大きく変わった新型フリード.(写真:本田技研工業)

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2024年5月に発表された新型フリード。6月に発売予定となっている(写真:本田技研工業)

ファミリーカーとして人気のミニバンの中でも、ホンダ「フリード」とトヨタ「シエンタ」は、全長を4m少々に抑えたコンパクトなボディによる運転のしやすさを特徴としたモデルだ。

一方、こうしたコンパクトミニバンが人気を得た背景には、クルマの値上げもある。2005年ごろまで、ホンダステップワゴン」やトヨタ「ノア/ヴォクシー」などのミドルサイズミニバンは、売れ筋グレードを200万〜230万円に設定していた。

ところが今は、ステップワゴンはハイブリッドではないガソリン車でも300万円を超える。


現行ステップワゴンは305万3600円〜(写真:本田技研工業)

エアロパーツを備えたハイブリッドの「スパーダe:HEV」は、約370万円だ。ノア/ヴォクシーもガソリン車の売れ筋グレードは約300万円、ハイブリッドとなると約340万円に達する。

このように、ミドルクラスミニバンの価格は、2005年ごろ比べて1.2〜1.5倍に上がっているのだ。

安全装備などの「標準装着」が増えた

値上がりの背景には、2つの理由がある。ひとつは衝突被害軽減ブレーキや運転支援機能といった先進安全装備の充実だ。たとえば、2005年に発売された3代目ステップワゴン


2005年にデビューした3代目ステップワゴン(写真:本田技研工業)

この世代では、LEDヘッドランプはまだ装着されておらず、横滑り防止装置(ESP)、サイド&カーテンエアバッグ、衝突被害軽減ブレーキ(CMS)、車間距離を自動制御しながら追従走行できるアダプティブクルーズコントロール(IHCC)などもオプションで、これらを合計したオプション価格は50万円近くに達していた。

こうしたアイテムがほとんど標準装着となったことで、価格が上がったのである。

【写真】新型フリードの内外装はどう変わった? シエンタの内装の様子も(20枚以上)

2つ目の理由は、昨今の原材料費やエネルギーコストの高騰だ。軽量化のための高張力鋼板の使用や、CO2排出抑制を目的とした環境/低燃費技術の採用が、価格をますます押し上げた。

先進安全装備の充実などを考えると、今のクルマが一概に割高とはいえない。しかし、ステップワゴンやノア/ヴォクシーが「乗り出し400万円」となれば、いかに安全で魅力的でも、出費の重なるファミリーユーザーが気軽に買えるクルマではないだろう。

そんなこともあって、コンパクトミニバンのフリードやシエンタが注目された。


世代(2代目)フリードは2016年からのロングセラーとなった(写真:本田技研工業)

ガソリン車であれば200万円台前半のグレードもあり、2005年ごろまでのステップワゴンやノア/ヴォクシーと同じ価格感で買えるためだ。

そんな中、2024年5月9日に8年ぶりのモデルチェンジとなる、新型フリードの内外装などが公開。翌日には、価格やWLTCモード燃費も明らかになり、販売店では予約受注を開始した。そこで、新型フリードの価格や燃費を詳しく見ていき、シエンタと比較したい。

ベース価格は233万900円から250万8000円に

新型フリードのグレード構成は、従来の標準ボディに相当する「エアー」と、SUVの「クロスター」に大別される。


左がフリード クロスター、右がフリード エアー(写真:本田技研工業)

エアーには3列シートの6人乗りと7人乗り、クロスターには6人乗りと、2列シートで荷室の広い5人乗りを用意。パワーユニットは、1.5リッターのガソリンエンジンと、それに電気モーターを加えたハイブリッドのe:HEVがある。

注目されるのは、その価格だ。近年のクルマは、前述の通り全般的に値上がり基調にあり、この3代目フリードも例外ではない。

従来型では、もっとも安価なG(6人乗りガソリン車)は、233万900円であった。それが新型では、同等のエア(6人乗りガソリン車)で250万8000円だと、17万7100円もの値上げとなった。ただし、新旧フリードを比べると装備や仕様が異なる。

従来型フリードGでは、サイド&カーテンエアバッグとLEDヘッドランプがオプション設定だったが、新型のエアーでは標準装着となっている。先進安全装備のホンダセンシングも、進化した。


