トヨタ、マツダ、スバルの3社のCEOとCTOが勢ぞろいし、次世代エンジン開発について説明した(写真:トヨタ自動車

今年1月に開催された東京オートサロン2024でトヨタ自動車の豊田章男会長は「敵は炭素でありエンジンではない」と話し、カーボンニュートラル実現に向けた現実的な手段としての次世代エンジン開発を宣言した。

あれから約4カ月。トヨタ、マツダ、SUBARU(スバル)の3社は共同で「マルチパスウェイワークショップ」を開催した。会場には3社のCEO(最高経営責任者)、CTO(最高技術責任者)らが一挙集結。目指す未来の内燃エンジンのあり方について、それぞれにプレゼンテーションを行った。

マルチパスウェイと謳っているように、3社は内燃エンジンだけにフォーカスしていくわけではない。ただし、カーボンニュートラル実現の手段がBEV(バッテリーEV=電気自動車)だけに限定されず、内燃エンジンと電気モーターを組み合わせたHEV(ハイブリッド車)、そしてPHEV(プラグインハイブリッド車)が今後も大きな役割を担うことになるのも間違いないだろう。

これらは確実にCO₂排出量を低減していけることになるし、将来的にe-フューエルや水素を燃料にすれば、容易にカーボンニュートラルを実現できる。この3社は、自動車レース「スーパー耐久シリーズ」への参戦などを通じて、まさにそうした志を共有する存在なのだ。

共同開発ではない3社それぞれの宣言

しかしながら、今回のワークショップは3社の共同研究のプロジェクトでもなければ、共通化の話でもない。それぞれのメーカーが、それぞれの視点で求める未来のエンジンの開発を宣言するものだった。

共通するのは、HEVやPHEVなど電動ユニットと組み合わせることが前提であること。従来エンジンからの小型化を志向していることも、その一環と言っていいだろう。

結果として3社から提示されたものは、それぞれ極めて個性的、独創的なものばかりとなった。現地でプレゼンテーションを受けた順番で、3社を紹介していこう。


スバルは次世代ハイブリッドシステムを搭載したクロストレックのプロトタイプを展示した(写真:トヨタ自動車

2030年にはBEV比率を50%まで高めると宣言しているスバル。言い方を変えれば、その時点でも50%はHEVやPHEVなどの内燃エンジンを使うことになるが、もちろんそれは今のままというわけにはいかない。では、どうするか。

展示していたのは、近日登場予定の「クロストレック ハイブリッド」だった。このクルマが象徴していたのは、今後も伝統の水平対向エンジン、そしてシンメトリカル(左右対称レイアウトの)AWDを使っていくということだ。コンパクトで特に前後長の短い水平対向エンジンも組み合わされるハイブリッドシステムはトヨタから供給されるTHS(トヨタハイブリッドシステム)である。

冷静に考えれば、水平対向エンジンは熱効率にハンディがあり燃費向上が難しく、ドライブシャフトで後輪に駆動力を伝えるAWDは、e-アクスルを使った電動AWDに効率性で敵わない。


スバル伝統の水平対向エンジンにトヨタのハイブリッドシステムを組み合わせた(写真:トヨタ自動車

新しい水平対向エンジンの開発も視野に

藤貫哲郎・取締役専務執行役員CTOによれば「しかし、これらアイデンティティを手放しても、スバルはスバルらしくいられるのか。商品は独自性、エモーションという部分も考慮しなければならない」と考えたときに、答えは決まったという。このハイブリッドシステムは今秋発売の新型フォレスターにも搭載される。

さらに将来に向けては、新しい水平対向エンジンの開発も視野に入れているという。冷間始動時の燃費悪化に繋がっているエンジンの暖まりの遅さは、例えば大容量のバッテリーを積んでいれば、その電力を使ったプレヒーティングなども考えられる。電動化で欠点をうまく潰せば、サイズが小さくエンジン回転が滑らか、シンメトリカルAWDを低コストに構築できる水平対向エンジンには、まだ勝機がある。スバルはそう踏んでいるのである。


開発中の1.5L直列4気筒エンジン(写真:トヨタ自動車

続いてはトヨタ。発表したのは大幅なコンパクト化を図った直列4気筒ガソリンエンジンだが、驚いたのは会場に、すでにそのエンジン自体が展示されていたことだ。

コンセプトは、BEVを起点にPHEV、HEVを考えた際に必要な内燃エンジン。例えばBEVにおいては、薄型バッテリーや小型化した空調ユニットなどを使い、BEV最適設計を推し進めれば、フードが低くスタイリッシュなクルマを作りやすくなる。昨年の「JAPAN MOBILITY SHOW 2023(モビリティショー2023)」でお披露目された「レクサスLF-ZC」が、まさにその具現化された姿だ。

トヨタが考えているのは、従来のように内燃エンジン車を起点に電動車を考えるのではなく、その逆。こうしたパッケージングなどのメリットを最大限に活かしながら、航続距離や充電インフラ不足といったBEVの弱点を、内燃エンジンで補うクルマである。そのためには電動ユニットとの組み合わせを前提に、BEV用の車体にも搭載できる小型エンジンが必要だ、というロジックだ。

新エンジンでは大幅な小型化を実現

そんな背景から開発されているエンジンは1.5Lの自然吸気とターボ、そして2.0Lターボの3種類の直列4気筒ユニットである。いずれもショートストローク化によって全高を抑えており、1.5L自然吸気エンジンは既存の直列3気筒1.5Lに対して体積、全高をそれぞれ10%低減。1.5Lターボは同等の出力となる現行2.5Lに対して、やはり体積を20%、全高を15%も低減している。


