デンソーが全自動収穫ロボット『Artemy』(アーテミー)を欧州で受注開始 ミニトマト向け 自動運転とAIの技術を投入 実演デモを公開

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株式会社デンソーは、房取りミニトマトの全自動収穫ロボット『Artemy』(アーテミー)を共同開発し、欧州での受注を2024年5月13日より開始していることを発表した。「Artemy」はオランダのセルトン社と共同開発した全自動収穫ロボットで、ミニトマトに限らず他の果物へも応用できる。

デンソーは2020年にセルトンとの業務提携を発表、2023年にセルトンの全株式を取得して完全子会社化している。今回の『Artemy』はデンソーとセルトンとのプロジェクト第一弾となる。

デンソーは従来のクルマ産業主体の事業に加え、農業分野もビジネスの柱に成長させていきたい考えだ。その上で、カーエアコンの空調ノウハウを活かして「栽培環境の安定化」、自動化などモノづくり技術を活かした「人と技術の協働」、グローバルでの取り組みに繋がる事業拡大を念頭に「農業の工業化」を掲げた。

同社は6月19日に報道関係者向け発表会を開催し、株式会社アグリッドにある農業ハウス内で「Artemy」のデモを公開した。

「Artemy」のデモの様子
●全自動収穫ロボット「Artemy」の概要
「Artemy」は、セルトン社の持つ収穫ノウハウと、デンソーが持つ自動運転の要素技術が結集して完成した全自動収穫ロボット。まずはミニトマト用に開発を進め、今後は他の果物にも応用することができる。「Artemy」の基本的な構造は、自動運転の台車とデンソーウェーブ製のロボットハンドで構成されている。

●「Artemy」の機能と特徴
「Artemy」には大きく6つの機能があり、それぞれ大きな特徴となっている。「自動収穫」「自動レーンチェンジ」「収穫箱の自動交換」「収穫箱の自動移載」「ハサミの自動消毒」「LED補光下での収穫」だ。

●自動収穫と自動レーンチェンジ
収穫の際には自律でレーンを移動し、別のレーンに移るときは自動運転で移動する(その区間にはレーンなし)。

カメラとAIでトマトの成長を識別し、収穫の是非(熟度)を自動判別してハサミで切って収穫する。
●収穫箱の自動交換
収穫したトマトは収穫箱(トレー)に収納するが、トレーが一杯になったら所定のステーションに戻り、空のトレーと自動で交換することができる。

トマトの熟度を自動で判別し、適したものだけ収穫する
収穫したものはトレーにやさしく収容する
トレーが満杯になると自動でステーションに移動し、空のトレー群と交換する人の作業の場合、ミニトマトをひと房収穫するのに7〜9秒かかり、Artemyは約20秒程度かかる。作業自体はゆっくりではあるものの、ロボットは商品を慎重に扱い、かつバッテリー交換によって長時間の作業も可能となっているため、ひと房あたりの速度が多少遅いことは自動化によってカバーできるだろう。なお、交換式バッテリーでの稼働時間は約5時間(充電が約4時間)。

バッテリー交換の実演
●ハサミの自動消毒とLED補光下での収穫
トマトのウイルス感染に気を配る必要があるため、「Artemy」には自動でハサミを消毒する機構も装備している。また、LED補光による栽培環境の場合、LED光によって熟度判定が人でも難しいが、「Artemy」では光を当てて高精度な判定を行う機能も装備している。

LED補光環境でも熟度を正確に判別できる
●デンソーが持つ自動運転の要素技術を活用
デンソーが持つ自動運転の要素技術がふんだんに活用されている。「Artemy」の基本的な構造は、自動運転の台車とデンソーウェーブ製のロボットハンドで構成されている。

●欧州での価格は
欧州での価格は、セルトンによる販売とサポートとなることもあって公開されなかった。推測だが、地域やトマトの品種、施設によって自動運転や自動判別などのAI精度を調整する必要もあるので、現場に応じたカスタマイズが少なからず必要となり導入費用にも影響してくるだろう。
●主な諸元

●なぜ欧州から、なぜミニトマトからなのか?
なぜ欧州から、なぜミニトマトからなのか? 背景には気候変動など地球環境への将来的な懸念と、労働人口不足があるという。デンソーの上席執行幹部の向井康氏は次のように説明している。

向井康氏
2021年の国連の発表によれば、このままの状況で温室効果ガスを排出し続けた場合、 2040年までに+1.5度の気温上昇が見込まれます。この1.5度の基本上昇が人類に与える影響は甚大で、農業においても安定的に農作物を供給する土地が減少していく懸念があります。また、15歳から65歳までの労働人口の比較をみると、北米では2050年に向けて微増である一方で、日本では25%、欧州では15%の減少が見込まれています。欧州においても労働力不足が喫緊の課題となっています。

労働賃金も国際比較において、オランダ、フランス、ドイツといった西欧諸国が日本や北米に対して非常に高い。

これら相まって欧州における自動化のニーズがとても高く、「Artemy」の投入に至りました。


高度施設園芸の総面積を見ると、欧州の規模が最も大きく(下図の左)、欧州の中ではトマトの収穫面積が最も大きい(下図の中央)ことが、欧州のトマトにフォーカスした理由だと語った。

トマトの市場は世界的に見てもとても大きく、欧州でも大規模な農業施設が多く、労働規模も大きい点で「Artemy」供給に最適な市場と判断した。
●「欧州の反響と期待は大きい」
プロジェクトの担当部長の大原忠裕氏は欧州での世界最大の施設園芸展示イベント「Greentech」に「Artemy」を展示した際の感触を紹介した。「来場者は昨年の11,000人から12,000人と9%増で、セルトンブースも従来よりも来場者が多く、特に「Artemy」に注目集まっていました。他社は単独で農業ロボット開発を行う中、セルトンとデンソーの専門性を掛け合わせた共同開発製品であることが特長的、との好意的な反応がありました」と語った。

また、フランスのトマト生産者の「自動レーンチェンジ、収獲箱の自動移載・交換が先進的。自動収獲後に直接収獲箱に収獲トマトをゆっくり置くところは、トマトに与えるダメージがなく好印象」というコメントと、英国の生産者の「収穫作業などは、季節労働者スキームで収獲作業者を受け入れていたものの、EU離脱以降、外国人労働者の流入が減少し、労働力の確保が大きな問題。Artemyの人とロボットの協働コンセプトに共感」というコメントを紹介した。また、多くの問合わせがあったこともあり、商品受注開始とサービスインに至ったという。

●デンソーは「生産」「物流」「消費」の社会課題に挑む
経営役員の横尾英博氏は、発表会の冒頭で、同社が日本の抱える多くの課題の中で「生産」「物流」「消費」にフォーカスして、特に「食農分野」にも取り組むこと、そのために企業としては3つのチャレンジを行うことを紹介した。