F-16戦闘機が「いるだけ」でロシアは黙る!? ウクライナへ供与目前 空を一変させるその意味
ウクライナで実戦投入が目前に迫るF-16戦闘機は、空対空戦闘だけに長けているわけではありません。実は「HARM」と呼ばれる対レーダーミサイルが運用できるのも大きなメリットです。
F-16は空対空以外にも使える戦闘機
2022年より続くロシアによるウクライナ侵攻は、地上戦に焦点が当たりがちですが、その一方で航空優勢の獲得という、戦争の勝利を左右する重要な要素が「宙ぶらりん状態」にあるという特異な状況を呈しています。
地上戦において圧倒的な打撃力を発揮する航空攻撃は、まさに現代戦における必須要素と言えるでしょう。しかしながら、ウクライナとロシアは互いの強力な地対空ミサイル網を前にして、積極的に航空機を運用できない状況に陥っているのが現状です。この膠着状態こそが、長期化する戦局の一因になっているとも言えます。
しかし、ここに待望の救世主が現れるかもしれません。アメリカ製の戦闘機F-16「ファイティングファルコン」の登場です。
アメリカ空軍のF-16「ファイティングファルコン」。赤い矢印で指し示したものが対レーダーミサイル「HARM」(画像:アメリカ空軍)。
まもなくウクライナ空軍が手にすることになるF-16は、単なる空対空戦闘能力に長けた軍用機ではありません。その真骨頂は、敵軍の地対空ミサイルを無力化できる能力にあります。
敵防空網に対する攻撃の中核となる攻撃兵装AGM-88「HARM(高速対レーダーミサイルの英略)」を最大限に活用するため、F-16にはAN/ASQ-213「HTS(HARMターゲティングシステム)」というアビオニクス(電子機器)がエアインテークの側面に搭載可能です。
「HARM」は、その名の通りレーダー電波の発信源を逆探知し誘導を行う空対地ミサイルです。
MiG-29とF-16では「HARM」の相性が段違い!
「HARM」は既にウクライナへ供与されており、既存のMiG-29戦闘機などに搭載し運用されていることが明らかになっていますが、ロシア製のMiG-29とアメリカ製の「HARM」では本来、システムの互換性はありません。そのため、おそらく既に位置が判明しているレーダー電波発信源、たとえば固定式陣地を構築する必要がある長射程地対空ミサイルS-300などに攻撃する、というような限定的な使い方しかできていないのではないかと筆者(関 賢太郎:航空軍事評論家)は推測します。
しかし、「HTS」を搭載したF-16であれば、レーダー電波を逆探知することで、収集した電波情報を蓄積・共有している「電波情報ライブラリー」から詳細情報を得られるほか、その発信源位置を特定することまで可能です。
翼端にAIM-120中射程空対空ミサイル、主翼下にAIM-9短射程空対空ミサイル、その右隣に「HARM」をぶら下げたF-16戦闘機。3種類のミサイルの中で明らかに「HARM」が大きいのがわかる(画像:アメリカ空軍)。
たとえば、ロシア軍が移動可能な中型の「ブーク」地対空ミサイルを隠蔽し、F-16を待ち伏せしていたとします。ほかのレーダーサイトなどからF-16飛来の報告を受けた「ブーク」がこれに奇襲をかけるためレーダーを起動しF-16を照準した場合、その瞬間にF-16の「HTS」は探知します。
これによって自らの位置を暴露した「ブーク」は、逆に「HARM」に対して照準情報を与えてしまい、F-16の攻撃に晒されることになります。
「ブーク」を始めとした地対空ミサイル側が「HARM」から逃げるには、「HARM」そのものを撃墜するかレーダー電波を停止し即時移動しなくてはなりませんが、「HARM」は高速対レーダーミサイルの英略どおり高速で飛んでくるため、避けるまでの時間が極めて短いのです。
加えて、その推定射距離は100kmと、一部の大型地対空ミサイル以外はほぼ上回るほどリーチも長いため、F-16に対して攻撃をしかけるのは反撃されるリスクを覚悟し、場合よっては諦める必要があるでしょう。
「HARM」撃てるF-16がいるだけで疑心暗鬼に
F-16と「HARM」そして「HTS」の組み合わせは、この「相手にレーダーOFFを強制させる」という点において白眉なのです。ゆえに、地対空ミサイルを使わせないミッションを「SEAD(敵防空網制圧)」と呼び、短い時間に限った航空優勢を確保することができます。これによって、自衛だけではなく他機が行う航空作戦の遂行を助けることも可能です。
ちなみに、永続的な航空優勢確保のために相手を物理的に破壊してしまう作戦を「DEAD(敵防空網破壊)」と呼びます。基本的には「SEAD」と変わりません。
対レーダーミサイル「HARM」のターゲティング装置である「HTS」(画像:アメリカ空軍)。
「HTS」で得た位置情報は「HARM」よりは遅いものの、威力において数倍上回るその他巡航ミサイルやGPS誘導爆弾といった兵装でも使用することが可能なため、こうした強力な兵装はレーダーを無力化した後に、指揮車や発射機などを攻撃するのに適します。
F-16導入がウクライナの戦局にどのような影響を与えるのか、現時点では断言することはできません。しかし「F-16が存在する」という事実があるだけでも、これまでとは違いロシア側に地対空ミサイルを無闇に使えなくする効果を発揮します。そのため、たとえ少数機であったとしても、ロシア側は大きな脅威として見なすことは間違いないでしょう。