世界中で社会現象を巻き起こした『おっさんずラブ』が5年ぶりに続編の放送をスタート(画像:『おっさんずラブ-リターンズ-』HPより)

きっと待望していたひとも多かったに違いない。新年早々、『おっさんずラブ-リターンズ-』(テレビ朝日系)がスタートした。社会現象を巻き起こした『おっさんずラブ』(テレビ朝日系、2018年放送)の続編である。

1月5日の初回放送後、SNSの反応なども上々だったようだ。なぜ、これほど長く愛されるのか? 3つの視点から迫ってみたい。

新しい盛り上がりかたを見せた作品

人気ドラマは数多くあるが、『おっさんずラブ』は、それまでになかった新しい盛り上がりかたを見せた作品だった。

繰り返すまでもなく、『おっさんずラブ』は男性同士の恋愛を明るいタッチで描いた作品。もともとは2016年に単発ドラマとして始まった。田中圭と吉田鋼太郎はここにも出演している。

田中と吉田が会社の部下と上司という関係で、役名も春田創一と黒澤武蔵。黒澤が春田にひそかに恋心を抱いているという設定も同じだった。そこに春田のことを好きな会社の後輩(落合モトキ)、春田とはなんでも言い合える女友だち(宮澤佐江)が絡んでくるところも似ている。

そして2018年、連続ドラマ版(シーズン1)が全7話でスタート。新たに会社の後輩・牧凌太役で林遣都が加わり、春田、牧、黒澤の三者間の恋愛模様が物語の軸となった。

深夜11時台の放送ということもあり、当初の注目度はそれほどではなかったと記憶する。だが最終回の世帯視聴率は初回からほぼ倍増。加えてSNSの反響はすさまじく、第6話と第7話ではTwitter(現・X)の世界のトレンドで連続1位を記録するなど、話題沸騰となった。

したがって放送終了後には、深刻なロスを訴えるファンも多かった。するとそれに応えて脚本の徳尾浩司が自身のTwitterアカウントで存在しない「第8話」の架空実況を始め、ファンも妄想実況を大量に書き込んでトレンド入りするという異例の事態となった。

また海外での反響が大きかったのも、このドラマの特徴だ。韓国、台湾、香港などアジア圏で配信され、際立った視聴数を記録した。さらに田中圭や林遣都の個人人気も過熱。過去に出版した写真集が売り上げ急上昇し、特集された雑誌が重版されるといった現象を巻き起こした。

2019年には劇場版も公開されてヒット。その後シーズン2として『おっさんずラブ-in the sky-』(2019年放送)が放送されたが、こちらは不動産会社から航空会社へと設定がガラッと変わった。またシーズン1のメイン3人のうち林遣都が出演しなかった。

一方、シーズン3となる今回の『おっさんずラブ-リターンズ-』は再び不動産会社に舞台を戻し、林遣都も同じ牧役で復帰。蓋を開けてみれば黒澤が家事代行サービス業に転職という意外な展開、新キャストの井浦新と三浦翔平が演じる謎めいた人物たちの登場もあり、ファンの期待もいっそう高まっている。

では、田中圭、林遣都、吉田鋼太郎による『おっさんずラブ』シリーズは、なぜここまで長く愛されるのか? 思うにその理由は3つある。

エンタメ性とメッセージ性の絶妙なバランス

まずは、テーマの新鮮さがあるだろう。それまで男性同士の恋愛がドラマで扱われなかったわけではないが、ここまで真正面から物語の題材にすることはまだ極めて珍しかった。

しかも『おっさんずラブ』の場合、エンタメ性とメッセージ性のバランスが絶妙なことが、大きなポイントだろう。同性同士の恋愛について深く考えさせるメッセージ性の強いドラマもあっていいが、エンタメとして存分に楽しんだ後、ちょっとそれについて思いをめぐらせるようなドラマもあっていい。『おっさんずラブ』は、いうまでもなく後者の代表である。

徳尾浩司も、「『男性同士で恋愛するときにこういうシチュエーションが萌えるんじゃないか?』というよりは、男女の恋愛と同じく“恋愛ドラマを真っ直ぐに描く”ということが出発点」であったと言う(『アニメ!アニメ!』2018年6月2日付記事)。性別にかかわりなく、ひとが恋愛するときに生まれるドラマを純粋に描こうとしたことがうかがえる。

とりわけ『おっさんずラブ』では、互いの好きな気持ちが時にすれ違いながらも最終的に結ばれるプロセスが、ディテール豊かに、そしてコミカルに描かれているのが特徴だ。そこには、徳尾浩司が言うように「少女マンガ的な表現」のエッセンスが生かされている(同記事)。

