一夜明け会見でファンの「苦戦」の指摘に苦笑いする井上尚弥【写真:浜田洋平】

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井上尚弥が2階級4団体統一から一夜明けて会見

 ボクシングの世界スーパーバンタム級4団体統一王者・井上尚弥(大橋)が27日、2階級4団体統一の快挙から一夜明け、神奈川・横浜市内の所属ジムで会見した。前夜は東京・有明アリーナでWBA&IBF王者マーロン・タパレス(フィリピン)に10回1分2秒KO勝ち。歴史的偉業を達成したが、ボクサーとして現在の自身は「70点」と評価した。底知れぬ向上心を見せ、2024年も熱狂を生み出していく。(文=THE ANSWER編集部・浜田 洋平)

 快挙の余韻を噛み締める表情は、まるでエステの後のように綺麗だった。井上は傷一つない顔で会見。試合後は「小規模で」と身内で祝勝会を開き、少しだけ睡眠を取った。「夢は見てないです。昨日の試合が夢だったらどうしよう」。映像を見返し「リング上で思ったよりも、高い技術戦をした印象」と、防御重視でタフな相手を倒し切ったことに胸を張った。

「最後まで気が抜けない戦い。相手も一発を狙っていた。(ヒリヒリした試合は)めちゃくちゃ楽しかった」

 同級転向初戦だった7月は60.1キロでリングに上がったが、今回は「61.2か61.3」と前日計量のリミット55.3キロから6キロ増。リカバリーがうまくいき、「無理して増やしていない。スピードもキレも落ちず、よりパワーが乗っていた」とアジャストに手応えを示した。

 男子では世界2人目となる2階級4団体統一の歴史的偉業を達成。だが、求められるものが大きすぎるあまり、ネット上のファンや識者からは「苦戦」との声が上がった。タパレスのディフェンス技術、タフさは世界レベル。井上だからKOまで持っていけたが、期待の高さに苦笑いせざるを得ない。自ら指摘の声を指折りしながら数えて言う。

「階級の壁とか苦戦とか言われてますけど、この内容で言われたらどうしたら良いんです?(笑) タパレスも世界王者ですよ。それだけ自分に期待値があったり、皆さんの感情があるのは凄く嬉しいことなんですけど、これで言われたらやりづらいですよ! 1、2発パンチをもらったら『苦戦してる』とか、漫画じゃないんだから(笑)。『大振り』という指摘もあったけど、その中でやっている本人しかわからない小さい駆け引きもある」

 ボクシングを知る人ほど、中身の濃さ、レベルの凄まじさがわかるということだろう。世界で最も権威のある米専門誌「ザ・リング」の階級を超えた格付けランク「パウンド・フォー・パウンド(PFP)」の1位返り咲きや、年間最優秀賞を推す海外メディアもいる。

 本人はボクサーとして現在の完成度を「70点です。まだ30点分の伸びしろがある」と評価するが、プロデビューから11年、26戦全勝のキャリアで「誇れるもの」もある。

「KO数(23KO)ですかね。プロ6戦目で世界戦をして、そこから世界戦をずっとしている。そういう意味でも誰も超せないものをつくっていきたい。(数字は)結果についてくるものなので、そこを目指しているわけではないですが」

次戦の相手は誰だ、フェザー級転向時期の想定は…

 日本人最多タイの世界戦通算21勝、そのうちKOが19回。2階級4団体統一は全てKOで奪った。世界レベルの選手を圧倒してきた証しだ。

 これまで通り体と相談しながら適正階級で戦う方針だが、「来年、再来年は自分の体の成長具合がなんとなくわかっている」とスーパーバンタム級は現時点で2025年末までを想定。5階級制覇がかかるフェザー級転向は2026年になる感触のようだ。年間の試合数は「2年で6試合はやりたいです」と希望。「だからこそ(来年初戦の希望は)5月です」と2017年以来7年ぶりの年間3試合を求めた。

 WBAは4月にタパレスに判定負けしたムロジョン・アフマダリエフ(ウズベキスタン)が、WBCは元世界2階級制覇王者ルイス・ネリ(メキシコ)が指名挑戦権を持つ。米メディアなどでは東京Dでのネリ戦が有力視されている。東京Dなら1988、90年に2度世界戦に臨んだマイク・タイソン(米国)以来34年ぶり。日本人のメインイベントは初めてだ。

 ネリは2018年の山中慎介戦で体重超過を犯し、日本ボクシングコミッション(JBC)から無期限資格停止処分を受け、日本で試合ができない状態。しかし、3年で資格審査申請が可能となり、ネリ側から申請があればJBCで処分の継続、解除などが再び検討される。

 井上は興味を抱く選手について「アフマダリエフ、ネリ」と挙げつつ、「今は相手について言えることはない。あとは大橋会長が決めること。(もし東京D開催が実現したら)そりゃ楽しみですよ」と話すにとどめた。大橋秀行会長は「これからゆっくり考えます。(東京Dは)選択肢としてあります」と多くは語らなかった。

 毎年、夢を見させてくれるモンスター。同じ時代にいる巡り合わせへの感謝は尽きない。

(THE ANSWER編集部・浜田 洋平 / Yohei Hamada)