●直前でネタ変更「めっちゃ怖かった」

ガクテンソクが2代目王者に輝いた、結成16年以上の漫才賞レース『THE SECOND〜漫才トーナメント〜』。18日にフジテレビ系で生放送された「グランプリファイナル」では、昨年を想起する事象がいくつかあり、チャンピオンに立つ漫才師の緻密さや持久力などを改めて感じさせられた。

『THE SECOND〜漫才トーナメント〜』2代目王者のガクテンソク

見事優勝を勝ち取ったガクテンソクだが、最初のラフ次元との対決で披露したネタは、急きょ変更したものだった。この理由を、奥田修二は「(勝ち上がったら次に対決することになる)金属バットが291点というすごい点で勝った時に、元々1本目にやろうと思ってたネタじゃないと、金属バットと戦えないなと思ったんです」と明かす。

その結果、この日一度も合わせていないネタで1本目に挑むことに。奥田は「めっちゃ怖かったです」と振り返りながら、「ネタ合わせしてなかったせいか分からないんですけど、普段よりちょっと良かったです(笑)」と思わぬ副次効果もあり、無事1回戦を突破することができた。

実は、前年優勝のギャロップも、準決勝と決勝のネタを急きょ入れ替える作戦を行っていた。予定では、準決勝で「結婚披露宴の料理で“パンが一番美味しかった”と言われたのを嘆くフレンチのシェフ」ネタを披露する予定だったが、対戦相手の囲碁将棋のネタに「副業でパン屋をやりたい」というくだりがあったため、“パンかぶり”を避けたのだ。結果として、「普通なら結構ガチッと緊張するんですけど、意外とリラックスできて、楽しめてできたのが勝因かなと思います」(林健)と、こちらもプラスの効果が働いた。

両者ともにサラッと説明していたが、これは長年にわたって舞台に立ち続けるベテランコンビだからこそなせる業。まさに、『THE SECOND』という大会の特性を象徴する出来事が、チャンピオンで立て続けに起きていたわけだ。その背景には、総合演出の日置祐貴氏が今年の方針として「去年やったものの完璧版を作りましょう」と掲げるほど、昨年の第1回大会から完成度の高いシステムが確立されていることから、戦術が立てやすいこともあるのではないか。

昨年チャンピオンのギャロップ

○準優勝がグランプリファイナル最低点に

準優勝に目を向けると、ザ・パンチが決勝で243点という今年の「グランプリファイナル」最低点だったが、昨年のマシンガンズが決勝で記録した246点も、この年の「グランプリファイナル」最低点だった。経験豊富な漫才師と言えども、短いスパンで3本立て続けに圧倒的な漫才を披露することがいかに難しいかが伝わってくる。

ガクテンソクの奥田は、6分というネタ時間について「絶妙に面白いですよ。M-1は4分なので短距離走なんですけど、こっちは中距離走なんでスポーツが違うんです。絶対息継ぎがいるので、M-1みたいに6分やっちゃうとお客さんはたぶんしんどい。そうなったときに、どこで息継ぎをネタに入れるのか、いろいろ考えることができるんで、すっげぇ楽しいです」と、その醍醐味を語っていた。

一方で、決勝で力を出し切った姿や、フリートークの場面を含めたキャラクター性で、確実に視聴者や制作陣にインパクトを与えている準優勝者たち。昨年のマシンガンズの『THE SECOND』後の活躍は、優勝したギャロップが「マシンガンズのほうが出すぎやな(笑)」と苦笑いするほどだったが、今年もザ・パンチがMCの東野幸治を「早くバラエティで共演したいです」と言わせており、様々な場面で目にすることが増えることを期待したい。

●有田哲平からあふれた“THE SECOND愛”

昨年に続きアンバサダーを務める予定だった松本人志が芸能活動を休止したことにより、新たに「ハイパーゼネラルマネージャー」として有田哲平(くりぃむしちゅー)、「スペシャルサポーター」として博多華丸・大吉が参加した。3人で松本の“代わり”になろうとは思っていないだろうし、その必要性もないが、重要な要素はうまく引き継いでいるように感じた。

大吉は『M-1グランプリ』で審査員を務めていることもあり、惜しくも敗れたラフ次元に「うまさのほうが勝ったのかな…」とコメントしたり、大会の審査方法を「シンプルに面白いと思ったら点数を入れればいい。すごく良いシステムですね」と分析したりと、解説ポジションを担当。

相方の華丸は打って変わって、ムードメーカー。ガクテンソクの「転勤」ワードを受けて、「申し訳ございませんが、私は福岡から転勤で来ております!」とコメントするなど、持ち前の博多おじさんトークで振られるたびに会場を沸かせた。

そして有田はその両方を兼ね備えつつ、ここに“THE SECOND愛”を併せ持ったコメントが際立った。「ななまがりvsタモンズ」の結果発表後に、「“よくそのシステム考えたな”とか“そういう手法がまだあったのか”という漫才がある中、本当に真っ向からのバカ対決で素晴らしい。だから『THE SECOND』大好きなんです!」と力説した場面はそれを象徴するもので、お笑い賞レースの現状を解説しながら、笑いを交えて『THE SECOND』の楽しみ方を提示するという役割を果たしていた。

○多くの漫才師たちがネタを得ると大粒の汗

「タイマン形式」だけに、漫才が終わるとノーサイドとなり、裏側では出場者同士でエールを送り合うなど、“戦友感”が強く伝わってくる『THE SECOND』。どの漫才師も口をそろえたかのように「楽しかったです!」と、大舞台で漫才を披露できる喜びを第一に表すのは、ほかの賞レースではなかなか見られない光景だ。

多くの漫才師たちが、ネタを終えると大粒の汗をかいていたが、それは苦節を味わってきた漫才師たちが、この大一番で全力を出し切った証し。彼らの姿を見て、新たなチャレンジへ背中を押された人も多いのではないだろうか。