4月28日(日)放送のTOKYO FM特別ラジオ番組「This is me!〜ジェンダーレスと新しい家族のカタチ〜」。

2023年6月、セクシュアルマイノリティに対する理解を広めるための「LGBT理解増進法」が国会で成立し、施行されました。LGBTQ+とは「レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー(生まれたときに割り当てられた性別と自認する性が異なる)、クエスチョニング(自分の性のあり方が分からない、または決めていない立場の人)」の5つの頭文字を取った言葉に、+(プラスアルファ)を付けたセクシュアルマイノリティの総称です。

番組では、ゲストとの対話や学生インタビューを通じてさまざまな性のあり方を知り、その先にある「新しい家族のカタチ」について考えます。ここでは、タレントのpecoさんとNPO 法人東京レインボープライド 共同代表理事・杉山文野さんの対談パートをお届けします。MCは村田睦アナウンサー(TOKYO FM)がつとめました。


(左から)杉山文野さん、村田睦アナウンサー、pecoさん


杉山文野さんは、生まれたときに割り当てられた性別が女性で、現在は男性として生活するトランスジェンダー。日本初の渋谷区同性パートナー制度制定にも関わり、自身のヒストリーや思いを綴った著書「元女子高生、パパになる」(文藝春秋)は大きな話題になりました。そして“新しい家族のカタチ”という点でもユニークな家族のあり方を実践しており、その様子をまとめた本「3人で親になってみた ママとパパ、ときどきゴンちゃん」(毎日新聞出版)も出版されています。

◆“子育て”のうえで大変なこと

杉山さんのパートナーの女性は、ゲイの友人(ゴンちゃんこと松中権さん)の提供精子による体外受精で2児を出産しました。ここでは、杉山さんに“性の多様性”について、そして、3人親の子育てで大変なことについて伺いました。

杉山:“性”というものは、文化的に作られているものがすごく大きいと思うんですね。“LGBTQは自然の摂理に反している”という言葉を聞きますが、同性愛行為が確認されている動物だけでも1,500種類ほど確認されていて、実は“性”というのは多様なものなんです。なので“実は自然界の性はすごく豊かなんだ”という認識を大人も子どももイメージできるようになるといいですよね。

村田:杉山さんが子育てをなさるうえで、今の社会システム上で困ったことはありますか?

杉山:やっぱり、法的な関係性を持てないことです。ゴンちゃんに精子提供はしてもらったけれど、そのままの状態だと、彼女と僕が“パートナー関係”なのに、子どもに対しては彼女が“親権ありの実母”、認知をしたゴンちゃんが“親権はない(が法律上は)実父”で、私は“赤の他人”となる。3人で話して“それはフェアではない”となり、いろいろ話し合った結果、私が2人の子どもと養子縁組を結びました。

これによって、私が“親権ありの養母(戸籍上は女性のため)”となり、パートナーとゴンちゃんは親権がないけれども、法律上では3人とも親になった形です。

こういう話をすると、一部では“母親に産ませておきながら、親権を奪うなんて何事だ”と言われるんですけども、自分たちなりにどういう形がベストかを考えましたし、彼女の強い希望もあって養子縁組という形を取りました。

ただ、この形は(社会のシステム上)いろいろとややこしくて、まず夫婦別姓であること。また、子どもたちも小さいときに1回苗字が変わり、なんなら、僕がいま長野県と東京都の2拠点生活で、住民票だと子どもたちは彼女と一緒になっているけど、僕は東京の住所で……と、書類が本当に面倒くさいんですよ(苦笑)。

よく「ラーメンの全部乗せ」にたとえるんですけど、婚姻関係っていろんな社会制度の丸々のパッケージなんですよ。異性のカップルであれば「ラーメン全部乗せ」が何回でも無料で手に入るのですが、僕たちの場合は「麺はいくら、ナルトはいくら」みたいな形で買うわけ(費用を支払って公正証書などをつくるなど)です。

お金を払ったらそれと近い状態にはなるんですけど“異性か同性か”の違いだけで、なぜ金額や手続きに差ができるんだろうと感じますし、ここは変えてほしいなと思います。何か新しい権利を求めるというよりも、スタートラインを一緒にしてもらえたらなと思いますよね。

◆すべてを理解できなくても“寄り添いたい”という気持ちが大切

pecoさんは2017年にパートナーのryuchellさんと結婚。2018年に第一子を出産後、ryuchellさんから「夫であることにつらさを感じる」と告白され、2022年2人は夫婦関係を解消しました。

杉山さんの話を受けて、pecoさんは「私とryuchellは“男と女”として交際が始まったので、現実的な部分では大変なことはなかったんですけど、やっぱり“スタートラインだけでも揃えてほしい”と私も思いました」と思いを語ります。

杉山:私がいつも言っているのは、伝統的家族も素晴らしいと思います。ただ“そうじゃない家族も素晴らしいよね!”という選択肢が増えればいいなと思っているんです。LGBTQや同性婚の話をすると“伝統的家族の否定”と言われることもあったりしますが、決してそうではないです。

peco:すごくわかります。私も多様な家族の先頭を走りたいとは1ミリも思っていないし、ただ“こんな家族もありますよ”という思いがあるだけなんです。

杉山:ryuchellさんがカミングアウトをされて、性別移行(自身の性同一性/性自認に近づくためにおこなう社会的・身体的なプロセス)をされるなかで、家族の関係性について多くの取材や注目が集まりましたよね。だけど、言ってしまえば“家族のことだから放っておいてよ”という感じもあったと思うんですよ。

本(pecoさんのエッセイ「My life」)を読ませていただくと、これだけ明るいpecoちゃんにも、すごい葛藤があったのだと気付かされましたし、“家族っていろいろあるよね”と改めて感じました。

peco:ryuchellにも言っていたんですけど、“男と女”とか関係なく、人間が2人以上同じ屋根の下で過ごすんだから「そりゃあいろんなことがあるよ」「どこの家族も一緒だ」って(笑)。それは、すごく思っていました。

杉山:私は「家族とは“一番大切な他人”」だと思っているんですね。なので「家族だから言わなくてもわかるでしょ?」ではなくて、「言っても分からないことはたくさんあるから、せめて言ってね」と(笑)。

peco:私はryuchellに、「どれだけ“わかってあげたい”と思っていても100パーセントわかることはきっとないけど、“わかりたい”“寄り添いたい”と思っている気持ちだけはわかってほしい」ということは、すごく伝えていました。

ryuchellがいたときって、私が息子のことをガミガミと言うから(ryuchellが)“いい逃げ道”になってくれるだろうなと思っていたんです。とはいえ今、ryuchellの代わりになろうとは思ってはいないんですけど、何かあったときに“ママに言えば大丈夫だ”と思ってくれるような家族でありたいなとすごく思います。

杉山:それこそ、うちに逃げてきてもらっても構わないですよ(笑)。ぜひ遊びにきてください!

peco:ぜひ、お願いします(笑)!

<番組概要>
番組名:This is me!〜ジェンダーレスと新しい家族のカタチ〜
放送日時:2024年4月28日(日)26:00-27:00
MC:村田睦
ゲスト:peco、今西千尋、今西博子、杉山文野、阿部裕太朗、保井啓志