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早稲田大学の大学院生だった女性が、当時の指導教授で文芸評論家の渡部直己氏からハラスメントを受けたとして、渡部氏と大学に損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が2月22日、東京高裁であった。

増田稔裁判長は、1審・東京地裁よりも33万円多い88万円を渡部氏と大学が連帯して支払うよう命じた。また、1審は、適切な対応をとらなかったとして、大学に追加で5万5000円の支払いを命じていたが、こちらも11万円に増額した。

⚫︎新たにハラスメント行為を認定

原告は、詩人の深沢レナ氏。大学院に入学したあと、渡部氏から「俺の女にしてやる」と言われたり、身体を触られたりするセクハラや、指導上のアカハラなど、複数のハラスメントがあったとして、2019年、渡部氏と大学を相手取り計660万円の損害賠償を求める訴訟を起こしていた。

1審の東京地裁は、原告側がハラスメント行為だと主張した点の多くを「社会通念上許容される限度を超えたとは言えない」などとして退けて、「卒業したら俺の女にしてやる」といった発言など、一部のみ違法性があったと認めていた。

これに加えて、東京高裁は「渡部氏が度々深沢氏に対し、二人きりで食事をすることを求め、食事に行くと渡部氏の食べかけの料理を直箸で深沢氏の皿に乗せる」などの行為を違法と評価を受けるセクハラおよびパワハラにあたると認定した。

また1審では、大学院の合格発表前から授業を聴講するよう言われるなど、渡部氏との間に強い支配従属関係が構築されていたと、深沢氏側が主張していたが、認められていなかった。

これについても、東京高裁は「そのような関係を支配従属関係と評価することはおくとしても」、深沢氏について「指導教員の要求に対し、それが自分の望んだことでなくと本音や言いたいことを言えずに、自分の置かれた立場を考慮して黙って受け入れること」が起こりやすい状況にあったとした。

⚫︎「学生が裁判で被害を訴える限界を感じる」

控訴審の判決後、東京・霞が関の司法記者クラブで記者会見を開いた深沢氏は次のように述べた。

「判決である程度の前進がありました。教員と学生の間に著しい力関係の差があって、はっきりと言えないこともあり得るということが強調されたという点は、改善されたと思います。

しかし、そういうふうに強調されたにもかかわらず、認められたハラスメント行為が多いとは言えず、教員が学生の体に触るといった行為はなぜか認められませんでした。男性が多い裁判所の遅れを感じざるを得ません。

自分の被害について真実を明らかにすることはできませんでした。司法は改善していかなければと思いますし、学内で被害に遭った学生が裁判で解決することの限界を感じます」

⚫︎「教育機関のハラスメント防止法を」

この会見には、ハラスメント問題にくわしい鈴木悠太弁護士も同席して、今回の判決についてこう指摘した。

「提訴時から、支配従属関係がつくられる中で一連のハラスメントがあったと主張していますが、1審でも控訴審でも、個々の行為を切り分けて判断してしまっています。これは日本の裁判所の問題点だと思います」

また、同じく会見に同席した独立行政法人労働政策研究・研修機構の内藤忍副主任研究員は、日本におけるセクハラ訴訟の賠償金の低さを指摘。国内におけるハラスメント防止は、労働法で整備されているとしたうえで、次のように述べた。

「大学など教育の場におけるハラスメントについては、 企業のように法的な予防対応義務が課せられておらず、教育の場におけるハラスメントを防ぐ立法が急務です」