フリード エアーEXのインストルメントパネル(写真:本田技研工業)

その一方で、従来型に標準装着されていた前席シートヒーターは、新型では上級グレードの「エアーEX」以上でないと付かない。ガソリンエンジンは、従来型は高コストな直噴式だったが、新型は一般的なポート噴射となっている。

これらを考慮すると、新型フリードのトータルの値上げ額は、10万円程度だろう。原材料費や輸送費用の高騰を考えると不自然な値上げ幅ではないが、ベースグレードが250万8000円というのは配慮に欠ける。

トヨタなら、249万8000円にしただろう。コンパクトな車種は買い得感が重視されるため、カタログ上の価格が250万円を超えるか否かで、ユーザーの受け取り方が変わるのだ。

ただし、必要な装備まで省いた低価格グレードは、ユーザーをダマすような狙いがあって好ましくないが、フリード・エアーがそのようなグレードではないことは伝えておきたい。


フリード エアーEX 6人乗りのシート(写真:本田技研工業)

なお、ホンダは2023年6月に、6車種を一斉値上げしている。このとき「ヴェゼル」で売れ筋の「e:HEV Z 2WD」を、従来の288万2000円から300万1900円に変更した。

わずか1900円であるが、300万円を超える価格は高価に見えてしまう。今のヴェゼルはさらに値上げされ、e:HEV Z 2WDは319万8800円に達している。ホンダは、もう少し価格設定に慎重になったほうがいいのではないか。

主力グレード「エアーEX 6人乗り」の中身

話を新型フリードに戻すと、販売の主力はエアーの上級に位置する「エアーEX 6人乗り」だ。

エアーの装備に加えて、後方の並走車両を検知して知らせるブラインドスポットインフォメーション(BSI)、リアクーラー、アルミホイール、本革巻きステアリングホイール&ATシフトノブなどが加わり、シート生地も上級化する。


天井部分に備わるリアクーラー(本田技研工業)

これらの装備を加えて、エアーEX 6人乗りの価格は269万7200円だ。追加装備を価格換算すると21万円相当になるが、価格アップは18万9200円だから、エアーEXは少し買い得感がある。

それでも269万7200円という価格を先に挙げた2005年当時のホンダ車に当てはめると、「オデッセイ アブソルート」という3代目オデッセイに設定された2.4リッターエンジン搭載の最上級グレードに近い。従来の感覚でいえば、コンパクトミニバンの価格帯を超えている。

フリードに新たに設定されたクロスターは、ボディにブラックの樹脂製パーツを装着し、SUV風の外観としたもの。


スライドドア車として初となる樹脂製フェンダーが特徴的(写真:本田技研工業)

樹脂製フェンダーにより全幅は1720mmに拡幅されて、3ナンバー登録となる。ルーフレールやLEDフォグランプも、独自の装備だ。

クロスターの価格は、ガソリン車の6人乗りで285万6700円だから、エアーEXを15万9500円上まわる。外装パーツなどの追加を考えると妥当な価格アップだが、ガソリン車で285万円を超える価格は、コンパクトミニバンではかなり高い。

ガソリン車か? ハイブリッドか?

ハイブリッドのe:HEVは、ガソリン車を34万9800円上まわる。この価格差そのものは“ハイブリッド代”としては割安な部類だが、「e:HEVエアーEX 6人乗り」が304万7000円、「e:HEVクロスター 6人乗り」は320万6500円で、いずれも300万円を超えてしまう。

なお、燃費や静粛性などに優れるハイブリッドのe:HEVを検討する際は、ガソリン車に比べて2列目シートに座る乗員の足が、運転席/助手席の下に収まりにくいことを覚えておいてほしい。


ディーラーで試乗の際は2/3列目にも座ってみることをおすすめする(写真:本田技研工業)

運転席/助手席シート下に2列目乗員の足が収まりづらいと、その分だけ2列目シートのスライド位置を後方にさげることになる。すると、3列目シートに座る乗員に、そのしわ寄せがくる。多人数乗車時の快適性を重視するなら、1列目の下に足が入りやすいガソリン車が好ましい。

WLTCモード燃費は、主力グレードになるエアーEX 6人乗りのガソリン車が16.4km/L、e:HEVは25.4km/Lだ。レギュラーガソリンの価格を160円/Lとすると、“ハイブリッド代”となる34万9800円の価格差を取り戻せるのは、9万〜10万kmを走ったころとなる。

