彼らは何があっても上司や妻に逆らわず、ダメ出しに耐えて耐えて耐え抜いています。キャバクラで酔っぱらっているときくらい好きなだけダメ出しをさせてあげましょう。「そうですね……」とシュンとしておくのがこの場では正解です。

◆そして始まる英会話
 
 おじさんは「常に自分自身をブラッシュアップすることが大切」と言いました。彼曰く、おじさんは週1回、英会話教室で駅前留学をしているそうです。

「Do you speak English?」

 唐突に英会話が始まりました。おじさんのいう通りで、新しいことにチャレンジするのは素晴らしいことです。だいたいの大人は照れたり、諦めたりして新しいことにチャレンジできないものです。ボクシングにチャレンジしているホリエモンを笑うおじさんおばさんの多いこと多いこと。

 しばらくルー大柴おじさんの英会話に付き合ってあげました。するとおじさんは、しんみりした顔で「俺も昔は銀座で飲んでいたんだ」と話し始めました。

◆お説教おじさんの正体
 
 以前は銀座で飲んでいたと話すおじさん。総合商社の営業マンとして活躍していたそうですが、ストレスと過労で体調を崩し、退社を余儀なくされました。それ以降は派遣のお仕事で食いつないでいたそうです。近頃では派遣のお仕事にも就けず、実家の世話になりながら再起の機会を狙っているとのことです。

 おじさんは「ゆくゆくは同時通訳の仕事がしたい」と言いました。なるほど。お前、他人(私)の心配している場合じゃないだろ。

 怒っている人をよく観察すると、彼(彼女)のコンプレックスの正体が見えてくることがあります。例えば、容姿や学歴、職歴、預貯金の額など。容姿に自信の無い人ほど「あの人は整形だから」と言って喜んだりするものです。

 おじさんの場合は明らかに「将来に対する不安」でしょう。

 彼は誰よりも「これからどうするつもり?」と言われてきたはずだし、自身にも問いかけ続けてきたはずです。安キャバのヘルプ以上に、子ども部屋おじさんのストレスのはけ口にちょうどいい対象ってありませんよ。しかし、そこで得られる快楽こそ超危険。

 駅前留学で“ゆくゆくは同時通訳の仕事”ができるレベルまで語学力を向上させるには何年かかるだろう、などはいったん横に置いておくとしても、少なくとも「こんな将来性の無い仕事をいつまで続けていくつもり?」と、どうでもいいキャバ嬢の心配をしている場合ではありませんので。

◆おじさんを癒やす魔法の「さしすせそ」

 今回は、激安キャバクラで私が出会った「お説教おじさん」について書いてみました。都落ちしたような気分で求職活動に励み、かつての自分を眩しいもののように感じているのは彼自身でした。

 しかしキャバ嬢は「他人の心配してる場合じゃないよ」と、わざわざおじさんを叱ってくれるほど親切でも優しくもありません。だってキャバ嬢なので。

「さすが〇〇さん!」「知らなかった!」「すごい……よく頑張りましたね」と、魔法の言葉であらゆる不安も、向き合うべき諸問題もいったんは無かったことにしてくれます。酔いがさめてしまえば、年老いた両親と暮らす無職の子ども部屋おじさんなんですけどね。南無。

 全てのお説教おじさんに幸あれ。終電を逃してしまったのか、駅前のコンビニのイートインスペースでカップ麺をすすっている彼の背中に心の中で手を合わせました。

<文/みずえちゃん>

【みずえちゃん】
1989年生まれ。新潟県長岡市出身。関西外国語大学卒業後、大阪市内の広告代理店に勤務する傍ら、キャバ嬢デビュー。結婚、離婚、地方の激安キャバクラを経て、現在は銀座ホステスとライターを兼業。X(旧Twitter):@mizuechan1989