ChatGPTからレベルの高い回答を引き出すには、どういう質問を繰り出せばいいのでしょうか(写真:花火/PIXTA)

2022年末に登場し、衝撃的な話題となったChatGPTは、私たちの仕事をどう変えていくのだろうか。いまだに論争が続くこのテーマに、学生時代より一貫して、ニューラルネットワークなどの人工知能研究に従事してきた若手研究者兼起業家が切り込んだ。

ChatGPTはいまだに、単なる作業代替ツールと捉えられがちだ。

しかし、これはChatGPTの真の能力を過小評価している。ChatGPTの最大のメリットは、実は「認知限界の拡張」にある。

ChatGPTの本質は「認知拡張」にある

読者の中には、脳の「ワーキングメモリ」という概念をご存じの方もいるだろう。ワーキングメモリは、新しい情報を一時的に保持し、処理する脳の能力を指す。

心理学者のジョージ・A・ミラーは、彼の著名な論文「魔法の数字7±2」で、人間が一度に処理できる情報の単位(チャンク)の数は約7つと提唱した。これがワーキングメモリの容量の限界を示すものとされている。

認知心理学の研究によれば、この限界を超えると、情報の処理と保持が困難になり、思考や判断の効率が低下する。

複雑な問題の解決や難しい意思決定をする際には、多くの要素を考慮しなければならない。しかし、情報過多になると思考が停止することがある。

ここでChatGPTが役立つのは、その情報処理能力を活用して、複雑な情報を整理し、切り分けることによって、認知の負荷を軽減することだ。

認知心理学者は、「頭がいい」とされる人々は、情報の切り分けや優先順位付けがうまいことを指摘している。「頭がいい人」は、情報をより効果的に処理し、認知負荷を管理することで、より複雑な問題に対処する高い能力を持っているというのだ。

ChatGPTを活用すると、この「頭がいい人」の処理能力を再現することができる。では具体的には、どうすればいいのだろうか。

それには、ChatGPTを活用する過程に、次の3つのレベルが存在すると考えるとわかりやすい。

ChatGPT活用の3つのレベルとは?

レベル1「自分ができること」を加速させる
レベル2「自分が理想と思うこと」を完璧に近づける
レベル3「自分の思いつく理想」を越えたアウトプットを目指す

順番に解説しよう。

レベル1 「自分ができること」を加速させる

このレベルでは、ChatGPTは基本的なタスクの自動化や効率化を助ける。多くの人が描くChatGPTの活用法は、ここにあるだろう。

例えば、簡単な質問への返答、テキストの要約、基本的なデータ処理といった作業だ。

この段階の主な目的は、時間の節約と効率性の向上であり、ChatGPTを使って日々の作業をよりスムーズに進めることができる。

レベル2 「自分が理想と思うこと」を完璧に近づける

この段階では、単に作業の速度を上げるだけでなく、質の向上にも重点を置く。

例えば、専門的なレポートの作成、複雑なデータ分析、クリエイティブなアイデアの生成などで、ChatGPTはユーザーのアイデアや意図を理解し、より洗練された成果物の作成を支援する。

レベル3 「自分の思いつく理想」を越えたアウトプットを目指す

この段階では、ChatGPTは単なるツールを超え、ユーザーの創造的なパートナーとして機能する。

このレベルになると、ChatGPTはユーザーの思考を拡張し、ユーザーはChatGPTとの対話を通じて、ユーザー自身も未知だった可能性に気づき、新たな発見をすることができるようになる。これはChatGPTのプロ的な使い方と言えるだろう。

では、上述した3段階のプロセスを理解するために、ケーススタディをしてみよう。

あなたはABC Summitというイベントで、自社の潜在顧客であるD社の経営幹部、佐々木氏と名刺交換をした。

イベント後、あなたは佐々木氏にお礼を伝えると同時に、事業提携に関する提案の打ち合わせをお願いするメールを送ろうと考えた。その文面を、ChatGPTに創ってもらおうとしている。

最初の段階、レベル1では、基本的な内容をリストアップし、それをChatGPTを用いてメールの形式にまとめる。

ChatGPTにメールを書いてもらう:レベル1の使い方

ここでの目標は、ChatGPTによる基本的なテキスト生成能力を活用して、効率的にメールの草稿を作成することである。

あなたからの依頼文はこんな具合だ。

9/11のABC Summitで名刺交換した潜在顧客D社の経営幹部、佐々木様、礼状とともに事業提携に関するディスカッションを行うためのアポイントメントメールを作成してください。要領は以下です。
・自社はAIで有名なベンチャー企業で、ナレッジマネジメントが得意
・ナレッジマネジメントについてニーズがあるとイベント中に聞いた
・ついては、打ち合わせをお願いしたい。

