とんでもない発言が部下からあったとき憤らず、「共感力」を発揮できるでしょうか(写真:ほんかお/PIXTA)

共感力の低い上司は、1on1ミーティングや面談をする際、如実にその欠点をさらけ出すだろう。

なぜなら1対1で部下と対話するときは、上司の立ち居振る舞いがとても重要だからだ。とくに重要なのは「共感力」だ。ただ、わかっていても、なかなかできるものではない。

たとえばダメダメな部下から「お金をもらえるなら、たとえお客様が損をすることでも積極的に提案すべきですよね?」。こんなことを言われたら、あなたはどんな気持ちになるだろうか?

多くの人は「その通りだね。当社が儲かることが第一だから」などと共感しないだろう。上司なら普通「何を言ってるんだ!お客様が損をすることなんて絶対に提案すべきではない」と注意するに決まっている。感情を抑えられず、叱りつける人もいるかもしれない。

だが、本当に共感力が高い人は頭ごなしに注意しない。では、どうすればいいのか?

今回のテーマは「共感力」である。1対1で部下と向き合う面談や1on1ミーティングを想定して、どうすれば「共感力」を磨くことができるのか。5つの秘訣を解説していきたい。

共感力の低い人が抱える3つの問題

ところで、そもそも共感力とは何なのか? あらためて言語化してみたい。辞書で調べてみると次のように書かれている。

「他者の考えや意見にその通りだと感じたり、喜怒哀楽といった感情に寄り添うことができる力」

つまり、いったんは相手の意見や感情を客観視して受け止めることだ。自分に向けて投げられたボールをしっかり観察し、正しい構えでキャッチする。そのうえで、どのようにボールを相手に返すのか。しっかり状況判断するスキルが共感力なのだ。

では、共感力が低い人はどうなのか?

相手の心情が理解できないため、「相手の話を遮って自分の話をする」「相手に対して決めつけた言い方をする」「相手に対して関心がなく反応が薄い」といった特徴がある。他者視点に欠け、自分視点のことが多いので、臨機応変に言動を変えられないのだ。

そのため以下のような3つの問題を抱えやすいと言える。

(1)適切な対応ができない
(2)部下の不安・不信・不満を招く
(3)部下が育たない

共感力が低い上司は、部下が投げたボールを適切にキャッチできない。上司であれば、部下がどんなにひどいボールを投げたとしても、キチンとした姿勢でキャッチするべきだ。そうしないと部下は不安・不信・不満(3つの不)を招く。自律性が高い部下ならいいが、そうでなければ十分に育たないだろう。

「受け入れる」ではなく「受け止める」

だから冒頭の例のように、部下から「お金をもらえるなら、たとえお客様が損をすることでも積極的に提案すべきですよね?」と非常識な質問をされると、感情的な返答をしてしまうのだ。

その点、共感力が高い人は、いったん「受け止める」ことができる。暴投であってもボールをキャッチし、冷静になってボールを返すことができる。

もちろん「そうだよな。お客様が損をしたとしても、稼げるのなら積極的に提案すべきだ」と同意する必要はない。ただ、お金儲けについて真剣に考えている部下を完全否定していいのかどうか。

冷静になって自問自答する「間」は持ったほうがいいかもしれない。そうして部下の考えを受け止めたうえで、たとえば「当社の経営理念は、何だっけ?」と聞いてみるのだ。

「お客様の信頼をあらゆる事業の原点におく、です」と部下が言えば、冷静に対応することができる。

「そうだよな。お客様が損をするような提案をしたら、どうなる?」。このように頭ごなしに否定しないことで、別の視点で物事を考えるきっかけ作りができる。

キーワードは「受け止める」である。「受け入れる」必要はない。「受け止める」ことで相手が放った言葉を客観視できるようになるのだ。

相手の立場で考える「視座・視野・視点」

共感力を高めるには「視点」に気をつけよう。客観視できるようになることが重要だ。いったん自分視点から離れないと、相手の視点で物事を見ることができない。

相手の視点で物事を見るには、まず視点を「水平移動」するのではなく「垂直移動」するのだ。そうすると、自然と視座を高めることができる。視座を高めることで、自動的に視野は広まる(水平展開)。

自分と相手との価値観が違っていた場合、世代や生まれ育った環境などを上から眺めるようにしてみよう。そうすれば広い視野で物事を客観視でき、別の視点を手に入れられるようになる。

そのためにも「視座・視野・視点」の意味を正しく覚えておこう。

・視座=どこから見るか?
・視野=どこまで見えるか?
・視点=どこを見るか?

