Photo: 山田ちとら

スプーンに見えて、実は画期的な食器型デバイス。

これを使えばなにを食べても塩味やうま味をよりダイレクトに味わえちゃう、そんな驚きの「エレキソルト スプーン」の予約・抽選販売がついに始まりました。

電気のチカラでおいしさを引き出す

エレキソルトスプーンは、キリンホールディングスと明治大学総合数理学部先端メディアサイエンス学科の宮下芳明研究室の長年の共同研究によって開発された“おいしさ増強デバイス”。

スプーンの先端から微弱な電流を流すことで食事の味わいを増強するそうなんですが、一体どうやったらそんなことができるのでしょうか?

製品裏側。電極パネルが設置されている。

仕組みの鍵となるのが電解質(イオン)です。

電解質とは、水などに溶かすと陽イオンと陰イオンに電離する物質のこと…とはおぼろげにも中学で習ったような。でもその時習わなかったのは、実は塩味・うま味・酸味などの「味」は、陽イオンによってもたらされるものが多いということです。

イオンは電気を帯びているので、電流を流すことで集めたり、あるいは反発させて引き離したりと、自在にコントロールすることができます。エレキソルトはこのイオンの動きをコントロールする技術を使い、味の基となる陽イオンを舌の上に集めているそうなんです。

Image: Kirin Holdings

食べ物を口の中に入れると、そこから溶け出したイオンは通常口内を勝手気ままに浮遊しています。上の図は、塩味の基となるナトリウムイオン(Na+)を描いたものです。

では、エレキソルトスプーンで食べ物を口に運んだ場合は?

スプーンの先端から電流を流すと、それまで口内でふわふわしていたNa+が舌の上に集まってきます。結果、食品内に含まれている塩分の量は変わらないのに、Na+を効果的に舌の味覚の受容体に触れさせることで、より「しょっぱい」と感じるようになるんですね。

このように、舌やその周辺への電気刺激によって食事の味わいを変調させる現象は"電気味覚”と呼ばれるそうです。

実際に使ってみた

でも、いくらおいしさのためにとはいえ、口の中に電気を流すことにためらいを感じてしまったのはわたしだけでしょうか?(ちなみにこちらのデバイス、ペースメーカーなどの体内植込み型医用電気機器、人工心肺などの生命維持用医用電気機器、心電計や点滴器などの装着型の医用電気機器を使用している方はご使用できません。詳しくはこちらをご参照ください)。

しかしながら、実際にエレキソルトスプーンを使って試食させていただいたところ、電流によってもたらされる不快感はまったくありませんでした。かわりに、味の変化に驚きました。

エレキソルトスプーンの効果を試すために、まずは塩が一切入っていないバターチキンカレーをふつうのスプーンでいただきました。うーん、味の輪郭がぼやけていてパッとしません。

次に、エレキソルトスプーンで無塩カレーを試食してみたら、一気にトマトの酸味とうま味がせまってくるように感じ、素材そのものをもっと深く味わえるようになりました。

さらに、今度は減塩カレーをふつうのスプーンで。普段から味の濃い食事が大好きなわたし、これには物足りなさを感じてしまいましたが…。

その同じ減塩カレーを今度はエレキソルトスプーンでいただきました。口に含んだとたん、明らかに塩味が強くなっていることに驚きました。

エレキソルトスプーンの背面には電極パネルが設置されていて、この部分に指が触れていないと電流が発生しません。持ち方にひと工夫必要ですが、慣れてしまえば扱いやすいと感じました。

電流の強度は4段階調整です。

使い終わったら、スプーンの先端部分だけを取り外して中性洗剤などで水洗いします。お手入れもラクそうです。

長年の研究が社会課題の解決策に

研究段階ではお椀型や箸型のプロトタイプも。

エレキソルトスプーンが現在のかたちに至るまでには、長年の試行錯誤と多くの方々のひらめきと情熱とが不可欠でした。

こちらはお椀型エレキソルトのプロトタイプ。

将来的にはお椀型のエレキソルトや、お箸型のエレキソルト、ひょっとしたらコップ型のエレキソルトなんかにもお目見えできるかもしれません。

明治大学総合数理学部先端メディアサイエンス学科の宮下芳明教授

すべては「塩分摂りすぎ」という社会課題の解決に向けて。

キリンによれば、20歳以上の日本人が1日あたりに摂取する食塩量は、WHOが推奨する量の倍以上です。また、加齢とともに多くの方が悩まされる高血圧症は、食塩の過剰摂取が大きなリスク要因となっているのだそう。

そこで、「塩分を過剰摂取しなくても食事の満足度を上げる方法はないだろうか?」とキリンの研究員・佐藤愛さんが探索していた中で出会ったのが、明治大学の宮下芳明教授が行なっている最先端の味覚研究だったそうです。そうして共同開発されたエレキソルトスプーンは、減塩食を美味しく食べ続けることができそうですし、ふつうの食事でもより深く味わえそうです。

ちなみに宮下教授の「エレキソルトおすすめメニュー」は酢豚だそうです。電解質によってもたらされる塩味、酸味、そしてうま味すべてを引き上げてくれるので、塩をかけた酢豚とはまったく違う味わいだそうで。「濃い味の酢豚を味わえるので、エレキソルトで食べるのが大好き」だと話してくださいました。

さらに、エレキソルトを使い続けることで、

味の変化に気をつけながら食べる習慣が身につくことで、おいしさの解像度が上がりました

と宮下教授がおっしゃっていたのが印象的でした。

エレキソルトをひとつのきっかけとして、よりいろんな味わいにフォーカスして食事を楽しめたら、それこそ食生活そのものが豊かになりそうです。

Source: Kirin Holdings (1, 2)
Photo: 山田ちとら