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飲食店などで、客が理不尽な要求をする「カスハラ」(カスタマーハラスメント)が社会問題となっている。

あまりにも迷惑・悪質なケースでは、犯罪に該当する可能性もあるが、警察がなかなか被害届を受理しないことも少なくない。

茨城県水戸市のラーメン店「中華そば いっけんめ」に現れた男性客が今年1月、脅迫罪で罰金刑の処分となった。

【ラーメン店が受けたカスハラ被害の全容は→「殺される前に店を閉めました」 ラーメン店を脅迫した男性客に有罪、"丼ぶり爪楊枝500本"から「カスハラ」激化」】

店に「殺すぞ」と1日十数回も脅迫電話を繰り返した容疑で立件されたが、警察が動く1年以上前から「丼ぶりに爪楊枝500本をぶちまける」など、悪質な行為が繰り返されてきた。

店はその都度「もしかしたら刺されるかもしれない」と警察に相談したが、被害届が受理されることはなかったという。生命の危険を感じた店主は店を閉める決断を下した。

「何らかの罰がない限り、うちへの迷惑行為は続くだろうし、過激化するんだろうと。殺人事件も起きかねない」(店主)

こうした経緯を弁護士ドットコムニュースが報じたところ、「カスハラの段階で警察が動いていれば」という反響が相次いだ。

警察が守るべき「犯罪捜査規範」では、管轄区域の事件であるかどうかを問わず、被害届の受理をしなければならないと規定されている(61条)。

自らも飲食店を経営し、犯罪被害者の支援にも取り組む元検事の中村浩士弁護士は、警察組織が構造上の問題を抱え「受理を断ることが仕事になっている」と指摘する。

そんな警察に「カスハラ段階」で被害届を受理させるためにはどうしたらよいのか。中村弁護士に聞いた。

●カスハラ被害に警察は「民事不介入」の姿勢

--カスハラ客に対して、警察の注意で済ませるのではなく、実際に罪に問うためにはどうしたらよいでしょうか。

まずは現在の警察が「カスハラ被害」にどのように向き合っているのか、考察したいと思います。

殺人など、多数の凄惨な事件が続いた「ストーカー」の被害相談については、警察庁から全国の警察本部に「明白な虚偽または著しく合理性を欠く」ケースを除いて、被害届の即時受理を徹底するようにとの通達が出ています。

仮に刑事事件として立件が困難と認められる場合でも、被害者らに危害が及ぶおそれがある事案については、「速やかに加害者を呼び出し、必要に応じて担当者が赴くなどして、事情聴取や指導・警告を行う」ことも明記されています。

一方で、ストーカー被害のような悲惨な事件の積み重ねのないカスハラ被害については、警察は「民事不介入の原則」を盾に消極的な姿勢です。

つまり、現に何らかの犯罪被害が発生し、その犯罪を犯した者が誰であるのかを証明する証拠が捜査開始前からそろっていない限り、介入しないという立場です。

世間一般の考え方からすれば、犯人が誰だかわからなくても、重大な犯罪被害が発生する危険があれば、捜査して守ってくれるのが警察だと思われるかもしれませんが、必ずしも現実はそうではありません。

「弁護士さんのところにまずは行ってください」 「そんな被害届を出したら、もし証拠が集まらなければ事件にもできず、今度は逆にあなたが相手から被害届を出されたり、訴えられてしまうかもしれませんよ」

犯罪被害に遭って警察に相談をしても、あれこれと理由を付けて被害届を受理してくれない事態は日常茶飯事です。

また、「まだ被害が発生していないので、犯罪になっていない以上、いくら不安があると言われても、不安だけでは警察は動けませんよ」と言われて、守ってもらえないうちに重大な犯罪被害に遭ってしまうケースが後を絶ちません。

