モバイル事業への本格参入以降、連続赤字と資金繰りに苦慮してきた楽天。ついに浮上のときを迎えるのか(撮影:風間仁一郎)

トンネルを抜ける日は、いよいよ近いのか。

2月14日に発表された楽天グループの2023年12月期決算は、売上高が前期比7.8%増の2兆0713億円、営業損益が2128億円の赤字(前期は3716億円の赤字)だった。

営業赤字が大幅に縮まったのは、モバイル事業の採算改善が主因だ。セグメント単体では3375億円の赤字と、前期から1400億円余り縮小している。売上高の増加に加え、コスト削減や基地局整備の一巡が大きく貢献した。

楽天市場を中心としたインターネットサービス、楽天カードなどのフィンテックのセグメントでも、取扱高が順調に拡大したことなどから増益を達成している。

5期連続赤字、無配でも株価は急騰

5期連続赤字を受け、配当は過去20年で初めての無配としたものの、楽天グループの株価は749円(2月20日終値)と、2月14日比で19%高にまで急騰。「サプライズはなかったが、(懸案だったモバイル事業の)進捗に安心感がある」(アナリスト)と、ポジティブな受け止めが目立った。

楽天は2024年12月期の業績予想を公表していない。ただし、モバイル事業については2024年12月までにEBITDA(利払い前、税引き前、減価償却前利益)ベースで単月黒字化を目指すとし、2025年12月期には通期黒字化を計画している。

モバイル事業への本格参入以来、長らく続いていた低迷期を抜け出し、ついに浮上のときを迎えるのか。楽天の未来を占ううえでは、3つの指標が重要になってくる。

第1に、モバイルの契約数だ。2023年12月末の契約数(MVNO・BCPを除く)は596万と、10〜12月の3カ月で84万回線増えた。

四半期ごとの増え幅としては、300万人まで月額使用料を1年間に限って無料とするキャンペーンなどでユーザーを急拡大させていた2021年1〜3月期(純増数は123万)に次ぐ水準となった。


楽天は、2024年中に契約数を800万から1000万まで押し上げることを目標に掲げる。ユーザー1人当たりの平均単価を2500円〜3000円と仮定した場合、この契約数がモバイル事業を黒字化できる水準とみているからだ。

直近四半期の増加ペースを2024年末まで維持できれば、単純計算で契約数は932万に達し、黒字化の下限として示した800万を大きく上回ることになる。

足元の伸びは法人向けが牽引

ただ、目標達成に向けては課題もある。個人ユーザーの開拓だ。

足元の契約数の伸びを牽引しているのは、楽天が2023年1月からサービス提供を始めた法人向けが中心とみられる。実際、決算資料では「B2Bは(中略)年末にかけてパイプラインの獲得が大幅に進み、第4四半期の契約回線数が顕著に増加」と記されている。

料金の割安感を訴求し、従来取引のある約90万社の顧客基盤を中心に新規獲得を続けているもようだが、楽天の取引先は従業員数の少ない中小企業が大半を占める。競合キャリアが先行して長らくサービスを提供している領域でもあり、この1年の勢いを持続したまま乗り換えを促す難易度は高いだろう。

さらに言えば、業務用の法人向け携帯の契約数は、国内市場全体の1〜2割程度とされる。法人頼みのままでは、早晩伸びが鈍化しかねない。

昨年末に法人向けの契約が急増したことで、ユーザーの単価にも影響が出ている。2023年9〜12月期の平均単価は1986円と、前の四半期比で3%低下した。個人向けより単価が低い傾向にある法人向けの比率が高まったことが響いたようだ。

先述の通り、契約数800万〜1000万での黒字化の前提条件として、会社側はユーザー単価を2500〜3000円と設定している。現状比で2割以上引き上げる必要がある。

こうした背景から、楽天は個人向けの開拓に向けた施策を相次いで打ち出してきた。

2月1日から、モバイルユーザーが別の人を紹介した場合、楽天ポイントを1人につき7000ポイント還元するなどのキャンペーン施策を開始。2月21日からは家族で契約した場合、ユーザー1人当たり100円割引を受けられる家族割プランの提供を始める。

