1600万人以上の米国人が「酒さ(鼻や頬を中心として、顔に赤みがでる皮膚疾患)」に悩んでいる。だが、赤みが出やすい敏感な肌タイプに適した製品を提供するブランドにとって、そうした買い物客にリーチするのは難しくなっていた。しかし今後、それが変わるかもしれない。

患者と美容企業の双方にメリットがある新たな認証シール



2024年1月25日付で全米酒さ協会(National Rosacea Society、以下NRS)が新たに発行した認証シールのおかげで、美容業界の酒さに特化したコーナーが拡大しそうだ。この認証シールは、酒さ患者だけでなく、赤みや過敏症に悩むすべての人々が使用できるよう、厳格な試験を経て医師から成る委員会が承認した製品であることを購入者に知らせる手段となる。

これは全米皮膚炎協会(National Eczema Association)の認証シールに続くもので、同協会が2008年に認証を開始して以降、タワー28(Tower28)、アビーノ(Aveeno)、バーツビーズ (Burt's Bees)、セタフィル(Cetaphil)、セラヴィ(CeraVe)など数十のブランドの約400点の製品が承認されている。2024年1月下旬、全米皮膚炎協会はそのシールをリップケアやデオドラント製品にも拡大すると発表している。

NRSの会長兼エグゼティブディレクター、アンドリュー・ハフ氏は、Glossyに対し次のように語った。「我々は32年前から組織として活動してきたが、どのような製品を使えばいいのかというのが、当初からもっともよくある質問のひとつだった。(酒さは)皮膚科で5番目に多い診断で、自分の肌に合う製品を見つけるのにかなり苦労している人々が数多く存在するが、この非常に大きなグループには、ほとんど注意が払われていない」。

NRSは、製薬会社やスキンケア企業からの寄付や企業支援によって運営されている非営利団体で、酒さの認知度を高め、教育を提供し、研究を支援することを使命としている。ハフ氏がGlossyに語ったところによると、同団体は2023年4月に酒さの啓発月間を設け、酒さ研究に170万ドル(約2.5億円)の資金を提供している。

「(認証シールが)患者が製品を見つけるための手段となるだけでなく、スキンケアや化粧品会社にとって、この大規模なグループに適した製品を提供するためのきっかけにもなることを願っている」とハフ氏は言う。

厳格な臨床試験と審査で製品を承認



認証シールを申請するためには、ブランドは自社製品に関する30人規模の厳格な臨床試験とメーカーのデータシートを提出しなければならない。それらは匿名の独立した皮膚科医チームによって審査される。このチームを監督する臨床および研究皮膚科医でNRS理事会の一員でもあるゾーイ・ダイアナ・ドレイロス医師(MD、FAAD)は、「全プロセスが学術的で独立したものでなければならないので、匿名となっている」とGlossyに話した。

申請料は1500ドル(約22万円)だ。ハフ氏いわく、一度認可されるとシールのライセンス料として、企業の収益に応じて年間2500ドル(約37万円)から1万ドル(約148万円)かかるという。ライセンス期間は2年間で、製品に変更がなければ自動的に同じ料金で更新される。

承認が下りたら、NRSはプレスリリースを通じて製品の新しいシールを宣伝し、承認された製品をデータベースに追加する。Glossyが話を聞いたブランドは、製品ページ、ソーシャルメディア、顧客向けeメールマーケティングのほか、店内の陳列棚やパッケージにシールを追加し、製品が承認されたことを宣伝する予定だという。これには新しい二次パッケージやディスプレイに多額の投資が必要になる可能性がある。

スキンフィックス(Skinfix)の創業者兼CEOのエイミー・ゴーディニール氏はGlossyに対し「2024年後半にセフォラ(Sephora)の店舗にこのシールを導入予定だ。今後のさらなる展開に注目してほしい」と語った。