ただし、e:HEVはモーター駆動が中心のハイブリッドシステムだから、加速が滑らかでノイズも小さく、運転感覚も上質だ。それを考えると、1年間の走行距離が1万km以下でも、ユーザーの好みによってはe:HEVを選ぶ価値はあると言える。

微妙に異なるフリードとシエンタの商品性

ライバル車になるトヨタ シエンタとの比較も行いたい。シエンタの全長は4260mmで、全グレードが5ナンバー車。フリードクロスターのような、SUV風の仕様は(今のところ)ない。


2024年5月に一部改良を受けたシエンタ(写真:トヨタ自動車

全高はフリードの1755mmに対し、シエンタは1695mm(2WD)と60mm低いから、シエンタのほうがコンパクトな印象を受ける。

車内の広さはどうか。身長170cmの大人6名が乗車して、2列目に座る乗員の膝先空間を握りコブシ1つ分に調節すると、3列目に座る乗員の膝先空間は、フリードでは握りコブシ3つ分だった。一方のシエンタは、0.5個分にとどまり、足元空間はフリードが広い。

その反面、シエンタは薄型燃料タンクの採用で床が低い特徴がある。この低床設計により、3列目のフロアからシート座面までの高さは、シエンタが40mm上まわり、フリードと違って膝が持ち上がる姿勢になりにくい。


シエンタ7人乗り仕様のインテリア(写真:トヨタ自動車

つまり、フリードは3列目の足元空間の広さ、シエンタは自然な着座姿勢に、それぞれ分があるということ。

また、3列目シートの格納方法も異なる。フリードは左右に跳ね上げる方式で、格納してもシートが荷室に張り出すが、シエンタの3列目は、2列目の下にスッキリと格納されて荷室に露出しない。

その代わりシエンタは、3列目シートを格納するきとに2列目シートを持ち上げる必要があるから、操作が面倒だ。

この違いを踏まえると、頻繁に3列目を操作するならフリード、通常は3列目を格納して荷室として使い、まれに多人数で乗車するならシエンタがふさわしいといえる。

フリードとシエンタの燃費も比較しよう。フリード エアーEX 6人乗りでは、前述のようにガソリン車が16.4km/L、ハイブリッド車は25.4km/L。シエンタでは、売れ筋グレードとなるの「Z 7人乗り」でそれぞれ18.3km/L、28.2km/Lだ。WLTCモード燃費は、シエンタが全般的に優れている。

フリードのエアーEX 6人乗り ガソリン車(269万7200円)に相当するシエンタは、「Z 7人乗り」で268万6600円だ。


アルミホイールなどを装備するフリード エアーEX(写真:本田技研工業)

フリードと違ってシエンタにアルミホイールは付かないが、ハイビーム使用時でも対向車の幻惑を抑えるアダプティブハイビーム、ドライバー異常時対応システム、10.5インチサイズのディスプレイオーディオなどが標準装着され、装備の充実度ではフリードを上まわる。

ただし、フリードには、2列目シートがベンチシートに加えて人気の高いセパレートシート(キャプテンシート)も用意され、内装自体の質感も高い。シエンタの2列目シートは、ベンチシートのみになる。また、SUV風の外観が選べるのは、フリードだけだ。

N-BOXというライバルもいる

これらの付加価値の捉え方により、フリードとシエンタの選択は決まる。小さくてもミニバンであることを大切にするならフリード、ボディサイズを含めてコンパクトカーに近い馴染みやすさや、充実装備で選ぶならシエンタだ。

それでも前述の通り、フリードの価格の高さは否めない。シエンタも2024年5月の改良で値上げされたが、新型になってフリードは一層高くなった。


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そこで改めて国内で販売されるホンダ車を見ると、全体の40%近くが軽自動車の「N-BOX」で占められている。N-BOXの中心価格帯は160万〜200万円で、4人乗りとなるが室内は十分に広い。

N-BOXを始めとする軽自動車の高い人気は、価格が上昇した小型/普通車に対する不満の裏返しなのかもしれない。

【写真】新型フリードとシエンタの内外装を見比べる

(渡辺 陽一郎 : カーライフ・ジャーナリスト)