楽天の三木谷浩史会長兼社長は2月14日の決算会見で、「(単価を引き上げるために)追加の施策が必要だ。とくに(楽天モバイルユーザー向けのアプリ内に掲載する)広告収入が増えていくだろう」と展望を語った。

データトラフィックが多く、高単価な個人向けを拡大できれば、収益力向上にもつながる。今後登場してくる追加施策の具体的中身に注目したい。

モバイルへの設備投資は大幅減を見込む

楽天の未来を占う第2の指標は、赤字の元凶となってきたモバイルへの設備投資の額だ。

2024年12月期の計画は約1000億円と、前期の1776億円から4割減を見込む。年間数千億円を投じてきた2〜3年前と比べると、山は越えたといえる。

楽天はモバイル事業の参入当初、約6000億円で全国に4G用の基地局網を整備できると見込んでいた。しかし必要となる基地局数の見通しが甘かったことなどから、結果的に累計の設備投資額は1兆円を超える規模にまで膨らんだ。

こうした過去の経緯を踏まえると、先行きに不安も残る。

楽天は2023年末、屋内でもつながりやすいとされる周波数帯「プラチナバンド」の700MHz(メガヘルツ)帯の割り当てを総務省から受けた。2024年5月をメドに利用を始める予定だという。

割り当てを受ける際に総務省へ提出した資料では、プラチナバンド整備に伴う追加の設備投資額を10年間で500億円強と試算。整備期間の後半にその比重が大きくなるとしている。

ただ、楽天にとってプラチナバンドの獲得は初めてのこと。競合からは「500億円の投資でできるとはさすがに思わない」(ソフトバンクの宮川潤一社長)といぶかしむ声も上がっていた。仮に設備投資の見通しに再び狂いが生じれば、財務面では手痛い打撃となる。

とくに懸念されるのが、社債・劣後債の償還への影響である。今後2年で償還を控えた社債・劣後債の規模は約7000億円に上り、これが第3の指標だ。


モバイル事業への投資原資を確保するため社債の発行を続けてきた楽天では、その償還が2024年から2025年にかけてピークを迎える。楽天本体の総額では、2024年に2200億円強、2025年は4800億円弱に達する見通しだ(編集部注・ドル建て債は1ドル150円で計算)。

2月6日には約2700億円のドル建て社債(利率11%)を発行するなど、資金の調達に邁進している。会社側は「2024年のリファイナンス(負債の借り換え)リスクは解消した」と強調する。

リファイナンスは可能だと確信

2025年に満期を迎える償還分についても、国内の個人向け債券(リテール債)の新規発行による借り換えや、楽天証券を傘下に抱える楽天証券ホールディングスの株式上場といった資本性資金の調達で乗り切る方針だ。

楽天によれば、2022年と2023年にそれぞれ国内向けで1500億円(利率0.72%)、2500億円(同3.3%)ずつ発行したリテール債は好評を博し、たちまち完売したという。「日本のリテール債市場は厚みがあり、当社の認知度も高いことから、リファイナンスは可能であると確信」(楽天)しているようだ。ただ、S&Pグローバル・レーティングなどの格付け会社はここ1〜2年の間で楽天の格付けを相次ぎ引き下げている。

資本性資金の調達にも不透明感が漂う。楽天証券HDは2023年7月に東京証券取引所へ株式上場を申請していたが、同年11月にみずほ証券が楽天証券に追加出資を決定したことを踏まえていったん申請を取り下げていた。現時点で上場のメドは立っていない。

今なおリスク要素を複数抱える楽天だが、1年前と比べれば、浮上に向けた道筋が見えてきたことも確か。3つの指標の進捗を追うことで、同社が今後たどるシナリオの解像度を高められるだろう。

( 高野 馨太 : 東洋経済 記者)