MacBook Pro 14インチM3モデル(税込24万8800円〜)は、美しいディスプレーで3Dグラフィックスを多用するゲームもスムーズにプレーできる。M1と比較すると、M1の最高性能をM3では半分の電力で引き出すことができるという(筆者撮影)

アップルは10月31日(日本時間)に開催したオンライン発表会で、新型となるMacBook ProとiMacを発表した。これらの製品には、最新となる自社設計のチップ「Appleシリコン」の第3世代となる「M3」シリーズのチップを搭載し、性能強化を図っている。

今回は、入門モデルとなるM3を搭載した14インチMacBook Proを1週間使ったレビューをお届けする。

普段、2年前の最上位モデルであるM1 Max搭載14インチMacBook Proを使っている筆者にして、乗り換えたいと思わせるほど、同等のディスプレー品質とHDMIなどの接続性、十分な性能と飛躍的に伸びた省電力性を備えたモデルだった。

文書編集は、省電力性が極めて高く、オンライン授業を伴う5コマフルで入っている大学の授業でも、電源を探す必要はないだろう。また写真編集はもちろんのこと、動画編集を日常的に行う人も含めて、ストレスを感じることはなくなる。

入門機でありながら、多くの人はそのまま活用できる、幅広い人向けの1台と言える。

画面サイズが14インチに進化

2020年にインテル製から自社設計のチップ「Appleシリコン」に移行したMacラインアップを発表、M1、M2と1.5年ほどの周期で世代を高めてきた。その過程でM2チップは、アップルのゴーグル型となる新しい種類のデバイス「Vision Pro」にも搭載された。

今回の新製品発表は、M3チップの発表も同時に行っており、「M3」「M3 Pro」「M3 Max」という、性能が異なる3タイプが用意された。これまで、基本となるチップと、高速化されたチップは別のタイミングで発表されてきたが、同時発表は今回が初めてとなる。


手元で計測するベンチマークでは、M1と比較して60%向上、M2に比べて30%向上、という数字で、明確に高速化されている。この数字は、2019年に発売されたインテルXeonチップを搭載するMac Proや、2021年発売のM1 Pro、2022年発売のM2 Proの性能を上回る(筆者撮影)


上位モデルとの外観の違いは、右側面のUSB-Cコネクターが省かれている点。内部構造では、ファンが1つ減らされている(筆者撮影)

Appleシリコン搭載のMacBook Proは、2021年に新しいデザインとして登場した。M1 Pro、M1 Maxの2つの高速化されたチップに、14インチ、16インチの新しいボディが用意された。

一方、基本形であるM1、M2を搭載するMacBook Proは、インテル時代から使われてきた13インチの旧来のデザインが採用されてきた。上位チップ搭載モデルとの差別化の意味もあったとみられる。

しかし今回、M3を採用するMacBook Proも、Appleシリコン世代向けに作られた新しい14インチボディを採用することとなった。この点は、エントリーモデルのMacBook Proとして、大きな進化となる。

明るく鮮やかなディスプレー

MacBook ProのM3搭載モデルは、14インチの新しいボディを採用したことで、基本性能を大幅に向上させている。特筆すべきは、エントリーモデルながら、上位機種と同じ「Liquid Retina XDRディスプレー」を搭載したことだ。


左側面にはMagSafe充電コネクターとUSB-Cコネクター2つ、ヘッドフォンジャックがある(筆者撮影)

従来、液晶ディスプレーのバックライトは画面の四辺に配置されてきたが、Liquid Retina XDRディスプレーは、画面全体の背後にバックライトを配置し、明暗のコントラスト比を500:1から100万:1まで引き上げることができた。

ドットそのものが発光する有機ELを搭載するiPhoneやApple Watchとは方式が異なるが、同様の高いコントラスト比と明るさを実現するディスプレーである。

そのため、特に「黒がより黒く表示される」という効果があり、映像や写真などはより引き締まって見え、またダークモードなど画面全体を暗くすることでの省電力効果も高まる。

特に、それほど高い性能が出なくてもいいが、ディスプレーの品質にこだわりたいという、写真の編集を仕事にしている人、あるいは趣味でも楽しみたいという人にとっては、MacBook Airとの明確な差別化となった。

加えて、14インチの新しいボディに起因する、磁石を用いた充電専用のコネクター「MagSafe」や、映像出力ができるHDMIコネクター、カメラの写真やビデオを取り込めるSDXCカードスロットもボディに搭載され、USB-Cハブを持ち歩かなくても困らなくなる。

機械学習処理の性能アップもより重要に

Open AIのChatGPTで一躍有名になった生成系AI。これは人工知能や機械学習処理のわかりやすい活用事例だが、実は我々が普段、日常的に使っているパソコンでも、機械学習処理や人工知能の導入が進んでいる。

例えば、Macであれば、漢字・仮名交じりの文章に変換する「日本語入力」も、新しい「Transformerモデル」という機械学習処理に切り替わった。またやはりMacのOSに備わる音声入力も、同じ機械学習モデルを用いて、ネット接続がない環境でMac本体のみで処理される。