この『おっさんずラブ』のヒット以降、ドラマにおいて男性同士の恋愛を扱うことが例外的なことではなく普通になった印象もある。

たとえば、西島秀俊と内野聖陽の主演で、グルメドラマの要素を持つ『きのう何食べた?』(テレビ東京系、2019年放送開始)、「チェリまほ」の通称で親しまれ、繊細な心理描写も魅力の赤楚衛二主演『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』(テレビ東京系、2020年放送)、萩原利久と八木勇征の主演で、男子高校生の恋愛を描いた『美しい彼』(毎日放送。TBSテレビ系、2021年放送開始)など人気作・話題作が近年相次いでいる。

こうしたドラマ的表現の拡張において、オリジナル脚本ということもあわせて『おっさんずラブ』の果たした役割は大きい。

3人の演技合戦が生む化学反応

次に、魅力的な俳優の再発見がある。田中圭、林遣都、吉田鋼太郎にとって、この作品がさらに一段飛躍するきっかけになったのは間違いない。

主演の田中圭は、ここでも演技巧者ぶりを発揮している。長くバイプレーヤーとして活躍してきた田中は、演技の引き出しの多さが光る。ここでは、30代前半の男性サラリーマンでありながら少女漫画的ラブコメの主人公。男性同士の恋愛ということをおいても、難しい役柄だろう。だがそれをまったく違和感なく演じている。

仕事ではミスもするし、家でもずぼら。無類のお人好しでもある。だが、人一倍純粋で、つねに一生懸命であるがゆえに周りから愛される。田中はそんなキャラクターを状況に応じて巧みに演じ分け、魅力的に見せてくれる。時にはハイテンションではしゃぎ、時には相手に甘え、そしてここぞという大事な場面ではまなざしに真剣な力が宿る。

相手役となる林遣都は、まだ30代前半ながら俳優としてのキャリアは長く、そのなかで練り上げられた自然体の演技にいつも惹きつけられるものがある。しかも役に対する理解力の高さを兼ね備えているがゆえに、演じる役柄の幅も広い。

『世界は3で出来ている』(フジテレビ系、2020年放送)では、1人3役の3つ子役を達者に演じて高く評価された。一方、最近で言うと『VIVANT』(TBSテレビ系、2023年放送)などはまったく違う役柄だった。

『おっさんずラブ』では、春田の優秀な後輩という役柄。家のことはなにもできない春田に対し、きれい好きで料理もできる。そして春田に一途な思いを寄せる。そんな人物を林遣都は、ここでもナチュラル、かつ繊細な演技で造形している。時々ふとよぎる陰の魅力も林の真骨頂で、牧というキャラクターに深みを与えている。

吉田鋼太郎がテレビドラマでブレークしたのは50代になってから。NHKの連続テレビ小説『花子とアン』(2014年放送)への出演などがきっかけだった。かなりの遅咲きである。だが舞台でのキャリアは長く、特にシェイクスピア劇などの名優として知る人ぞ知る存在でもあった。

だから、吉田の演技には舞台で鍛え上げたスケール感がある。身ぶりにしてもセリフ回しにしても大きく、迫力満点。仕事では頼りになるやり手だが、実は春田に思いを募らせ続ける乙女チックな上司という振り幅の大きい役柄も、そうした吉田鋼太郎の演技の質にフィットしていた。同時にそこからにじみ出るなんとも言えないおかしさがあり、その点でも貢献度は高い。

そんな持ち味の異なる実力派俳優3人にとって、三角関係というのは心置きなく演技力を発揮できる格好の設定だ。実際、密度の濃い化学反応も生まれ、『おっさんずラブ』は3人の演技合戦を堪能できる稀有な作品になった。

共演する内田理央、眞島秀和、大塚寧々、伊藤修子、金子大地、児島一哉らも皆、ハマっている。このシーズン3の初回も、全員がノッている様子が伝わってきた。

教えてくれる人間の本質的な可愛らしさ

そして最後に、このドラマは人間が持つ本質的な可愛らしさを教えてくれる。

春田も牧も黒澤も、皆個性はバラバラだがとにかく可愛らしい。誰しも長所もあれば、短所もある。むろん3人とも完璧な人間ではない。時には気持ちを抑えきれなくなって暴走したり、言ってはいけないことを言って相手を傷つけたりもする。だがそれもひたむきな気持ちから来るもので、だからこそ愛おしい。

そんな可愛らしさは、年齢や性別に関係なく誰もが持っているものだろう。『おっさんずラブ』では、大人の男性同士の恋愛というシチュエーションだからこそ、その人間本来の可愛らしさが一段と浮き彫りになる仕掛けになっている。

それは、国や文化の違いを越えて響くものに違いない。『おっさんずラブ』が海外で大きな反響を巻き起こしたことも、そう考えれば納得できる。だから、単に楽しめるだけでなく繰り返し見ても飽きることがない。『おっさんずラブ』がここまで息の長い人気を保っている最大の理由も、実はその辺にあるのかもしれない。

(太田 省一 : 社会学者、文筆家)