スタンダード上場の九州企業、鳥越製粉にアクティビストから株主提案があった(写真は鳥越製粉の事業報告書の一部)

鳥越製粉に対し、アクティビスト(物言う株主)が3月開催予定の株主総会に向けて株主提案を行ったことが、東洋経済の取材でわかった。

鳥越製粉は福岡市に本社を置く製粉の中堅。東京証券取引所のスタンダード市場に上場している。

これまでアクティビストの株主提案はプライム市場に上場する企業に対するものが中心だった。しかし、「2024年はアクティビストのターゲットがスタンダード上場の地方企業に広がり、株主提案の件数は過去最高を更新するのではないか」(株式市場関係者)と見られている。

鳥越製粉に株主提案を行ったのは、香港の投資会社であるリム・アドバイザーズ。過去にJTやテレビ東京ホールディングスなどへ株主提案をしたことのあるアクティビストだ。

関係者によればリムが問題視しているのは、鳥越製粉のPBR(株価純資産倍率)の低さ。0.4倍前後と、解散価値である1倍割れが常態化していることだという。

鳥越製粉は自己資本比率が79.9%(2023年9月末時点)と高い。現預金が80億円、投資有価証券を合わせた有価証券が125億円ある。計205億円と流動性の高い運用資産が総資産の半分弱を占める。これは時価総額165億円(2024年1月19日時点)の1.24倍に相当する。リムは鳥越製粉が資本効率の悪化を放置し、低PBRの状態を招いていると見ているわけだ。

買収防衛策も問題視

さらにリムは、鳥越製粉が買収防衛策を導入している点についても問題視。「PBR1倍割れのまま買収防衛策を導入しているというのは、上場企業としてふさわしくないと考えている」(投資ファンド関係者)ようだ。

株主提案についてリムは「個別の案件には回答できない」としているが、関係者によればリムは、自己株買いや増配といった株主還元策のほか、持ち合い株式の売却、そして資本コストや取締役報酬の開示などを求めているという。

これに対し鳥越製粉は「株主提案は受領している。提案内容への対応については現在検討中」とコメントしている。

東証もPBRの低い企業が欧米に比べて多いことを問題視しており、上場企業に対して改善に向けた取り組みを促している。

2023年3月、東証はプライム市場とスタンダード市場の全上場会社に対し、資本コストや株価を意識した経営に取り組むことを要請。株価水準の引き上げに向けた具体策の実行と開示を求めた。

中でもPBRの1倍割れについては、「資本コストを上回る資本収益性を達成できていない、あるいは成長性が投資者から十分に評価されていないことが示唆される1つの目安」として、改善に向けた方針や具体的な目標の開示を強く求めている。

プライム企業の開示率は40%にとどまる

だが、取り組みの進捗状況は芳しくない。東証は、資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応をコーポレートガバナンス報告書で開示した企業のリストを1月15日に公表した。

それによれば2023年末までにプライム企業で開示があったのは660社で、全体の40%に過ぎなかった。もちろんPBRが高い企業もあるため一概に開示率が低いとも言い難いが、PBR0.5倍未満の企業でも49%、0.5倍以上1倍未満の企業でも51%と半分程度しか開示しておらず、まだ不十分と言える。


「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」についての東証のまとめによればプライム企業の「開示済み」は660社にとどまる(東証のホームページより)

投資ファンド関係者は、「プライム企業はまだマシなほう。スタンダード企業に関してはさらにひどい状況だ」と嘆く。

東証の集計によれば、スタンダード企業で開示したのは191社と、全体の12%に過ぎない。「検討中」を含めても19%だ。「スタンダード市場にはPBR1倍割れの企業が多く、中でも地方企業は惨憺たる状況。にもかかわらず、プライム企業と比べて目立たないことをいいことに、株主への関心が薄いようだ」と投資ファンド関係者は指摘する。

今回、株主提案を受けた鳥越製粉もスタンダード上場の地方企業で、PBRは1倍割れ。2023年12月に発表した2024〜2026年の中期経営計画の基本方針には、「時代の変化に対応した新しい価値を創出する」といったことが書かれている。

だが、株主還元については「継続的な安定配当を基本とし、配当は業績推移、当社を取り巻く経営環境、将来の事業展開等を総合的に勘案して実施する。配当性向は40%以上を目標とする」と書かれている程度。直近3年間の配当性向は62%、39%、38%なので、目標は現状とほぼ同水準だ。

地銀への株主提案も検討されている

別の投資ファンド関係者は、「地銀はPBRが軒並み低い。東証の要請に応じて取り組みこそ開示しているが、その実効性には疑問符が付くところも多い」と指摘。「すでに一部の地銀の株式を取得しており、経営陣との対話次第では株主提案を検討していく」と明かす。

2023年6月の株主総会で株主提案を受けた企業は90社で過去最高を記録した。2024年はアクティビストがスタンダード上場の地方企業などへ対象企業の網を広げており、昨年を上回る株主提案が行われる可能性が高そうだ。

(田島 靖久 : 東洋経済 記者)