協業を発表したオリンパスのドレバロウスキー最高内視鏡事業責任者(左)とキヤノンメディカルシステムズの瀧口社長(写真:風間仁一郎)

内視鏡世界トップのオリンパスとキヤノンの子会社で医療機器大手のキヤノンメディカルシステムズ(以下、キヤノンメディカル)が1月15日、協業を発表した。超音波内視鏡検査で使用する超音波診断装置をキヤノンメディカルがオリンパスに提供する、という内容だ。

「オリンパスとキヤノンの専門性とサポート体制を合わせたソリューションにより、患者に最適なケアを提供できる」。同日開催された記者会見の場で、オリンパスの最高内視鏡事業責任者であるフランク・ドレバロウスキー氏は協業に期待を込めた。

内視鏡の領域にこれまで参入していなかったキヤノンメディカルにとっても、協業は自社の技術を生かす機会となる。

超音波診断装置をキヤノンメディカルが提供

臓器などから跳ね返る超音波を基に体内の様子を画像化するのが超音波診断装置。身近なところでは、産婦人科で妊婦の胎内の様子を観察する際に一般的に使用されている。身体を傷つけることなく体内を観察できるのが特徴だ。

超音波内視鏡はその先端で超音波の受送信ができる。体内に挿入することで、胃壁の先など内視鏡が届く臓器の外側を観察できる。跳ね返る超音波を画像化するために必要な超音波診断装置を、キヤノンメディカルがオリンパスに提供する。


超音波内視鏡の先端部。カメラで臓器内部をとらえるだけでなく、超音波の受送信ができる(撮影:風間仁一郎)

超音波内視鏡を使った診断が生かせると、とくに期待されているのが膵臓(すいぞう)や胆嚢の診断だ。膵臓は胃の後ろ側にある。超音波内視鏡を胃まで挿入することで膵臓の観察が可能になり、がんなどの疾患の発見につながると期待されている。

膵臓がんは5年生存率が低い病気として知られ、早期発見が重要だ。「超音波内視鏡と超音波診断装置の複合技術は、膵臓疾患に悩む患者への最高のケアを可能にする」(ドレバロウスキー氏)。

会見に登壇したオリンパス内視鏡事業担当役員の河野裕宣氏は、キヤノンメディカルとの協業に至った経緯について、次のように述べた。

「5年、10年先のことを考えたときに、どのパートナーと協業するのがよいか検討した。結果、超音波で技術があり、歴史も長いキヤノンメディカルが協業相手としてはいちばんだと思い、話をさせていただいた」

オリンパスは1980年代から超音波内視鏡を製造・販売してきた。今回の協業につながる検討を始めたのは2020年とのことだという。

オリンパスを猛追する富士フイルム

これまでオリンパスは、富士フイルムから超音波内視鏡向けの超音波診断装置の供給を受けていた。だが富士フイルムは内視鏡市場における競合だ。市場は「ペンタックス」ブランドの内視鏡を製造販売するHOYAを含めた3社による寡占状態にある。

消化器内視鏡で約7割の市場シェアを握るオリンパスを猛追するのが富士フイルム。その富士フイルムからオリンパスが装置の供給を受けることになった経緯はやや複雑だ。

オリンパスはもともと、医療機器メーカーのアロカ(当時)から超音波内視鏡向けの超音波診断装置を調達していた。しかし、2011年に日立製作所の子会社で医療機器を手がけていた日立メディコ(同)がアロカを買収。その後、2021年に富士フイルムが日立の画像診断関連事業を買収した。

結果、オリンパスは競合から装置の供給を受ける状況になった。

この状況に課題を感じていたのか。会見で問われたオリンパスが「検討事項には含まれていた」と述べたように、新たな協業相手を探すこととなった背景の1つとなった。


オリンパスとキヤノンメディカルによる協業製品の販売は、ヨーロッパで今年の1〜3月から、日本では6月から開始する予定だ。医療機器の最大市場であるアメリカでも、認可の都合上時期は未定だが販売する計画だ。

法規制や販売にかかる認可の状況は地域によって異なる。そのため、富士フイルムからオリンパスへの装置の供給は必要に応じて継続される。

会見ではキヤノンメディカルがオリンパスとの協業のために開発した超音波診断装置の実機が披露された。キヤノンメディカルの持つ超音波診断装置の中でも最高級のものをベースにしており、高画質が自慢だ。今後も2社共同で、機能の強化やアプリケーションの開発を行っていく。


超音波内視鏡(左)と超音波診断装置。2台を並べて使用する(撮影:風間仁一郎)

オリンパスの内視鏡の売上高は、2022年度実績で5518億円、2023年度は6040億円を見込む。超音波内視鏡の売上高については公にしていない。協業の事業規模についてキヤノンメディカルの瀧口登志夫社長は、「最終的には1億ドル(約145億円)規模を実現したい」と話した。

内視鏡分野に初参入となるキヤノンにとって、協業から得られる収益はそのまま上乗せ分となる。キヤノンの医療機器事業は「2025年に売上高6000億円以上」を目標とし、1桁台後半の売上高成長率を続けてきた。2023年の売上高見通しは5618億円。目標達成に向け協業は弾みとなりそうだ。

各社が医療領域を成長の柱に

光学機器は世界の中でも日本メーカーが強い存在感を示す分野だ。その技術を生かし、カメラや複合機の大手はいずれも医療分野に力を入れている。

オリンパスはカメラと顕微鏡の事業を2023年4月までに売却。世界で戦える「医療の会社」になるべく内視鏡と治療機器に経営資源を集中させた。

キヤノンは2016年に6655億円を投じて東芝メディカルシステムズを買収。それが現在のキヤノンメディカルだ。医療機器はキヤノンの全社売上高のうち1割以上を占める規模になっている。

富士フイルムも先述したように日立の画像診断関連事業を買収、医療機器を成長の柱に据える。2023年度の医療機器売上高は6500億円を見込む。

オリンパスとキヤノンの協業は今回が初めてのこと。かつてはカメラで競合していた関係だが、手を取り合う形となった。各社が医療分野を強化する中で、今後も業界再編や協業が発生しそうだ。

(吉野 月華 : 東洋経済 記者)