ズラリと並ぶ美しい木軸ペンの数々(出所:『しーさーの木軸ペン図鑑 』)

ちょっとしたブームになっている文房具「木軸(もくじく/きじく)ペン」をご存じでしょうか?

木軸ペンとは軸の部分が木製のシャープペンやボールペン、多機能ペンなどのこと。登録者数が77万人を超えるYouTubeチャンネル「しーさー 文房具 / Seasar Stationery」で文房具の魅力を発信している「しーさー」さんによると、木軸ペンにはただ「軸が木で作られている」わけではない奥深い魅力があり、高価な商品が多いのにもかかわらず、小学生を含めた若い世代にも大人気なんだそうです。

本稿ではその人気の秘密と、木軸ペンの基礎知識について、しーさーさんの著書『しーさーの木軸ペン図鑑 』から一部を抜粋、再編集してお届けします。

クラフトマンシップが光る逸材ぞろい

僕が大好きな筆記具は、木軸ペン。そう言い切れるくらい、すっかり魅せられている。

初めての木軸ペンは、中学生のとき。文房具屋さんで見つけたパイロット「S20」に惹かれて購入したのがきっかけ。当時はまだよくわかっていなかったけれど、それから9年たった今は、はっきりわかる。

木軸ペンは、ただ軸が木で作られているだけの筆記具じゃない、と。

天然木のぬくもり、見た目、さわり心地、香り……。すべてにおいて、人工的ではないものの持つ魅力があり、握っているだけで安心感があるのは、木軸ペンだけ。

初めて買った「S20」がよかったから、ほかの木軸ペンも使ってみたくなり、ピュアモルトシリーズを手にし、野原工芸の「欅のシャープペンシル」にたどり着いたのが、高校生のとき。

ここから一気に僕の“木軸愛”が加速し、気づけば70本を超える木軸ペンを所有するまでになった。

木軸ペンは、クラフトマンシップが光る逸材ぞろい。デリケートな木の性質を知り尽くした職人が選定し、木と対話するようにして削り出し、木の魅力を存分に引き出した一本を、手にしたときの心躍る感覚。木軸ペンに込められたこだわりの凝縮は、僕にとって、ペンという道具以上の価値を持つものになっている。

どうして僕は、木軸ペンにここまでの愛があるのか?

一番の理由は、「使うのが楽しい」から。

木軸ペンは、種類によってばらつきはあるものの、どのペンも経年変化する。それが木軸ペンの最も大きな魅力で、長く使いたくなる理由。ほかのジャンルの筆記具では味わえない醍醐味だ。僕は、これを野原工芸の「欅のシャープペンシル」で知った。

購入当初、ケヤキのボディは黄色っぽく明るい色みだったが、1カ月ほど使うと色が沈んでいった。劇的な経年変化。8年後の今は、黄色っぽく明るかったころの面影はまったくなく、深みのあるダークブラウンに。同じペンには到底見えないくらいの変化だ。

変化の速度に振り幅はあっても、木は生き物。木軸は、変化するから面白い。「使うのが楽しい」の真意は、変化が楽しいということ。「使うと変化して楽しい」から「ペンを使いたくなる」気持ちが高まる。

経年変化は、「使い込んだ証し」と捉えているから、使えば使うほど「もっと使い込んだ感を出したい」との思いが強まる。ペンを持ち続けたくて、勉強に励んだようなものだ。

高校生のときに、勉強が楽しいと思うきっかけをくれた、成績を上げる楽しみも教えてくれたのが、木軸ペン。

「眺める」楽しみと長く使い続けられる良さ

それからもう一つ、木軸ペンには「眺める」という楽しみもある。

特に、木の模様である“ 杢(もく)”は、自然が作り出すもので、縮杢(ちぢみもく)、瘤杢(こぶもく)、孔雀杢(くじゃくもく)など種類はさまざま。

その造形は美しく芸術的で、吸い込まれるように眺めてしまう。そして、一つとして同じものはない。

樹種や生育環境、病気の痕跡などの影響で作り出される杢に生命を感じ、愛おしくなる。

そんなふうに、思春期から今まで使い続けている木軸ペンも、まだまだ現役。木軸ペンは、寿命が長い。

木は、劣化しにくい素材なので、長く使い続けられる良さがある。

現存する世界最古の木造建築物である法隆寺なんて、メンテナンスしながら1000年以上も残っている。木軸ペンにも、そんなふうにメンテナンスしながら長く使える強さがあるはず。

シャープペン、ボールペン、万年筆……。アナログなメカの強さと経年変化で、味わい深くなる木を愛でながら、この先もずっと使い続けていきたい。

木軸ペンQ&A

Q.そもそも、木軸ペンってなに?

木軸(もくじく/きじく)ペンは、筆記具の軸の部分が木製のものをいいます。シャープペン、ボールペン、多機能ペンなど種類は多岐にわたります。軸は異素材で、グリップの部分のみ木を使っている筆記具は、厳密には木軸ペンではありませんが、本書では一部グリップが木製のものも加えて紹介しています。

Q. 木軸ペンの木には、どんな種類がある?

国内外のさまざまな木で作られます。ケヤキやカエデなど日本で身近な木もあれば、入手しにくい黒柿や、輸入制限がかかるローズウッドなど、希少価値が高い木もあります。極論、どんな木でも加工ができれば木軸は作れますが、強度や質感は千差万別。そこが面白いところです。また、最近は環境保全の観点から、木の端材や廃材を再利用するケースもあります。

Q. 木軸ペンのどんなところが楽しいの?

木の種類や加工によって異なる手ざわりや、使うたびに少しずつ色が変わっていく経年変化は、天然素材ならではの味わいです。一つ一つ表情が違う木の模様「杢(もく)」を眺めるのも楽しいもの。同じ種類の木でも、作り手によってまったく違うペンになるから、どんどん集めたくなります。


(しーさー : 文房具YouTuber)