日本超える魚大国で人気「ポップすぎる」イワシ缶
ついつい手が出るバラエティ豊かなポルトガルの魚介缶詰(写真:筆者撮影)
ニッポンは魚食大国。それに対して、欧米人は魚をあまり食べないと思っていませんか?
実は日本以上に魚介類の消費量が多い国々があり、その1つが筆者の住むポルトガルです。
実は「魚好き」なポルトガル人
実際、ポルトガル人は大の魚好きで、例えばポルトガル人のソウルフード「バカリャウ(塩蔵した干タラ)」のレシピは、毎日違う方法で食べられるよう365通り以上あるんだとか。
イワシも人気で、毎年6月には丸ごと炭火焼きにしたイワシの露店が街中に現れる通称「イワシ祭り」がリスボンで開催され、1日100万匹以上のイワシが消費されるそうです。
【写真】ポップでかわいい魚介類の缶詰の数々。イワシ缶とは思えないポップなアメコミ風のパッケージ、缶を包むレトロな包装紙など(10枚)
さらに「西洋人は気持ち悪がって食べない」などとまことしやかにいわれるタコやイカ、アンコウも定番の食材ですし、あん肝やたらこも人気があります。
そんな世界屈指の魚食大国ポルトガルでは、魚介類の缶詰が根強い人気で、近年は「再ブレイク」と呼びたくなるほど、世界中の人たちから注目を浴びているのです。
なぜここにきて、ポルトガルの缶詰に熱視線が集まり、ブームになっているのか。世界100カ国以上の現地在住日本人ライターの集まり「海外書き人クラブ」の会員が、その謎に迫ります。
「パッケージ」がとにかくかわいい!
古くからあるイワシ缶。そのパッケージはよく言えば伝統的ですが、別の言い方をすれば、ありふれていて古臭いものでした。
ところが、そのレトロさが若者には逆に魅力に映るよう。かわいいスイーツやドリンクに匹敵する華やかさで、情報サイトやSNSで取り上げられています。
缶を包むレトロな包装紙がかえって新鮮に(写真:筆者撮影)
例えば、リスボンで1930年に創業した老舗缶詰店「コンセルヴェイラ・デ・リズボア」の包装紙は、そのレトロさがかえって新鮮に。一方、「ザ・ファンタスティック・ワールド・オブ・ポルトギーズ・サーディン」という新ブランドとして売り出された、別の老舗魚介缶詰メーカーの商品のパッケージは、ポルトガルの街並みやアメコミ風イラストを採用したり、また金塊のようであったりと、とてもユニークです。
イワシ缶とは思えないポップなアメコミ風パッケージ(写真提供:The Fantastic World of the Portuguese Sardine)
同ブランドのマーケティングディレクターのソニア・フェルゲイラさんによると、これらのインパクトのあるパッケージは、単に奇抜さを狙ったのではないとのこと。
「伝えたいのは、ポルトガルが誇る魚介缶詰の歴史や伝統、情熱などのストーリーですが、消費者は常に心の琴線に触れる新しい体験を求めています。だからこそ、私たちのブランドもこれまでの缶詰のイメージを払拭するような、ポップでカラフルなものにしているのです」と、こだわりの理由を説明してくれました。
ニューヨークのタイムズスクエアにも出店を果たすなど、注目の高さを鑑みると、その戦略は大成功のようです。
健康志向で現代人の生活にマッチ
見た目のかわいさで再注目された魚介缶詰ですが、同時に栄養価の高さや利便性も、健康志向で忙しい現代人の生活にぴったりだと改めて見直されています。
確かに、イワシ缶やサバ缶にはファストフードなどでは摂りにくいDHAやEPA、ミネラルやビタミンが豊富に含まれています。
常温で日持ちするうえ、そのまま食べられて、持ち運びも簡単。ほとんどが食べ切りサイズであることもうれしいポイントです。しかも値段は比較的手頃で、1ユーロ(約166円。2024年5月現在)以下で購入できるものもあります。
ストックしておけば、すぐにヘルシーな食事になりますし、また、ピクニックなどアウトドアのお供にもぴったりです。
見た目や利便性もですが、やっぱり味も大事。そういう意味では、ポルトガルの魚介缶詰は近年、中身も進化しています。
一昔前までは魚介缶詰というとイワシを単にオリーブオイルに漬け込んだだけの「オイルサーディン缶」が主流でした。しかし今は、オイルの品質や味付けなどにも一工夫し、そのまま料理として楽しめるものが続々登場しています。「缶つま」などが人気の日本と状況が似ているかもしれませんね。
スーパーを覗いてみましょう
では、この辺でスーパーを覗いてみましょう。
大型スーパーでは、棚1列すべてが魚介缶詰で埋め尽くされていることも珍しくありません。イワシ、タラ、サバ、ツナ、サケ、タコ、イカ、ムール貝、ホタテ、エイ、タラコ……など、さまざまな魚介缶詰が並んでおり、そのフレーバーもさまざまです。
さらに、ツナとケイパー、ツナと黒目豆、バカリャウとひよこ豆など、魚介+αの商品もあり、また各種パテも揃っています。
スーパーの魚介缶詰売り場(写真:筆者撮影)
いろいろと買い込んで試食したなかで、筆者がおすすめしたいのは「バカリャウとひよこ豆のオリーブオイル漬け」。365以上あるというバカリャウ料理でも定番中の定番です。レタスやきゅうりなどと合わせてサラダにしてもいいですが、このままおつまみとして食べても高レベル。さわやかな白ワインにもぴったりです。
さらに、ちょっとした工夫でおしゃれな「アレンジレシピ」が楽しめるのも、缶詰人気が高まっている理由の1つといえます。
アレンジレシピを楽しもう!