これに対するChatGPTの回答は次のようだった。

件名: 佐々木様への礼状とナレッジマネジメントに関する事業提携のご提案

佐々木様

貴社の幹部として、先日の9/11 ABC Summitにご出席いただき、ありがとうございました。名刺交換の機会をいただけたことを大変嬉しく思います。

私たちの会社はAI技術を駆使したベンチャー企業で、特にナレッジマネジメントの分野で優れた実績を持っています。

イベント中に佐々木様からナレッジマネジメントに関するご関心を伺い、貴社における可能性のあるニーズについて、深く考えさせていただきました。

そこで、私たちのナレッジマネジメントソリューションが貴社の業務にどのように貢献できるかについて、詳細なディスカッションをさせていただければと考えております。

ご都合の良い日時をお教えいただけますでしょうか? オンラインまたは対面でのミーティングのどちらでも対応可能です。

この機会を通じて、両社の協力関係をさらに強化し、お互いにとって有益な提携が築けることを期待しております。ご返信を心よりお待ちしております。

上の文章では、ABC Summitはあなたの会社が主催したように見えるが、こうした事実の修正は簡単にできる(修正のプロセスはここでは割愛する)。

レベル2では、さらに進んで、「理想」とされる内容を定義し、それをプロンプトにしてメールを書いてもらうこともできる。

このレベルでは、具体的な目標やビジョンが明確にされ、ChatGPTがそれに基づいてより高度なテキストを生成する。

ここでのポイントは効果的なコミュニケーションを目指すことである。

より効果的なコミュニケーションの結果は?

あなたからの依頼文は次のようなものだった。

9/11のABC Summitで名刺交換した潜在顧客D社の経営幹部、佐々木様、礼状とともに事業提携に関するディスカッションを行うためのアポイントメントメールを作成してください。大枠で伝えるべきことは以下です。
・自社はAIで有名なベンチャー企業で、ナレッジマネジメントが得意
・ナレッジマネジメントについてニーズがあるとイベント中に聞いた
・ついては、打ち合わせをお願いしたい。
ここで
・当社のナレッジマネジメントがAIを用いているがゆえに革新的・魅力的である点
・過去、D社との実績があり、おそらく現場導入へのハードルが少し低い点
の2つが十分に伝わることで、返信率が上がると考えられる。それを踏まえて、返信しても良いと思ってもらえるような内容を書いてください。

これに対するChatGPTの回答は次のようだった。

件名: 事業提携に向けたご相談のお願い - AIナレッジマネジメントについて

佐々木様

拝啓、時下ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。

この度は、先日の9/11 ABCサミットにおいて名刺交換をさせていただき、誠にありがとうございました。貴社との出会いを大変嬉しく思っております。

私どもはAI技術を駆使したベンチャー企業で、特にナレッジマネジメント分野において高い専門性を有しております。

サミット中に、貴社がナレッジマネジメントの強化に関心をお持ちであると伺い、是非ともご提案させていただきたいと思い、このメールを送らせていただきました。

当社のナレッジマネジメントシステムは、最先端のAI技術によって支えられており、従来の手法に比べて革新的かつ効率的な情報管理と知識共有を実現します。

このシステムにより、従業員一人ひとりの知識と経験が企業全体の資産として有効活用され、ビジネスの成長に直結することが期待されます。

また、過去にはD社様ともプロジェクトを進行させていただいた経験があり、その際には現場導入に際してのハードルを低減することに成功しました。

この経験を活かし、貴社のニーズに合わせたカスタマイズを行い、スムーズな導入を実現できると自負しております。

是非、貴社におけるナレッジマネジメントの課題やご要望を詳しくお伺いし、どのように当社のシステムが貢献できるかをご説明させていただきたく、お打ち合わせの機会を頂ければと存じます。

