6回途中、被安打10で7失点──。史上初となる3年連続の投手四冠(最多勝、最優秀防御率、最高勝率、最多奪三振)を達成して日本シリーズ初戦の先発マウンドに登ったオリックスの山本由伸だが、本拠地・京セラドーム大阪で阪神打線にまさかのKOを喰らった。

「こういう大事な試合なので、この負けは大きいなと感じています」

 試合後、山本は肩を落とした。ペナントレースでは2021年シーズンから"無双"と言われるピッチングを続けてきたが、日本シリーズではまたしても勝てず、通算成績は過去4度登板して0勝2敗。なぜ、大一番で勝てないのだろうか。


日本シリーズ第1戦で阪神打線に打ち込まれた山本由伸 photo by Sankei Visual

【カーブが制球できない】

「調子自体は悪くなかったと思います」

 キャッチャーの若月健矢がそう振り返ったように、試合序盤の山本はつけ入るスキがほぼなかった。ストレートは自己最速タイの159キロを計測、宝刀のフォークは鋭く落ち、カットボールはコーナーいっぱいに決まり、シュートは右打者の内角を鋭くえぐる。3回までは抜群の立ち上がりを見せた。

 そんななか、唯一の不安材料がカーブだった。

 クイックのような投球フォームに変えた今季、山本はずっとカーブの制球に苦しんでいる。その課題が日本シリーズ初戦でも如実に表れた。

 親指でスピンをかけるように投じる山本のカーブは、いわゆる"特殊球"のような球種だ。一般的なカーブとの違いについて、山本はこう説明している。

「僕にとっては空振りもとれて、カウントもとれるボールです。スピードがちょっと遅いけど、カーブという球種のなかではすごく強さがあるほうだと思います」

 120キロ台中盤とストレートより約30キロ遅く、緩急がつけられる。ファストボール系の球種でピッチトンネルを使いながら、そこから外れるカーブは打者の目を幻わせる球種だ。強烈なトップスピンがかけられているため鋭く落ち、カウント球にも勝負球にもなる。2021年から2年連続の沢村賞に輝いた間、山本にとってカーブはフォークと同じく宝刀と言える武器だった。

 だが、今季は思うようにコントロールできておらず、結果的に投球の幅を狭めている。日本シリーズ初戦ではカーブを15球投じたが、ストライクをとれたのは4球のみ。いずれも打者は見逃したが、勝負球として使うことはできなかった。

 カーブでストライクをとれなかったことが、投球の組み立てを苦しくさせたのか。キャッチャーの若月に尋ねると、こう答えた。

「結果的にそうなってしまいましたよね。カウント球も決め球もフォーク。(投球の組み立てが)同じような感じになってしまいましたし」

【阪神打線のいやらしさ】

 カーブを思うように制球できない山本に対し、阪神打線はしたたかだった。1回り目は2番・中野拓夢のヒット1本に封じられたものの、4回からの2回り目以降はボール球をしっかり見極め、ストレートは逆方向中心にコンパクトに打ち返し、フォークにも対応していく。4回無死一、二塁の場面は3番・森下翔太がショートゴロ併殺、4番・大山悠輔が見逃し三振に倒れたが、5回に再び襲いかかった。

 先頭打者の佐藤輝明は内角寄りに投じられた152キロのストレートに詰まらされながらも、センター前に弾き返す。直後、6番ノイジーの初球で二塁への盗塁を決めてみせた。「初球はちょっとまさかでしたね」と若月は率直に語ったが、佐藤にすれば完璧なスタートだった。

 足を絡めて得点圏にランナーを進めると、ノイジーは1ボール、1ストライクから内角に投じられたフォークをうまく逆方向に打ち返し、ライトフライの間に佐藤が三塁へ。ノイジーは初球でフォークを見ていた分、3球目で再び投じられたこの球種にうまく対応できたのだろう。

 つづく7番、"直球破壊王子"こと渡邉諒は内角に投じられた155キロのシュートに詰まらされたが、二遊間を抜ける当たりで先制点をもぎとった。

 山本にすれば、強いボールで押し込みながらも不運な当たりが重なっての失点だった。だが、リードする若月には阪神打線のいやらしさが刻み込まれた。

「結果的には不運なヒットも多かったです。でも、その後のノイジーにもしっかり逆方向にフライを打ちにいかれましたし。ランナーが自然とどんどん進んでいくというか、みんな本当にタダでは終わらず、そういうなかでの嫌らしさや怖さみたいなものがありました。最初の1点は、会心のヒット0本でとられてしまいましたし。(阪神打線のいやらしさは)そういったところですよね」

 阪神は渡邉のタイムリーで1点を先制した直後、つづく木浪聖也が真ん中高めに投じられた154キロのストレートをライト前に弾き返し、9番・坂本誠志郎が送りバントを失敗した後、1番・近本光司は真ん中に甘く入った156キロのストレートを右中間に2点タイムリー三塁打。2番・中野は真ん中低めのフォークをうまく拾ってレフト前タイムリーとし、山本から一挙4点を奪ってみせた。

 つづく6回には1四球と3安打で2点を加えて山本をKO。2番手の山田修義から2番・中野が再びレフトに技ありのタイムリーを放ち、山本に自責点7を刻み込んだ。

【狙い球が絞りやすくなった】

「(山本は)カーブが入らなかったのかな。それで苦しくなったね」

 試合後、オリックスの中嶋聡監督は言葉少なげに語った。

 一方、左に右に2本のヒットを放った阪神の8番・木浪は山本の攻略法をこう振り返っている。

「狙いは基本的にストレートを待っていて、来た球に反応しました。ライト前へのヒットは1球で仕留められました」

 粘り強さが特徴の阪神打線は、山本がカーブでストライクを思うようにとれなかった結果、狙い球を絞りやすくなった。そうして逆方向を意識しながらコンパクトなスイングを徹底し、強いボールや鋭く落ちるフォークに対応した。そうした攻撃が2023年日本シリーズ初戦、シーズン中ではなかなか見られない山本のKO劇につながった。

 阪神にとって極めて大きな1勝となった一方、オリックスにすれば大エースで落としたのは痛恨の1敗だ。

 試合後、「このままでは終われないか」と振られた山本はこう話した。

「日本一になるのがチームの目標なので、そこに向かってやります。もう1試合あるかもしれないし、ないかもしれないですけど、しっかり準備しておきたいなと思います」

 はたして、山本にリベンジの機会は巡ってくるか。あるいは、阪神が勢いに乗って一気に走り抜けるのか。

 後者の形すら予感させるような、セ・リーグ王者の見事なKO劇だった。