全世界で4億1500万人以上の患者がいる「酒さ」



ドレイロス医師は、認証シールによって酒さ患者に適した処方に焦点を当てることで、赤みを抑えて炎症を鎮め、肌を落ち着かせて、バリア機能を改善するスキンケア技術を開発する企業が増えることを期待している。

「酒さを誘発しないように製品を処方できるだけでなく、ブランドは酒さを改善し、処方治療後のメンテナンス製品として機能する処方、あるいは本当に軽度の酒さの人々向けの処方を提供することもできる」とドレイロス医師。「(私たちが承認しているような)OTC製品を使用するだけでよい患者もいる」。

米国皮膚科学会(American Academy of Dermatology)によると、データが入手可能な最後の年である2013年には、160万人以上が酒さの治療を受け、その年の酒さの治療にかかった総医療費は1億6500万ドル(約244.8億円)だった。

英国皮膚科学会誌(British Journal of Dermatology)によると、酒さは全世界で4億1500万人以上、つまり約5.46%の人々に影響を及ぼしている。米国皮膚科学会によれば、米国人の約1600万人が罹患している。

正確な原因が解明されていない酒さ



米国皮膚科学会によると、酒さはさまざまな原因による炎症によって引き起こされると考えられているが、正確な原因はまだ完全には解明されていない。ストレス、食べ物、熱、日光、化粧品などが引き金となる可能性があり、30歳から50歳の女性に多い。

酒さ患者は、敏感肌、反応性の皮膚、ほてり、発赤、腫れ、にきびのような吹き出物、でこぼこした肌質、まぶたの発赤や炎症など、さまざまな症状を経験する。酒さ患者は、従来のスキンケア製品や化粧品に肌が触れると、ヒリヒリ感やかゆみ、またはチクチクした感じを経験することが多く、これは香料、清涼成分や温感成分、浸透促進剤、さらっと感やテクスチャーのために使用されるアルコールのような揮発性成分といった、一般的な成分カテゴリーによって誘発されることが多いとドレイロス医師は言う。

製薬会社のガルデルマ(Galderma)が酒さ患者を対象に実施した2021年の研究では、パンデミック時にマスクを着用すると、赤み、吹き出物、ほてりなど、参加者全体の3分の2の症状が悪化することがわかった。

悩んでいる顧客のニーズに特化したスキンケアを



ハフ氏はGlossyに対し、NRSはこれまでに提出された認証シールをすべて承認したと話している。認証シールを獲得した最初の10製品には、ビーRx(Bee Rx)、ローラゲラー(Laura Geller)、プリクエル(Prequel)、センテ(Senté)、スキンフィックス、セリカ(Serica)のスキンケアとメイクアップ製品がある。

「(酒さ患者が)直面する課題を目の当たりにして、そのニーズに特化したスキンケアを開発する気になった」と話すのは、プリクエルの創業者で認定皮膚科医のサマンサ・エリス医師だ。「認証シールは、効果的で優しい解決策を生み出すという私たちの姿勢を証明するだけでなく、酒さに悩む人々に自分の状態を管理する上で信頼できる選択肢を提供するものだ」。

酒さに焦点を当てた美容市場の成長は、OTC市場の台頭、無香料やクリーンフレグランスのカテゴリー、敏感肌用に設計または承認された製品、アトピーなどの湿疹用に承認された製品など、ほかのいくつかの成長カテゴリーと大きく重複している。

スキンフィックスのゴーディニエ氏は、「世の中にはあまりにも多くのスキンケア製品があるが、このシールによって、酒さに悩む顧客が自分に最適な製品を簡単に見わけられるようになることを願っている」と語る。

成長機会の高いカテゴリー



このカテゴリーの成長機会は高い。市場調査会社モルドールインテリジェンス(Mordor Intelligence)は、酒さの市場規模は2024年に20億9000万ドル(約3100億円)に達し、年平均成長率8.74%で成長して、2029年には31億9000万ドル(約4733億円)に達すると予測している。

