この記事をまとめると

■アップルがEV市場への参入を諦めたという報道が流れた

■アップルは2013年から「iOS in the Car」(現在のCarPlay)でコネクテッド分野から自動車産業に参入している

■アップルをしても自動車ビジネスで事業としての「出口戦略」を見出すことができなかったようだ

アップルがEV試乗参入を諦めた

 あのアップルが、電気自動車(EV)市場への参入を諦めた。そんなニュースが世界を駆け巡った。アップルはなぜ、EV参入に向けた開発を始めたのか? アップルはなぜ、このタイミングでEV参入を諦めたのか?

 まず、EV参入の背景から見ていく。アップルと自動車産業との直接的な接点が生まれたのは2013年と、まだ10年ちょっとと日が浅い。きっかけは、iPhoneと車載器との連携だ。2010年代初め、筆者が当時、米シリコンバレーで各方面に取材したところ、自動車メーカー側はアップルに対して車載器との連携に向けた協議を何度も持ちかけていたが、アップル側は乗り気ではなかった。

 それが2012年から2013年にかけて、状況が変化する。アップル側から自動車メーカーに対して車載器連携を打診してきたのだ。そして2013年6月、開発者向けにアップルが行っている国際会議で、「iOS in the Car」を発表した。

 その前後に、今後はグーグル(現在は親会社アルファベット)からもアップルに対抗して、アンドロイドフォン車載器との連携を打診してきた。じつは、自動車メーカー各社はグーグルに対してもアップルと同様に車載器との連携の協議をもちかけていたが、話はまったく前に進まなかった。そうした状況が、「iOS in the Car」発表で一転した。

 翌2014年には、iOS in the Carは「CarPlay(カープレイ)」となり、グーグルは「Android Auto (アンドロイドオート)」の量産化に踏み切ることになる。

 ここでふたつの陣営で大きな違いが生まれた。それは、車載OSと呼ばれる自動車本体の制御系統に対するルール作りに対して、グーグルは参入したのに対して、アップルは参入しなかったことだ。その後、アップルは世界各地の自動車関連カンファレンスなどで何度か、将来的な車載OSへの関与の可能性を示したが、その詳細は明らかにならなかった。

EV市場ではアップルが考える収益性を生まない

 一方、アメリカメディアが2010年代半ば頃から、「プロジェクトタイタン」という極秘プロジェクトがアップル社内で形成され、自動運転技術とEV技術の研究開発を行っていると報じるようになる。また、プロジェクトタイタンによる量産化については、製造で台湾企業の名前が何度が報道されるも、台湾企業側のそうした報道内容を否定した。

 こうしたアップルによるEV関連の動きがあるころ、世界でEVへの関心が高まり、欧州、アメリカ、中国などでEVシフトを後押しする政策が推進され、その結果としてEVや自動運転の領域に大量の投資マネーが注ぎ込まれた。そうしたEVバブルとも呼べる状況が、2022年から2023年にかけて急速に弱まり、「EVは踊り場」になるともいわれるようになった。

 そんなタイミングで、アップルがEV参入を諦めた、という報道が流れたのだ。

 以上のようなこれまでの流れを振り返ってみると、アップルとしてはEVや自動運転に対する技術領域では、量産に向けた準備は整ってきていたが、事業としての「出口戦略」を見出すことができなかったのではないだろうか。

 EVを、iPhone、iPad、Macのようなハードウエアを企画して販売するのか? それとも、電力や通信の料金を加えてEVのサブスクリプションモデルを独自に展開するのか? それとも、ロボタクシー事業に特化してモビリティ関連のデータプラットフォームで世界標準化を目指すのか? さまざまな可能性があったに違いないが、アップルが考える収益性を生まないという経営判断が下ったのではないだろうか?

 もしかすると……、何かのタイミングで、アップルEV量産が再び持ち上がるのかもしれない。