そのほかにも、写真に写っている被写体を認識したり、被写体と背景を切り分けるといった画像処理。録音されている音声をテキストに変える「文字起こし」。こうした処理を自動化するため、人気のあるアプリケーションにAIが搭載された。


Adobe Premiere ProでAIを用いた文字起こしを行った画面。27分のビデオを1分半ほどで文字起こしし、テキストで動画編集ができる画期的な生産性をもたらす(筆者撮影)

例えば筆者が使っているAdobe Premiere Proには、クラウドサーバーを使わず、本体で処理する音声の文字起こし機能が搭載された。これまでは、自分の耳で聞き取って、キーボードを叩いて文字を書き起こす必要があり、10分の内容に対して、早くても20分〜30分かけていた作業を、AIが自動的に行ってくれる仕組みだ。

動画編集のAdobe Premiere Proで27分の動画編集を行ったが、これだけの長さの文字起こしを、1分半でこなしてくれた。同じ文字起こしの機械学習処理について、M3搭載MacBook Proは、M1 Max搭載MacBook Proよりも30〜45秒速く作業を終了させている点にも驚かされた。

CPUやGPUだけでなく、「ニューラルエンジン」と呼ばれる機械学習コアの高速化もまた、M3の魅力となっており、今後も増え続けるAI活用のアプリケーションに難なく対応してくれることを表している。


キーボード、スピーカー、マイクなども上位モデルと共通化されており、美しい立体サウンドが楽しめる(筆者撮影)

M3ファミリーで特筆すべきはグラフィックス性能の進化だ。

M3搭載のGPUは8コアもしくは10コアで、M2と同じ構成だが、GPUを効率的に活用するためのダイナミックキャッシングというメモリー割り当ての最適化が行われるようになる。性能としては、M1との比較で1.5倍だ。
加えて、レイトレーシング、メッシュシェーディングについては、ハードウェア処理を可能とし、消費電力の半減と処理性能の向上が実現している。簡単に言うと、3Dグラフィックスの美しいゲームを、カクつかずに楽しめるということだ。

イヤフォンの遅延低減も実感できる

実際に、Mac App Storeで配信されている「Lies of P」という、プレイステーションやXboxでも楽しめるゲームをプレーしてみたが、美しいグラフィックスをぐりぐりと動かすことができ、通常のプレーでストレスを感じることはないだろう。

ちなみにmacOS Sonomaには、対応するゲームを起動すると自動的に「ゲームモード」が適用される。ゲーム向けにCPUとGPUが優先され、Bluetoothで接続されるイヤフォンやゲームコントローラーの遅延低減が実感するレベルで得られるようになる。

こうしたM1 Maxと同等の高いパフォーマンスを発揮しながら、M1の頃から続く極めて高いバッテリー性能が引き継がれている点も特筆すべきだ。

出先での取材や原稿書きやビデオ会議、スライド作成、動画の粗編集をこなして家に戻ってくると、100%だったバッテリーは60%強残っている状態だった。心配なので充電こそするが、MacBook Proで毎日バッテリーを使い切るほど仕事をすることは、自分がバテてしまうため難しい。

ビデオ編集をしていても、2機から1機に減らされた内蔵ファンの音が聞こえることや、本体が熱を帯びることも感じられなかった。それでいて、M1 Maxの手元のマシンと同じ体験ができることを考えると、Appleシリコンが目指している性能と省電力性のバランスを追求する姿勢が、2年、3世代でより充実したことを表している。

メモリーとストレージは増やしたい

2年前に40万円前後で購入した筆者のM1 Maxモデルと性能面で遜色ないどころか、より高いバッテリー性能を引き出している。「M3」搭載のMacBook Pro 14インチは、24万8800円(税込)からとなっている。ただ、この状態ではメモリーが8GB、ストレージが512GBだ。

今回使ってみた感想として、「かなり多くの人にとって、長期間、メインマシンとして使っていくことができるだけの性能を備えている」と結論づけている。現状、ビジネスユースでは過剰と言えるほど、クリエイティブ作業では十分な性能を、多くの人が体験できる、ということだ。


Wi-Fi 6Eに対応し、ルーターを揃えれば6GHz帯域を用いた快適な通信が可能になる(筆者撮影)

となると、そのことを見据えて、メモリーとストレージを増やしておくべきではないか、と考えている。16GBのユニファイドメモリー、そして1TB SSDストレージのオプションが最適だ。

しかしそうすると、それぞれのオプションが2万8000円ずつとなり、30万4800円(税込)という金額まで上がってしまう。現行のレートが1ドル150円の中、MacBook Pro M3モデルは1ドル141円45銭、オプションは1ドル140円と、かなり日本市場を優遇したレート設定を行っているが、割高感は否めないだろう。

(松村 太郎 : ジャーナリスト)