現行の1.8Lエンジンを新型1.5Lに置き換えた場合の違いがわかりやすく示されていた(写真:トヨタ自動車

会場には現行「プリウス」の1.8Lエンジンを、この新型1.5Lに置き換えたモデルも置かれており、見ればどれだけエンジン高が下がるか、つまりボンネットを低くできるかは一目瞭然だった。LF-ZCの極端に短く、低いボンネット内にも、確かにこれなら収まるかもしれない。

実はエンジン単体で使うことも排除されてはいない。将来、エネルギーが電気と水素に収斂したならば、電気はBEVに使い、水素はそのまま燃焼させて、もしくはCO₂と結合させてe-フューエルにして、内燃エンジンに使えばカーボンニュートラルへの道が容易になるとトヨタは見ている。新車の20倍とも言われる現保有車の存在を考えれば、この道も重要だ。


開発中の2.0L直列4気筒エンジン(写真:トヨタ自動車

この日に先立って筆者は、この新型エンジンのうち2.0Lターボ仕様を載せたテスト車両2台を運転することができた。1台は「レクサスIS」に積まれたものでスペックは最高出力400PS、最大トルク500Nm級。もう1台はピックアップで、同300PS、400Nm級のスペックに新型6速MTを組み合わせていた。

短時間の試乗でも、前者のアクセル操作に対するツキの良さと高回転域の伸びの良さ、後者の豊かなトルク感は十分に実感できた。実際、1台のエンジンでスポーティセダンからピックアップまでカバーする適応力を持っているわけだが、実はバックヤードにはモータースポーツユースまで意識した600PS級の仕様も展示されていた。

技術的ブレークスルーの可能性

気になるのはショートストローク化のレシピである。一般的にロングストロークのほうがエンジン内部のフリクションが少なく、また空気と燃料が混ざるための時間を稼げることから燃焼効率も高めやすい。いったいどんな技術で、これを実現しているのかについてプレゼンテーションを行った中嶋裕樹・取締役副社長CTOは明言を避けたが、間違いなく何らかの技術的ブレークスルーがあったはずだ。

ちなみに構造上、やはりショートストロークになるスバルの水平対向エンジンも、悩みは一緒である。実際、両社はこうした共通課題について、オープンに議論を行っているという。今回、3社が揃ってこうした発表を行ったのは、普段からの良好な関係性に拠るものなのである。


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マツダはロータリーエンジンを組み合わせたハイブリッドシステムを披露(写真:トヨタ自動車

マツダが披露したのはロータリーエンジンを組み合わせた2種類のハイブリッドシステムだ。そのうちひとつはすでに1ローターエンジンを発電専用に使ったもので、「MX-30 Rotary-EV」のものよりコンパクト化を図っているという。そしてもうひとつは縦置き2ローターシステム。モビリティショー2023でお披露目したスポーツカー「ICONIC SP」が想定していたのは、このシステムと見ることができそうだ。

ロータリーはサイズが小さく、軽く、高出力。補機類のレイアウトの自由度が大きいこともあり、革新的なパッケージングを実現できるポテンシャルが高い。一方で燃費が常に課題としてつきまとってきたのも事実だ。

それについて質問したところ中井英二・執行役員パワートレイン開発・技術研究所担当から「確かにロータリーエンジンの燃費は良くないが、パッケージングのメリットをうまく活かせば、それを十分相殺できると期待している」という率直な答えが返ってきた。実際、2ローターシステムの全高は非常に低く、これならフード高を下げて空力性能の大幅な向上が可能になる。

それだけでは……と言いたいところだが、ロータリーはスバルの水平対向と同じくマツダにとってアイデンティティであり、さらに言えばロマンなのだ。理由は効率だけではない。効率性の追求という面では、マツダには他に直列4気筒エンジンを用いたハイブリッドがあり、PHEV用には先述の1ローターユニットがある。この2ローターシステムは、ブランドのフラッグシップとなるようなモデルに使われることになるだろう。

内燃エンジンへの不安を解消

トヨタはすでに新型エンジンの開発を試乗できるところまで進めていたが、あとの2社についてはまだ開発を宣言したに過ぎない段階。それでもこうしたワークショップを開催した背景は何だったのか。実は、内燃エンジン関連のサプライチェーンへのアピールという部分も大きかったようだ。

近年、世間的には「将来、内燃エンジンはなくなるのではないか」という不安が渦巻いている。部品サプライヤーが、金融機関からの融資を受けにくくなっているという話もあるという。そうした将来への不安を解消して、ともに未来を作っていこうという意思。各社、まだ開発に着手したばかりという段階であえてこうしてワークショップを行った背景には、早い段階でそれを世間含めて共有しておきたいという思いもあった。

こうした話はすぐにBEVに否定的、内燃エンジンに固執といった論調に結び付けられがちだが、3社はすでにBEVをラインナップに用意しており、今後それを拡充していこうともしていることを忘れてはいけない。さまざまな選択肢を用意し、ユーザーも、サプライチェーンも、誰も置いていかない。冒頭に記したように、タイトルが内燃エンジン云々ではなくマルチパスウェイワークショップだったのは、そういう意味なのだ。

(島下 泰久 : モータージャーナリスト)