ポルトガルでは、缶詰メーカーはもちろん、インフルエンサーや有名シェフたちも、こぞって自宅で楽しむ魚介缶を使った時短レシピをSNSなどで紹介しています。その1つ、人気のイワシ缶アレンジレシピ「オイルサーディンのタルティーヌ」を紹介しましょう。
タルティーヌとは、スライスしたパンにいろいろな具材をのせたフランス式オープンサンドイッチのこと。ポルトガルでは、パンにイワシを挟んだだけのサンドイッチが庶民の軽食として浸透していますが、イワシ缶のタルティーヌは簡単で安価なのにもかかわらず、洒落た印象を狙える一品です。
ライ麦や全粒粉などの重めのパンの上に、チーズやアボカドなどクリーミーな材料を敷き、オイルサーディンとトマト、きゅうり、玉ねぎなどさっぱりとした野菜を載せて、ハーブやスパイス、レモンなどで味を引き立てます。
早速、家にある材料で作ってみました。
パンにリコッタチーズを塗り、オイルサーディンを載せたら、その上にミックスピクルス瓶に入っていたカリフラワー、パールオニオン、にんじん、レッドペッパー、ザワークラウト(ドイツのキャベツの酢漬け)、ガリ(生姜の甘酢漬け)、セロリ、焼いたししとう、パクチーなどを適当に重ねました。
オイルサーディンに各種酢漬けを合わせたタルティーヌ(写真:筆者撮影)
食べてみると、さっぱりとした酢漬が利いていて、おいしい! 特にザワークラウトとパクチーが抜群に合います。フレッシュなポルトガルの緑のワインやハイボールがほしくなりました。
タルティーヌのおいしさに気をよくして、もう1つ温かいメニューにも挑戦してみます。
参考にしたレシピは、缶詰メーカー「ボン・ペチスコ」のオフィシャルサイトに掲載されていた「トマトとケージョ・ダ・イリャ(地元のハードチーズ)のおつまみ」。
にんにく、ローリエ、シナモンスティック、クローブで風味を付けた角切りトマトとポルトガル産のハードチーズを、トマト味のサーディン缶に載せてオーブンで焼き、グラタン風に仕上げます。
早速作ってみたのですが、溶けたチーズが食欲をそそります。子供からも「おいしそう〜」との声が上がりました。
熱々のサーディン缶入りミニグラタン(写真:筆者撮影)
缶に入ったグラタンは見た目もかわいい
火傷しないように気をつけながら食べる熱々のおつまみもいいものですね。トマトとパセリのおかげで、意外とあっさり食べられます。キリッと冷やした白ワインはもちろん、ロゼワイン、ラガーやペールエール系のビールも合いそうです。
缶に入ったミニグラタンは見た目もかわいいので、きっと喜ばれるはずです。
見た目はかわいく、中身もおいしい。さらにほんの一手間で完成するアレンジメニューも無限大。筆者もすっかりファンになったポルトガルの魚介缶詰。日本でもインターネットや輸入食品ショップなどで購入可能なので、みなさんもぜひ一度ご賞味くださいね。
(東 リカ(海外書き人クラブ) : ポルトガル在住ライター)