米国で46店舗のレーザーフェイシャルスタジオをチェーン展開し、肌の悩みをターゲットにした製品をコーディネートしているスキンランドリー(Skin Laundry)は、酒さが成長カテゴリーだと考えている。同社のメディカルディレクターであるロベルタ・デル・カンポ医師は次のように話した。「当社は米国内だけで月平均2万6500件のレーザーフェイシャルを行っているが、そのうちの約10%は酒さの解決策を求める顧客のためのものだ。(酒さは)頻繁に診断されるようになっており、より効果的な新しい治療法があるという知識も主流になりつつある。酒さはにきびやアトピーなどの湿疹と間違われることが多く、酒さの人は通常、症状の悪化と緩和の時期を経験する」。

また、アポストロフィ(Apostrophe)やキュロロジー(Curology)といったブランドも、遠隔医療や処方スキンケアを通じて、このカテゴリーの顧客に治療を提供している。キュロロジーのメディカルディレクターであるホイットニー・トルピンルード医師は、「当社の認可された皮膚科専門医は、毎日(酒さ)の治療を行っている」と語る。「酒さは治るものではないが、症状を最小限に抑える局所治療や内服治療がある」。

酒さに悩む人々の認証シールへの期待



2024年1月下旬、(Reddit内の)サブレディットr/Rosaceaでは、6万1000人のメンバーの一部がNRSの新しいシールについて議論した。「リストが増えてほしい」とあるメンバーは言う。「多くのブランドが酒さに適しているというラベルを申請するようになれば、超便利になる」。

また、スキンケアブランド向けのガイダンスを参照して自分の肌のことをより知るために、認証シールの文章の詳細に目を通す人もいた。「認証のガイドラインを読むのはとても役に立つとわかった」と別のRedditユーザーは言う。「たとえば、最初のふたつのカテゴリーに含まれる成分を避けることはすでに知っていたけど、『浸透促進剤』というカテゴリーについては私は知らなかったので、避けるべき成分が少なくとも2つ増えた」。

Redditのコメント投稿者のなかには、承認された製品数が少ないことに失望している人もいる。「ラ・ロッシュ・ポゼ(La Roche Posay)、アベンヌ(Avene)、セラヴィとか、たくさんの人が愛用し、世界中の多くの皮膚科医が推奨しているブランドはどこにいった?」

業界に専門知識をもたらし売上を促進する



現在、酒さの発症を引き起こさない製品をオンラインで見つけるのは難しいかもしれない。Amazonの「美容+パーソナルケア」カテゴリーでは、「酒さ」という言葉で検索すると4000点以上の製品がヒットする。紹介されるブランドには、セタフィル、ラ・ロッシュ・ポゼ、アビーノ、ポーラズチョイス(Paula’s Choice)、イット・コスメティックス(It Cosmetics)、ユーセリン(Eucerin)などがある。

アルタビューティ(Ulta Beauty)では「酒さ」で検索すると、クリニーク(Clinique)、E.l.f、ダーマブレンド(Dermablend)を含む24点の製品がヒットする。セフォラでは、タワー28のSOSラインやドクタージャルト(Dr Jart+)のシカペア(Cicapair)ラインなど、カテゴリー全体で399点ヒットした。ウォルマート(Walmart)では505点が見つかり、その中にはアビーノ、プロゼイシア(Prosacea)、ジールシー(ZealSea)などがある。

「多くの酒さ患者が非常にフラストレーションを感じているのを目にしている」とドレイロス医師は言う。「話題にならない病のようなものだ。アトピーなどの皮膚炎ほどには報道されていない。(このシールの背景には)業界には医学的な専門知識を、患者には利益をもたらすだけでなく、消費者の売上も促進する架け橋を作り、すべての関係者に有益であるという考えがある」。

[原文:Brands are betting on the rosacea-focused cosmetic and skin-care category’s growth with its first seal of acceptance]

LEXY LEBSACK(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)