「未払賃金立替払」、倒産増で23年度は2万4,000人に大幅増
勤務する会社が倒産し、賃金が支払われないまま退職した人の「未払賃金立替払制度」利用が急増している。倒産増加が背景にあり、2023年度(4-3月)の支給者数は2万4,300人と前年度から約1万人増えた。率に直すと71.0%の増加だ。2024年度の倒産は11年ぶりの1万件ペースで推移しており、未払賃金の立替払制度の利用はさらに増えそうだ。
未払賃金立替払制度(以下、本制度)は、独立行政法人労働者健康安全機構が支払いなどの業務を手掛け、相談は労働基準監督署で受け付けている。
本制度は、1年以上事業活動していた企業に勤め、その企業の倒産日(中小企業は倒産の認定申請日も可)の6カ月前〜2年後までに退職し、未払賃金が残っている労働者が対象となる。
退職理由は、自己・事業者都合を問わず、支払われなかったボーナスを除く定期給与と退職金が未払賃金に該当する。立替払される金額は未払賃金の8割。退職日時点の年齢によって上限があり、30歳未満は88万円、30〜45歳は176万円、45歳以上は296万円だ。未払賃金が積み上がっても立替払を受けられる額に限度がある点は注意が必要だ。
労働者健康安全機構への請求期限は、倒産日(認定日)から2年以内。
労働者健康安全機構の「未払賃金立替払事業の実施状況の推移」によると、過去10年で最も多かったのは2014年度の2,573件で、支給者数は3万546人だった。その後は減少を辿り、コロナ禍では資金繰り支援で倒産が抑制されたこともあり、2021年度は872件、9,560人まで減少した。
だが、物価高や人手不足などで2023年度の倒産は9,053件(前年度比31.5%増)に増え本制度の件数(速報値)も2,132件と5年ぶりに2,000件台に乗せた。支給者も前年度から約1万人増の2万4,203人と急増した。
労働者の生活を守るセーフティネットとして本制度の重要性が増している。ただ、事実上の倒産認定が中小企業のみで、一定規模の企業破たんでは法的倒産が条件となっている。また、2002年を最後に立替払額の上限が変更されず、賃上げが進む時代に見合った金額への増額など、検討の余地は残されている。
働く人の権利と生活を守ることは経営者の条件だ。だが、不意に訪れる倒産への対応は後手に回ることもある。倒産増加と物価高への目配りも必要だ。
(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2024年5月31日号掲載「WeeklyTopics」を再編集)