●警察が抱える問題→「受理を断ることが警察の仕事」「処罰即断できない能力不足の警官多数」

――どうしてそんな現状にあるのでしょうか。

その理由として、警察組織が抱えるいくつかの問題を指摘できます。

(1)このような被害相談が無数に存在しており、真摯に対応して事件化できるだけの人員が不足している。「受理を断ること」が警察の仕事になってしまっている面がある。

(2)「このまま放置していたら重大な被害が発生する」という危険度判断のできない能力不足の警察官が多い。

(3)どのような証拠があれば刑事事件として処罰できるのかという点について、その最終的な証拠判断と処罰判断をする検察と警察との間で日ごろからの情報や知見の共有が不足している。捜査実務の風通しの悪さを背景として、これらの判断能力と経験に欠ける警察官が多くなり、その結果、さしたる捜査をせずとも処罰できることが誰の目に見ても明らかな簡単な事件だけ被害届を受理する。また、処罰できると即断できず、処罰するためにどのような証拠を捜査で集めなければならないかがわからない事件については被害届を受理しないという事態が横行している。

(4)警察庁が前述のような通達を出しているにもかかわらず、ストーカー被害以外の被害のほとんどについて、即時受理を徹底するようにという指導がなされていない。

--いずれも警察側の都合であり、被害者側は納得できそうにありません。カスハラ被害を事件として扱ってもらうためにはどうすればよいでしょうか。

カスハラ事案については、その具体的な態様によって、(1)暴行・脅迫罪、(2)名誉毀損罪、(3)強要罪・恐喝罪、(4)威力業務妨害罪、(5)不退去罪などの犯罪に該当する可能性があります。

「殺すぞ」「家族がどうなっても知らないぞ」など、脅迫文言の録音や、誰の目に見ても明らかな激しい名誉毀損のSNS投稿が存在している、あるいは、店に怒鳴り込んで食器を割ったり汚物をまき散らしたりした客が帰っていく様子の録画など、現に犯罪被害が発生し、かつ、その被害の内容が証拠として残っているようなわかりやすい被害については被害届が受理されやすいと言えます。

反面、そのような明確な証拠が存在せず、あるいはまだ現に被害が発生しておらず、ただ不安を抱えているという段階では、なかなか被害届を受理してもらえないのです。

●警察を動かす「証拠収集」と将来への不安軽減のための法的手続き

――具体的にどのように証拠を集めればよいのでしょうか。

携帯や録音機、WEBカメラなどを設置して、犯罪となる音声や行動を録音録画して証拠を確保しましょう。

重大な犯罪被害の危険を感じている場合には、店から退去してもらえず居座られたり、脅迫罪にあたる「脅し文句」を言われたりと、"軽い犯罪"がすでにおこなわれていることが多いものです。

そのような犯罪行為を録音・録画化して、まずはその犯罪として立件してもらいましょう。

ただし、"軽い犯罪"のため、罰金刑などですぐに釈放されてしまう可能性が高い場合には、弁護士に依頼して、接近禁止の仮処分の民事手続等をとるなど、ありとあらゆる法的手段を駆使しながら、将来への不安や、より重大な犯罪被害発生を阻止する工夫を凝らすことが肝要です。

証拠収集活動や警察との交渉においても、刑事事件・警察捜査の実情に精通した弁護士に委ねるのも有益です。

警察が被害届をなかなか受理しない現状は、速やかに改善されるべきです。しかし、そう簡単に変わらない現状の中で被害届を受理してもらい、事件として取り扱ってもらうためには、先ほど述べたような行動をとってください。

【取材協力弁護士】
中村 浩士(なかむら・ひろし)弁護士
刑事弁護及び犯罪被害者支援のほか、一般企業法務を数多く手掛ける検事出身の弁護士。 札幌弁護士会・犯罪被害者支援委員会元委員長、日本弁護士連合会・犯罪被害者支援委員会元委員、利酒師、ワインコーディネーター、上席フードアドバイザー。
事務所名:弁護士法人シティ総合法律事務所
事務所URL:https://city-lawoffice.com/