部下だけでなく、お客様に対しても、子どもに対しても同じだ。相手の考えや心情を正しく「受け止める」ためには、視座・視野・視点を自在にコントロールできるようにしておく。そうすることで、相手がどのような視点で、そのような物言いをしているのかを理解できるようになるからだ。

共感力をアップする5つの秘訣

とはいえ、まったく同意できないようなことを言う相手は稀だ。あったとしても「なんか違う」「ズレてないか」と疑問を抱くレベルである。それほど高く視点を「垂直移動」させなくても、だいたいは相手の立場で見ることはできるはずだ。

それでは共感力をアップする5つの秘訣を紹介しよう。キーワードは相手の言葉ではなく反応や仕草に着目することだ。


まず第1の秘訣は、相手の話に耳を傾けることだ。しばしば私たちは、相手が話している最中に自分の意見を言いたくて仕方がないことがある。たとえば以下の会話を読んでもらいたい。

上司:「どうしてこんなに残業が多いんだ?」
部下:「春に入社したアシスタントが、なかなか仕事を覚えなくて」
上司:「なぜ残業が多いかを聞いてるんだ」
部下:「あ、申し訳ありません」
上司:「君はアシスタントのせいにするのか?」
部下:「そんなつもりはないです」
上司:「じゃあ、どういうつもりなんだ?」

1on1ミーティングでこんな言い方をしたら、部下は縮こまってしまうだろう。本当に相手を理解したいのであれば、まずは言いたいことを抑え、相手の言葉を受け止める姿勢が大切だ。

上司:「どうしてこんなに残業が多いんだ?」
部下:「春に入社したアシスタントが、なかなか仕事を覚えなくて」
上司:「アシスタントの方が仕事を覚えないので困ってるのか」
部下:「そうなんです。私の教え方が悪いのかもしれないんですが」
上司:「もう少し、詳しく教えてくれるかな」
部下:「はい。先月アシスタントにこんなことを言われたんです」
上司:「へえ……」

結論を急いではいけない。

「結局のところ、残業が多くなっている理由は何なんだ?」と言いたいところをグッとこらえ、傾聴するのだ。そうすることで相手は自分を認めてくれていると感じ、心がオープンになっていく。

第2の秘訣は、効果的な質問である。質問スキルも共感力を高めるために不可欠だ。相手の頭を整理してあげる、気付きを誘発するといった目的で質問を続けると「コーチングされてる?」と勘繰られていく。

だから「それは具体的にどういうことかな?」「そのあとはどうなったんだろう?」といったように、相手の口調とペースを合わせながら、さらに話したくなるように質問することが大事だ。

第3の秘訣は、笑顔とリアクションだ。笑顔は共感を作り出すための強力なツールである。また、相手の話に対して大きめのリアクションを示すことで、あなたが関心を持っていることを伝えることができる。

ただ、過剰にリアクションする必要はない。自然体で、相手の話に合わせて適切な笑顔やうなずき、目配せをすることだ。非言語的な情報は、言葉にはない共感を相手に伝えるものだ。

「それは大変だったね」で共感を示す

第4の秘訣は観察力だ。「受け止める」のは、言語的情報だけではない。相手の表情や仕草、声のトーンなどの非言語的な情報も、しっかりと受け止められるよう意識しよう。

微細なサインに敏感になることで、より深く相手を理解することができるようになる。気配りができる人は非言語的な情報に、いつも焦点を合わせている。

第5の秘訣は、共感を表現する言葉を使うことだ。相手が高い洞察力を持っていればいいが、そうでないケースも多い。だから表情や態度で示すことも重要だが、言語的情報を使ってハッキリ伝えよう。

「それは大変だったね」「かなり苦労されてるね」といった言葉を使うことで、相手の感情を理解しようとしていることを相手に感じさせることができる。また、相手の発言や行動を評価する言葉を添えることも有効だ。

5つの秘訣を解説した。これらの事柄を心がけることで、共感力はアップできるだろう。とくに大事なことは、自分視点で受け入れないことだ。

もちろん共感力は一夜にして身につくものではない。だが意識的に実践することで、部下から信頼を得ることができるし、部下の成長を促すことができる。ぜひ試してもらいたい。

(横山 信弘 : 経営コラムニスト)