後しばらく経過してから」の2つのパターンに分けてお話しします。まず、治療中の痛みに関しては治療にともなう正常な反応であることが多いため、軽度な痛みであれば基本的にそのまま経過を見ていただいて問題ないと思います。一方で、治療後かなり期間が経過している、あるいは歯が急に痛くなった場合は何かしらの問題が起こっているサインの可能性が高いので、できるだけ早めの受診をおすすめします。
編集部
神経を抜いた歯が痛んだ場合、歯科医院ではどのような対処・治療を行いますか?
郄井先生
歯の神経の治療中に強い痛みがあるケースについては、まず噛み合わせをチェックします。治療中の歯が強く噛んでいると痛みがでやすいので、その場合は噛み合わせを調整し、痛み止めなどを処方して様子を見ます。治療後しばらく経過して痛みが生じているケースについては詳しい診査・検査などで原因を特定し、それぞれの原因に応じた治療を行います。
編集部
その場合の具体的な治療法を簡単に教えてください。
郄井先生
根尖性歯周炎が原因で痛みが生じている場合は、歯の神経の再治療、いわゆる「再根管治療」が必要です。歯根破折が原因の場合は、どの程度歯が割れているかで対処が異なります。深い部分で割れてしまっている場合は、残念ながら歯が残せない(抜歯になる)可能性が高くなります。
神経を抜いた歯の痛みを防ぐには? 治療後の予後を安定させるポイント編集部
神経を抜いた歯の痛みを最小限に抑えるためには、どのような点に注意したらよいでしょうか?
郄井先生
今まさに治療中の方は、その期間中は極力その歯で噛まないようにしてください。治療中はとにかくその歯に刺激を与えない・触れないことが痛みを抑えるうえでは大切です。また、治療中はどうしても違和感や痛みを覚えやすいのですが、あまり気にしすぎると痛みに対する感受性が高くなります。したがって、気にはなると思いますが、極力意識せずに過ごしていただくのも大きなポイントだと思います。
編集部
治療中はできるだけ「安静にすること」が重要なわけですね。
郄井先生
そうですね。ただ、歯の治療のなかでも神経の治療というのは患者さんにできることが少ない、というのが正直なところだと思います。むし歯や歯周病の治療は患者さんの協力があって成り立つものですが、歯の神経の治療に関しては歯科医師サイドにゆだねられる部分が多いのが実状です。したがって、患者さんがコントロールできない分、歯科医の技量が治療の予後やその歯の寿命を大きく左右すると言えます。
編集部
そうすると、やはり初回の治療をどの歯科医院で受けるかも重要なポイントになるのでしょうか?
郄井先生
仰る通りです。歯の神経の治療に関しては、初回の治療を正確にしっかり行えば成功率が90%以上と高い一方で、そこで失敗してしまうと再発して痛みがでたり、再治療を繰り返したりしてしまいます。したがって、神経を抜いた歯の予後を安定させるうえでは、初回の「神経を抜く治療」をどれだけ正確に行えるかが大きなカギといえるでしょう。
編集部
痛みを繰り返さないためには、初回の治療で歯の神経の治療に精通した歯科医を見つけることも大切なのですね。
郄井先生
はい。神経のない歯の痛みに関しては、それが正常なものなのか、問題があるものかを見極めるのは、歯の神経の治療を専門にしている我々でも判断が難しいところです。その判断を誤ってしまった結果、必要のない治療をして問題がより複雑化してしまうケースも実は少なくありません。したがって、痛みが長引く場合は、歯の神経の治療を専門とする歯科医に相談してみるのも方法の1つだと思います。
編集部
最後に、読者へメッセージをお願いします。
郄井先生
歯の痛みは軽度のものから日常生活に支障がでるものまで様々ですが、どんな痛みにしろ「一刻も早く痛みを取り除きたい」というのが患者さんの切なる願いだと思います。一方で、歯の神経に関する痛みは思いのほか複雑で、適切な処置がなされない結果、かえって治りにくくなったり、治療が長期化したりしてしまうことも少なくありません。したがって、何度治療をしても痛みが引かない、治療した歯がすごく痛む場合は、歯の神経の治療に熟知した歯科医に相談してみることもぜひ検討してみてください。
編集部まとめ
神経を抜いた歯でも、様々な原因で痛みを生じることがあります。治療中の痛みに関しては体の正常な反応であることが多く、軽度な痛みであれば1週間ほど様子をみても問題がないようです。一方で、治療後しばらく経ってから痛みが出た場合は、歯に何らかのトラブルが生じている可能性があるため、時間を置かず早めに受診することが大切です。くわえて、繰り返し治療を受けても痛みが引かない場合は、歯の神経の治療に精通した専門医に一度相談してみましょう。
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