納得の2024年本屋大賞受賞! 成瀬あかりの孤高の姿に皆ひれ伏せ!!--『成瀬は天下を取りにいく』
誰の目も気にせず、誰にも忖度せず、唯我独尊、己の信じた道をひたすら突き進む。強靱な魂と鋼のメンタルを持つ者だけしか到達しえない境地ーーそれが”孤高”。そんな存在に憧れたことはないだろうか? 私はある。
「島崎、わたしはこの夏を西武に捧げようと思う」。あまりにキャッチー過ぎる一文が話題になり、2023年の発売より重版を重ね、2024年「本屋大賞」を受賞した『成瀬は天下を取りにいく』(宮島未奈・著/新潮社・刊)の主人公・成瀬あかりもそんな”孤高”なひとりだ。
本作はそんな、成瀬あかりの“他人とは違う”日常を、滋賀県大津市のローカルなネタを交えつつ展開する連作短編集である。
“孤高”であり“異端”--成瀬あかりの魅力とは?
孤高のキャラというのは、人生の目標が決まっており、そこに向かって脇目もふらず猪突猛進する人たちが多いように思う。その視野の狭さとベクトルの大きさに我々は惹かれるのだろう。
成瀬あかりは“200歳まで生きること”が目標だが、人生のすべてをそこに収斂させているわけではない。世の“孤高”キャラとの違いは下記の一文でもよくわかる。
「やってみないとわからないことはあるからな」
成瀬はそれで構わないと思っている。たくさん種をまいて、ひとつでも花が咲けばいい。花が咲かなかったとしても、挑戦して経験はすべて肥やしになる。『成瀬は天下を取りにいく』より引用
「とりあえず、夏休みを西武に捧げてみる」「とりあえず、お笑いの頂点目指してみる」「とりあえず、入学式に丸刈りにして卒業式まで延ばしてみる」。どうだろうか、 このフットワークの軽さとやってみたいことの破天荒さは! この多角的な視野こそが彼女の違いであり魅力なのである。
味のある“普通”の人たち
本作は、成瀬の行動に巻き込まれるいわゆる”普通”の人たちも多く登場する。彼らと成瀬の取れているかいないか微妙なコミュニケーションによって物語が動いている。
島崎みゆきは、自称「成瀬と同じマンションに生まれついた凡人」。「成瀬あかり史の観察者」として、成瀬が西武大津店に毎日行けば、なんとなく付き合って、一緒にライオンズのユニフォームも着てテレビに映ったり(毎日ではない)する。成瀬がM-1グランプリに出場すると宣言したら、相方としてきちんとネタまで一緒につくる。まさにバディといえる存在だ。そのコミュニケーション能力の高さは“普通”とは違うが「わたしは、しぶしぶ付き合ってるってことにしていい」と、他人の目が気になる小市民的な発言をするあたりにシンパシーを感じる。
「線がつながる」に登場する大貫かえでは、島崎みゆき以上に、読者(普通の人)との視線が近く共感できるキャラクターだ。彼女は小中高と成瀬と一緒だが、「基本的には成瀬とは関わりたくない」というスタンスで生活を送っている。悪目立ちしたくないし、可もなく不可もなく“普通”でいたいからだ。ただ、成瀬からは「やはり大貫は何か違う。面と向かってこんなこと言ってくれるのは大貫しかいない」と、好かれてもいるし、信頼も置かれている。ふたりのツンデレ(ほぼツンだが)な関係性には見ていてキュンとすること請け合いだ。
彼女は何を考えているのか?
“孤高”の人が何を考えているかは、基本、我々には理解できないし、描かれないことが多い。“孤高”を“異物”として描き、普通の人間が彼らに振り回されることで物語が動き出すからだ。
しかし、著者は最後の「ときめき江州音頭」において、成瀬の視点で物語を進める。凡人には計り知れない思考回路で動いていると思っていた成瀬が、じつは、我々と同じような感情に揺れることを知ったとき、読者はさらに成瀬のことを好きになり、憧れがより深まっていく。
成瀬あかりのことを知れば、誰もが魅了され、憧れ、そして「自分は違う」と少し落胆する。しかし、彼女の「やってみないとわからないから、たくさん種をまく」というスタイルに少しでも感化されれば、いままでとは違う生き方ができるかもしれない。
第2作『成瀬は信じた道を行く』も刊行され、著者によれば、シリーズ3作目刊行予定とのこと。成瀬をまだ知らない人たちは、ぜひ手に取って、成瀬あかりにひれ伏して欲しい。
【書籍情報】
成瀬は天下を取りにいく
著者:宮島未奈
発行:新潮社
2020年、中2の夏休みの始まりに、幼馴染の成瀬がまた変なことを言い出した。コロナ禍に閉店を控える西武大津店に毎日通い、中継に映るというのだが……。M-1に挑戦したかと思えば、自身の髪で長期実験に取り組み、市民憲章は暗記して全うする。今日も全力で我が道を突き進む成瀬あかりから、きっと誰もが目を離せない。発売前から超話題沸騰! 圧巻のデビュー作。
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