ご多忙の中恐縮ですが、佐々木様のご都合の良い日時をお知らせいただけますでしょうか。

貴社との事業提携を通じて、共に成長し、新たな価値を創造できることを心より楽しみにしております。ご検討のほど、よろしくお願い申し上げます。

いかがだろうか。レベル1の回答よりもコミュニケーションのレベルが上がった印象はないだろうか。

最後の段階、レベル3では、メール構築の戦略的な側面から全体を考える。

文書を作るツールから関係構築のツールへ

このレベルになると、単なる文書作成を超え、全体的なコミュニケーション戦略の構築にChatGPTを活用する。

ここでは、より複雑な目標達成や長期的な関係構築の観点からメールを作成することが目指される。

あなたからの、ChatGPTに対する依頼文はこうだ。

9/11のABC Summitで名刺交換した潜在顧客D社の経営幹部、佐々木様、礼状とともに事業提携に関するディスカッションを行うためのアポイントメントメールを作成してください。大枠で伝えるべきことは以下です。

・自社はAIで有名なベンチャー企業で、ナレッジマネジメントが得意
・ナレッジマネジメントについてニーズがあるとイベント中に聞いた
・ついては、打ち合わせをお願いしたい。

ここで目的は、魅力を感じてもらってアポを成立させることだとして、何を考えたらよいのか戦略指針を考えてください。

これに対するChatGPTからの回答は次のようなものだった。

佐々木様へのアポイントメントメールを作成する際の戦略指針は以下のように考えると良いでしょう。

関連性の強調: 9/11のABC Summitでの名刺交換という具体的な出会いの場を明記することで、佐々木様との関係を強調します。

共感と関心の示し方: 佐々木様がナレッジマネジメントに関心を持っていることに触れ、そのニーズに対する共感を示します。これにより、佐々木様の関心を引き、信頼を構築します。

自社の強みの提示: 自社がAI分野で有名なベンチャー企業であり、ナレッジマネジメントに長けていることを簡潔に伝えます。具体的な事例や成果を挙げることで、信頼性と興味を高めます。

提案の具体性: 打ち合わせの提案では、ただ会いたいと言うだけでなく、何を話し合いたいのか(ナレッジマネジメントに関する提携の可能性など)を具体的に述べます。

利益の提示: どのようにして自社のサービスがD社に利益をもたらすかを簡潔に示します。これにより、佐々木様がアポイントメントに価値を見出すことが期待できます。

柔軟なスケジュールの提供: 打ち合わせの日時に関しては、佐々木様の都合を尊重する姿勢を示し、いくつかの候補日を提案します。

礼儀正しい締めくくり: メールの最後には、佐々木様の忙しいスケジュールの中で時間を割いてもらえることへの感謝を表し、返信を楽しみにしている旨を伝えます。

(太字は編集部による)

このように、ChatGPTの活用は単純なテキスト生成から、戦略的なコミュニケーションの計画まで多様なレベルで可能である。

読者のみなさんには、各レベルにおけるChatGPTに対する質問の違いと、回答の違いを比較していただきたい。各レベルで、質問の趣旨が異なっていることに気づいていただけるだろうか。

意図を言語化する能力を磨こう

ChatGPTの活用において最も重要な点は、「意図」を明確に言語化することにある。メールを書く目的や、それを支える自分なりの哲学や価値観を明確にすることが、AIを効果的に活用するカギとなる。

これは、単にテキストを生成するだけではなく、ChatGPTがその背景にある目的や意図を理解し、それに基づいて行動するための基盤を築くことを意味する。

言うまでもなく、「意図」の明確化はビジネスシーンはもちろんのこと、プライベートでも、さまざまな目標設定や思考の整理などに役立つ。

あなたの意図は何か、それをどう言語化するか。この違いが、ChatGPTからの回答の違いにつながる。

ChatGPTは与えられた情報を基に動作するため、より具体的で個人的な情報が含まれるほど、出力される内容は「あなたらしさ」を反映したものになる。

さらに、ChatGPTとの対話を通じて、自分の意図や目的について深く考え、それを言語化するプロセスは、自己理解を深める機会にもなる。私たちはしばしば、自分の本当の目的や動機を完全には理解していないことがあるからだ。

ChatGPTとの対話は、これらを明確にする手助けをしてくれる。そうすることで、予期しない洞察や新たなアイデアが生まれる可能性がある。

ワーキングメモリの限界を知り、それを補うようなChatGPTの使い方ができるかどうか。そこに、ビジネスパーソンとしての死活がかかわってくるとも言えるだろう。

ChatGPTを高いレベルで使いこなすには、意図の言語化を習慣づけることが効果的となる。

(堀田 創 : シナモンAI 代表取締役Co-CEO)