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●東京旅行の際に一度は行っておきたい「オムライス」の美味しい名店をご紹介します。

 日本における洋食の始まりは、明治時代。東京・銀座の『煉瓦亭』からといわれています。その煉瓦亭で考案されたのが、今もメニューにある「元祖オムライス」です。

 その後、大正、昭和に創業した東京の洋食店、さらに町中華や喫茶店でもオムライスがメニューで出されるようになり、全国に広がりました。

 令和の今でも老舗とよばれるお店には、そんなオムライスが健在。そこで、今回は、東京に行ったら食べておくべき老舗店のオムライスを厳選して紹介したいと思います。

ニュー新橋ビルで行列ができる『むさしや』の「オムドライ」

東京・新橋『むさしや』の「オムドライ」

 東京・新橋駅前にある「ニュー新橋ビル」といえば、戦後の闇市があったエリアに昭和46年(1971年)に開業。50年以上の時を経て、「ニュー新橋ビル」は、いまや“おやじビル”という愛称まで付いているレトロビル。

 今も食堂、居酒屋、喫茶店などの飲食店をはじめ、金券ショップやマッサージ店などがひしめく、非常に昭和感の漂うディープな雑居ビルです。

外観もレトロで可愛い「ニュー新橋ビル」は新橋駅前にそびえる

 数年前からビル解体の噂はあるものの、なぜか今も健在。いつ壊されるかわからないので見るだけでも価値が多いにあるのですが、このビルに行ったらぜひ訪れて欲しいのが、1Fの『むさしや』です。明治18年創業の老舗洋食屋さんです。ここのオムライスやナポリタンは数々のメディアで何度も紹介されてきました。

 どちらを食べても美味しいですが、今回はあえて、ちょっとマニアックな「オムドライ」を紹介したいと思います。

昼時は行列必至の『むさしや』

「オムドライ」とは、ドライカレーを薄~い玉子焼きでくるんだオムライス。最近のオムライスといえば、ふわとろ系も人気ですが、こちらはあくまでライスをがっちりホールドする風呂敷系。しっかり火が通っています。

 真ん中からスプーンでザクッと割ると、スパイシーな香りのドライカレーが登場。しっかり辛めで、想像よりもスパイシーで本格的。このピリリとスパイシーなドライカレーと、バターの風味が効いた卵の相性がとにかく抜群なのです。

中からスパイシーなドライカレーが出てきます

 付け合わせのナポリタン風スパゲッティ、千切りキャベツ、ワカメの味噌汁を交互にいただくと、ドライカレーの辛さを脇役たちがほどよくなだめてくれて、安定&安心の美味しさ。食べ終わると、なぜか「ありがとう!」と感謝したくなると思います。

●DATA

「むさしや」

住:東京都港区新橋2-16-1 ニュー新橋ビル1F

東京・高円寺の老舗町中華『七面鳥』のオムライス

東京・高円寺にある町中華『七面鳥』の「オムライス」

 続いてご紹介するのは、東京・高円寺にある1959年(昭和34年)創業の『中華料理 七面鳥』です。お店の外観は、まるで映画のセットのような昭和レトロ感!

渋い店構えの『七面鳥』は、JR高円寺駅南口から徒歩5分ほどの場所にある

 町中華なので、メニューはラーメンやチャーハン、野菜炒めなど中華メニューが盛りだくさんですが、ここの名物もやっぱり「オムライス」なのです。

 そのオムライス、昭和生まれらしい“薄焼き玉子タイプ”。でも、実は中面は半熟タイプで、中のケチャップライスをやんわりホールドしています。

卵焼きの中面の半熟具合が絶妙です

 食べてみると、その半熟の卵液がケチャップライスに絶妙に浸透していて、しかもケチャップライスはしっとり。このバランスが絶妙なんです。味わいも、酸味と甘味がほどよく、しかも具材の鶏肉もソフトでご飯に馴染んでいます。全体の一体感がすごい王道オムライスです。

●DATA

「中華料理 七面鳥」

住:東京都杉並区高円寺南4-4-15

東京・新小岩の『中華料理 五十番』のオムライス

東京・新小岩にある『中華料理 五十番』の「オムライス」

 こちらも町中華の「オムライス」です。それは1960年(昭和40年)に創業した東京・新小岩『中華料理 五十番』です。

JR新小岩駅から徒歩5分ほど[食楽web]

 一見、町のどこにでもありそうな普通の町中華のお店ですが、実は「オムライス」が超名物となっているお店。もちろん、ここのオムライスもまた、まごうことなき昭和レシピの薄焼き玉子タイプです。

中のケチャップライスは、チャーハンのようにパラパラしっとりタイプ

 登場すると、その美しいオムライスに目を奪われます。なだらかな弧を描く丸いフォルム、黄色い背景に映える深みのあ るケチャップの真紅色、そして裾野から遠慮がちに顔を覗かせる薄いオレンジ色のライス……。もはや宝石のような美しさ。

 中央部にスプーンを入れてみると、ハードタイプに見える卵ですが、真ん中付近だけは、とろりとした半熟。 これがややパラッとしたケチャップライスにとろとろと染み込んでいきます。

 店によってはベチャッとしがちなケチャップライスも、さすが町中華、実に理想的なパラパラしっとり具合。さらに、卵にかけられた深みのある真紅のケチャップも、甘ったるさはゼロ。だから、食べ終わったあとも軽くて、さっぱり。毎日食べたくなる逸品です。

●DATA

「中華料理 五十番」

住:東京都葛飾区新小岩2-13-4 1F

大正時代創業の洋食店『好成軒』の「とろとろ玉子のオムライス」

東京・日本橋にある『好成軒』の「とろとろ玉子のオムライス」

 最後にご紹介するのは、大正8年(1919年)創業の、東京・日本橋にある洋食店『好成軒』の「オムライス」です。

東京メトロ銀座線・三越前駅から徒歩1分の場所にある『好成軒』

「とろとろ玉子のオムライス」という名称どおり、先に紹介した3軒のオムライスとはまったくタイプの異なるオムライスです。そう、この『好成軒』は、薄焼き玉子タイプではないのです。

デミグラスソースたっぷり。オムレツ型にもなっていないほど、とろとろタイプ

 ではどんなオムライスなのかといえば、写真をご覧ください。たっぷりのデミグラスソースの海にオムライスがたゆたうようなオムライス。そう、オムライスなのにオムレツ型ですらありません。原型がわからないほどひたすらに卵トロトロなんです。

 スプーンを入れてみると、薄焼き卵を割るような力はまったく不要。何の反発もなくスプーンが皿の底に到着。とろとろの卵と共に、薄めのケチャップ味のチキンライスがいとも簡単にすくえます。

 ひと口食べてみると、卵がふんわり、ごはん一粒ひと粒を包むかのごとくまとわりついてきます。そして追随する濃厚なデミグラスソースのコク。その後に続く旨み……。深い、深すぎる!

デミグラスソースとふわとろ玉子の一体感が最高!

 卵とチキンライス、そしてデミグラスソースが三位一体となり、なめらかな口触り、まろやかな卵の味、そしてソースの深いコクを生み出しています。美味しいうえに流し込むように食べられるので、スプーンが止まりません。あっという間にとろとろオムライスはお腹の中に消えていくでしょう。なんという儚さ。でも、美味しさの余韻は、しっかり心に残ります。

●DATA

「好成軒」

住:東京都中央区日本橋室町1-13-4

(撮影・文◎土原亜子)