グッドスピードでは、実際には納車未了の車両を納車として処理し、売上を先行計上する「納車テイ」と呼ばれる行為が横行していた(時事)

「GSグループにおける納車テイによる売上の先行計上は、長期間かつ広範囲で行われており、営業部門のみならず、他部署の役職員も含めて多数の役職員が納車テイに関与ないし認識をしていた」

東海地方を地盤とする中古車販売大手・グッドスピード(以下GS社)が、2019年4月の新規上場以前から不正会計を行っていたことがわかった。2023年9月、監査法人から過去の決算に関して不適切な会計処理の疑義があると指摘された同社は、第三者委員会を設置して調査を行っていた。

冒頭の文言は、1月4日に公表された第三者委員会の調査報告書に記載された1文である。

売上の先行計上が横行

調査報告書には、2017年10月からの約6年間にグループで、計5951件の「売上の先行計上」が行われていたこと、その詳細な手口が記されている。

GS社は車両販売において、顧客への納車を基準に売上計上している。しかし、実際には“納車未了”の車両を“納車”したとして社内処理し、売上計上する「納車テイ」と称される行為が横行していた。

納車テイは営業本部の指示で行われるもののほか、各販売店の判断によって行われるケースもあった。また、バイク事業を担う子会社のチャンピオン76(以下CH社)でも、納車テイが行われていたという。

営業本部主導の納車テイでは、隠蔽工作も行われていた。

例えば、監査法人による車両在庫の棚卸作業の際、事前に販売店近くの駐車場に納車テイの車両を移動させ、立会監査の終了後に車両を店舗に戻す行為があった。車両の移動作業には、「販売店のスタッフだけでなく、GS社の本社従業員(経理部の従業員等)も動員されていた」。

GS社の不正で特徴的なのは、調査委が経営陣の主導を認めている点だ。

経営陣が不正を主導、組織全体に蔓延

調査委は、創業者でもある加藤久統・代表取締役社長(調査報告書ではA1氏)について、「具体的な指示をしていたという事実は認められず」としているものの、「報告を受け、これを容認していたものと考えられる」と書く。

ナンバー2である横地真吾・専務取締役(同A2氏)については「GS社において納車テイによる売上の先行計上を主導して行ってきた」のであり、平松健太・取締役兼流通本部長及び元営業本部長(同A3氏)は、「専らA2氏の指示に従って、売上の先行計上のための納車テイに係る処理を営業部長その他の部下に指示していた」と指摘する。

松井靖幸・取締役(同A4氏)は管理本部長でありながら「GS社営業本部による納車テイによる売上の先行計上が行われていることを認識していた」うえ、監査法人に「露見することがないよう対象となる販売店から車両を別の場所に移動させることに加担していた」と記している。


営業本部長(当時)が専務に、嘘納車(納車テイ)となる車両の台数等をメールで報告していた(調査報告書より)

調査委がGS社及びCH社の役職員に対して行ったアンケートでは、回答者431人のうち実に31.8%が、売上計上時期に関する疑義など調査対象となっている行為について「関与又は見聞きしたことがある」としている。

「納車テイが当たり前すぎてそもそも悪いことという認識がない従業員も多いと思う」という声すらあった。

営業本部による売上の先行計上が常態化したのはなぜか。

調査報告書では、主要因を「A2氏(専務)において設定した予算(収支計画)を達成することにあったと考えられる」としている。多くの従業員が「GS社の予算の設定は高く、達成には相当な困難が伴う内容であった」と証言しており、調査委は「その内容自体、適正性を欠くものであった可能性は否定できない」と指摘する。

なお、予算を設定していた専務は、「A1氏(社長)からは昨年対比の目標値を達成できないと金融機関との融資の交渉等が難しくなると聞いたことがあり、達成することが必要であった」とも述べている。上から下まで、達成困難な目標により不正が生まれる構図が見て取れる。

売上の先行計上をすると、翌四半期または翌決算期の売上を「先食い」することになる。「一度売上の先行計上を開始すると、継続して予算を達成するためには売上の先行計上を繰り返さなければならない」。まさに負のスパイラルといっていい。

企業会計やガバナンスを専門とする青山学院大学の八田進二名誉教授は、「新規上場企業に見られる、経営者主導型の、非常に古典的な利益水増しだ」「調査報告書も通り一遍のものだ。監査法人がGS社の会計不正にどういう対応をしていたのか、まったく解明されていない」と切り捨てる。同業のIR担当者からは、「あまりに程度が低く、お粗末だ」「監査法人はよく見逃したなと思う」と呆れた声が聞かれる。

不適切な事案はほかにもあった

実は、調査報告書には売上の先行計上以外でも不適切な事案の存在が記載されている。

例えば、GS社の板金塗装を専門に行う「BPセンター」では、当月の目標予算が達成できた場合に、翌月以降への「貯金」として売上の計上時期を遅らせる行為があった。ほかにも顧客が本来GS社に支払う購入代金に一定金額を上乗せして請求する行為についても記載されている。

いずれもアンケートの回答によるものだが、調査対象である「売上の先行計上」ではないため第三者委は深くは追及していない。はっきりしているのは、経営トップから現場までコンプライアンス意識が欠如していた現実である。

今回の売上先行計上は、2023年8月末に金融庁の公益通報窓口に通報があったことがきっかけで発覚した。

8月末といえば、保険金水増し請求を巡って中古車販売最大手・ビッグモーターが7月に開いた謝罪会見が社会的なバッシングを受け、中古車業界全体に厳しい視線が向けられていた時期。GS社でも2023年8月下旬に保険金の過大請求疑惑が浮上、社内調査委員会の調査によって複数の不適切事案が判明している。

問われる「上場の資格」

不正会計疑惑が浮上したことで、GS社は2023年9月期決算を発表できないでいる。金融商品取引法によって各事業年度終了後3カ月以内の提出が義務付けられている有価証券報告書の提出もできていない。

有報に関しては東海財務局に3月29日までの延長を申請し、延長を認められている。東証の規定では、有報提出の延長承認を得た場合、当該期間の経過後8営業日目までに提出できなければ上場廃止となる。

第三者委の調査で売上の先行計上は2018年9月期から認められている(調査の対象期間がこの期からだったためでそれ以前はなかったことを示すものではない)。GS社の上場は2019年4月なので、不正がある決算をもって上場したことになる。

前述の八田名誉教授は、「新規上場時の幹事証券会社の対応についても知りたいところだ。こうしたことまで突きつめなければ、調査報告書にある再発防止策など“絵に描いた餅”で説得力がない」と指摘する。

昨年8月上旬には1400円を超えていた株価は足元700円台で推移している。GS社が投資家から信頼を取り戻す道のりは険しそうだ。

(村松 魁理 : 東洋経済 記者)