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自民・公明両党や日本維新の会などの賛成多数で可決、成立した「改定入管法」の全面施行まで、あと3カ月を切った。

2017年の1万9629人をピークに減少していた難民申請者の数は、コロナ禍による移動制限が解除された2022年以降、再び増加に転じている。

難民申請者の多くは短期ビザで来日して、入国後に手続きをおこなう。だが、収容者への面会活動を続けている支援者は「最近は空港で難民申請しても受理されず、入管の空港支局からそのまま東日本入国管理センター(牛久)に移送・収容されている中東やアフリカ諸国の出身者がとても増えている」と話す。

迫害される恐れのある母国を逃れて日本に来たにもかかわらず、入国を拒否されて収容される。仮放免が認められ、一時的に収容が解かれても、事前に申請しなければ県境を越えて移動する自由はなく、就労もできず、健康保険にも加入できない。

生存する権利を脅かされているといえる難民申請者の生活状況は、改定入管法の全面施行によって、どう変わるのだろうか。

●3回目の難民不認定処分を裁判で争って勝ったロヒンギャ

難民申請者の代理人や仮放免者の保証人をつとめる弁護士や支援者が、去年の法案審議中から問題視してきたのが、(1)送還停止効の例外規定の創設と(2)監理措置だ。

改定入管法は、3回目以降の難民申請者は相当の理由がある資料を提出しなければ、また、1回目の申請者でも一定の犯罪歴がある場合は「送還を可能にする」としている。

入管問題に取り組む超党派の「難民問題に関する議員懇談会」(難民懇)が2月29日に開いた第50回難民懇総会の席で、鈴木雅子弁護士は以下を問題点としてあげた。

・そもそも1回目の審査が適切におこなわれていない
・1回目の審査結果が出るまで5年以上かかっているケースがあり、難民性が高い人ほど結果が出るのに時間がかかっている
・空港で難民申請をして認められない人は、日本で誰ともつながりのないまま牛久に送られている

1回目や2回目の申請がきちんと審査されていないことや、一次審査の処理期間の長期化については、難民申請者の代理人をつとめる弁護士の多くも指摘している。

全国難民弁護団連絡会議(全難連)と難民支援協会(JAR)が共催した3月7日の記者懇談会で、渡邉彰悟弁護士は、2007年に庇護を求めて来日したミャンマーの少数民族「ロヒンギャ」の男性が、3回目の申請で難民該当性を否定されたことについて訴訟を起こし、今年1月に名古屋高裁が1審判決を変更して、国に難民認定するよう命じたケースを紹介した。

送還停止効の例外は、ノン・ルフールマン(難民の送還を禁止する国際法上の)原則に反している。また、入管が言うところの「相当の理由がある資料」が何を指すか、不明だ。送還停止効の例外に該当する場合の理由の提示や、その告知について法律の定めがないことも懸念されている。

●新たな貧困ビジネスにつながりかねない「監理人制度」

今回の改定入管法の骨格は、2021年に廃案になったものと大きく変わっていない。監理措置は2021年の時点から弁護士や支援者が問題視してきた制度だ。

被監理人の生活実態を報告する義務が課せられるなど、監理人は負担と責任が大きいだけでなく、これまで自分たちが支援してきた人たちの利益に反する行為を求められる。弁護士や支援者が2021年から「仮放免の保証人にはなれても、監理人にはなれない」とうったえてきたのはそのためだ。

入管庁へのヒアリングを重ねてきた難民懇で、超党派の議員たちは再三、監理措置の運用について入管に質問している。これに対して、入管側は「監理措置に係る運用については現在、検討中で、お答えすることは困難です」と今に至るまでゼロ回答に終始している。

監理人には「外国人本人の親族や知人など本人に身近な人、行政書士など」が想定されている。だが、空港で拘束・収容されてしまうケースでは、日本に知人や親族がいない人も多い。こうした難民申請者がどうやって監理人を探すことができるといえるのか。

また、弁護士、支援者が一貫して指摘してきたように、監理人のなり手がいないことは、収容の長期化、それに伴う健康状態の悪化、不自由な状況下で難民申請手続きをせざるを得ないなど、当事者にさまざまな不利益を招く。

さらに、なり手がいない監理人を引き受ける代わりに外国人を違法に働かせたり、性的搾取の対象にしたりして、「新たな貧困ビジネスにつながるのではないか」と懸念されている。

●積極要素とされた「長期滞在」が一転して「消極要素」に

今年3月5日には「在留特別許可に係るガイドライン」が15年ぶりに更新された。これについて浦城知子弁護士は記者懇談会で「一言でいえば人権に対する配慮が欠けているし、これまでよりも後退している」と話した。

最大の問題は、これまで積極要素とされていた「長く日本に在留していること」を消極要素と見なすと明記している点だ。

見直し前のガイドラインでは「当該外国人が、本邦での滞在期間が長期間に及び、本邦への定着性が認められること」は積極要素と評価していたので、文字通り180度の転換と言える。

正規・非正規を問わず、日本に長期滞在している外国人の生活基盤や人間関係は日本にあり、母国とのつながりは薄れている。諸外国の判断基準でも、この点は積極要素とされることが多い。

ある地域に定着し、平穏に暮らしていても、在留資格が切れたという一点によって、それぞれの事情を考慮せずに切り捨てることは、人権への配慮が欠けているのではないか。

浦城弁護士は「在留特別許可に係るガイドラインは、入管庁が出した一内部資料に過ぎず、入管がやっていることはガイドラインの上位にある憲法や国際人権法に反していることを弁護団は主張していく。裁判所の判断もこれに拘束されるべきではない」と批判した。

昨年11月の時点で、難民申請者数は1万25000人以上。JARには1日30組ほどの難民が相談に訪れる状況が続き、公的支援を受けられない難民申請者がホームレス化していることなども報道されている。

法務省・出入国在留管理庁は3月26日、2023年の難民申請者・認定者数などの統計資料をサイト上に公開した。今後の動向に注目したい。

(取材・文/塚田恭子)