楽天モバイルは2024年2月16日、親会社の楽天グループが出資する米AST SpaceMobileと共同で、衛星と携帯電話の直接通信によるサービスを、2026年内に提供を目指すことを明らかにした。同種のサービスはKDDIが米Space Exploration Technologies(スペースX)の「Starlink」を活用して2024年内に提供予定であることを明らかにしているが、楽天モバイルの優位性はどこにあるのだろうか。

○衛星通信の実証に目途が立ちサービスを具現化へ

2024年2月に入り、家族割引施策「最強家族プログラム」の提供を発表するなど精力的な動きを見せている楽天モバイル。その楽天モバイルが2024年2月16日に発表したのが、衛星と携帯電話との直接通信によるサービスの提供を、2026年内に目指すというものだ。

このサービスを実現する上でのパートナーとなるのが、米国のAST SpaceMobileという企業。楽天グループは楽天モバイルが携帯電話事業に本格参入を果たした2020年に同社(当時はAST&Science)に出資し、衛星と携帯電話との直接通信実現を目指してきたのだが、その実現に目途が立ったことから具体的なサービス提供時期を明言するに至ったようだ。

楽天モバイルは2024年2月16日、AST SpaceMobileと共同でスマートフォンと衛星との直接通信によるサービスを2026年内に実現する予定だと発表している

実際AST SpaceMobileは、2022年9月に携帯電話との通信が可能な試験用の人工衛星「BlueWalker 3」の打ち上げに成功。2023年4月にはBluWalker 3と市販のスマートフォンとの直接通信試験に成功しており、当初は音声通話のみだったが、その後LTEや5Gによるデータ通信も実現したとしている。

そこで楽天モバイルは、日本でもBlueWalker 3とスマートフォンの直接通話を実現するための実証実験を実施予定とのこと。2022年11月には通信試験・事前検証用の実験試験局の予備免許も取得しており、衛星と地上との通信を担うゲートウェイの試験局を福島県内に設置し、北海道の内山間部で直接通信の試験・検証を実施するとしている。

国内での実証を進めながら、今後本格的に打ち上げる衛星がサービス提供に十分な数に達するのを待った上で、提供開始できる予定の時期が2026年となるようだ。宇宙から発信した電波を地上の携帯電話で利用するには法制面の整備も必要不可欠だが、楽天モバイルの代表取締役会長である三木谷浩史氏は行政側が「非常に協力的」と話しており、法制面でのハードルは高くないと見ているようだ。

楽天モバイルの衛星通信を活用したサービスのイメージ。通常のエリアでは楽天モバイルの回線に接続するが、利用できない場所では衛星通信にシームレスにつながる仕組みとなるようだ

○巨大な衛星で高速通信を実現、2年後の優位性は

ただ同種のサービスは、既にKDDIがスペースXと提携し、スペースXの低軌道衛星群と「Starlink」とスマートフォンを直接接続するサービスの提供を2024年内に予定している。こちらは当初提供されるサービスがSMSの送受信のみとなるものの、スペースXが既に衛星通信サービスを実現している実績もあって、楽天モバイルより2年早くサービス提供を実現する予定となっている。

KDDIはスペースXと、スマートフォンと衛星との直接通信によるサービスを2024年内に提供予定。スペースX側も対応する衛星の打ち上げを着々と進めている

では、2年サービスが遅れる楽天モバイルは、KDDIが予定しているサービスと比べどこに強みがあるのかというと、それは通信速度である。AST SpaceMobileが打ち上げたBluWalker 3もStarlinkと同様に低軌道衛星の一種となるが、打ち上げ後にパネルを展開して8m×8mという非常に大きな面積の衛星となることから、その大きさを生かして競合の通信衛星より一層高速大容量通信を実現できる点が大きな特徴となっている。

AST SpaceMobileが打ち上げた「BluWalker 3」は、展開すると非常に大きなサイズとなり、その大きさで他社より一層の高速大容量通信を実現するとしている

実際AST SpaceMobileでは、2023年9月に米国で衛星通信による5Gでの音声通話の実証実験を実施したというが、この際通信速度は14Mbpsとのこと。衛星とスマートフォンとの直接通信といえば、既に米アップルが海外で緊急時のメッセージ送信を実現しているが、このサービスではごく少数のテキストしか送ることができない。そのことを考えるとBluWalker 3の通信速度がいかに高速であるかが理解できるだろう。

BluWalker 3による実証実験では5Gによる音声通話も実現しており、その際の通信速度は14Mbpsとのこと。スマートフォンと衛星との直接通信としては非常に高速だ

AST SpaceMobileでは今後より大きなサイズの衛星を打ち上げ予定で、BluWalker 3より一層高速通信を実現できるとのこと。また衛星のサイズが大きいだけあって打ち上げる衛星の数も少なくて済むそうで、数千規模の衛星を打ち上げているStarlinkに対し、AST SpaceMobileの衛星は90基くらいで全世界をカバーできるとしている。

その特徴を生かし、楽天モバイルではサービス提供開始当初からSMSなどではなく、より通信量が大きい音声通話やデータ通信を実現したい考えのようだ。そうした意味ではSMSのみの提供となるKDDIよりサービス開始が2年遅れたとしても、十分競争力を持てる可能性はあるだろう。

ただスペースX側も2年の間にスマートフォンと直接通信できる衛星を多数打ち上げ、通信速度や容量を増やしてくることは間違いない。しかも現在はまだ具体的な動きを見せていないNTTドコモやソフトバンクも含め、今後衛星通信を巡る動きが非常に活発となる可能性がある。それだけに楽天モバイルがサービス開始時にどこまでの優位性を確保できるかは、まだ見通すのが難しいというのも正直な所である。