久保建英はラ・リーガ第8節のバスクダービーで再びゴールを決めて、チームの大勝に貢献。通算得点を5ゴールに伸ばし、得点ランキング2位につけている。地元紙「エル・ディアリオ・バスコ」で番記者を務めるイケル・カスターニョ・カベージョ氏が、バスクダービーで活躍する重要性を指摘した。

【またもや試合のMVPに】

 キャリア通算3回目のバスクダービーで計2得点を挙げている久保建英は、今やラ・リーガ最高の選手のひとりとなっているだけでなく、ヨーロッパでもトッププレーヤーのひとりに数えられている。


久保建英は地元が熱狂するダービーでゴールを挙げた photo by Getty Images

 3日おきにプレー、しかもチャンピオンズリーグ(CL)など全大会に出場することは、肉体的な負担があまりにも大きい。そのためイマノル・アルグアシル監督は、ミッドウィークに行なわれたメスタージャでのバレンシア戦で久保に今シーズン初めて休みを与え、ベンチに置く決断をした。大幅なターンオーバーで主力を多数温存したにもかかわらず、チームは勝ち点3を手にした(1−0で勝利)。

 いい流れのなかで完全休養できた久保は、チュリウルディン(※レアル・ソシエダの愛称)にとって最も重要な試合のひとつ、レアル・アレーナで行なわれたアスレティック・ビルバオ戦で先発復帰。このバスクダービーは久保にとって今シーズン、チームが戦った公式戦9試合のうち8試合目の出場となったが、ここでも最近維持している好調ぶりを再びアピールした。

 後半開始直後、久保は決定的チャンスを逃さずチームの2点目を決め、さらにサポーターを魅了する意外な形でそれを祝福した。最大のライバル相手に3−0の大勝を収める立役者のひとりとなり、再びMVPに輝いた。ラ・レアルサポーターにそのパフォーマンスを大いに満足してもらっている久保は、試合後、「観客から称賛されるのは光栄なこと」と喜びを噛み締めていた。

 とはいえ、アスレティックが久保サイドにユーリ・ベルチチェなどチームでも特に優れたDFたちを集結させたため、彼のパフォーマンスが最も光る試合とはならなかった。ただ、そんな状況のなかでも相手の守備の乱れに乗じて、チームに安らぎをもたらすゴールを記録し、ラ・リーガ7試合で得点数を5ゴールに伸ばした。これは紛れもなく見事な数字だ。

 疲労と痛みを抱えながらも、すばらしいパフォーマンスを披露して試合を終えたが、すでに次戦のCLグループリーグ第2節レッドブル・ザルツブルク戦に気持ちを切り替えている。

【バスクダービーの意義を理解】

 バスクダービーの前日、レアル・ソシエダのメディアがアルグアシル監督にその試合の重要性について質問すると、彼はきっぱりと答えた。

「たとえこの対戦が開幕戦であっても、絶対に勝たなければならない試合だ」

 それゆえ、特に新加入の選手たちにその重要性を内面から理解させるのが鍵となるが、昨年移籍してきた久保はすでにバスクダービーがどういうものか、両サポーターにとってどういう意味を持つのかを完璧に熟知している。彼は昨シーズン、初ダービーで臆することなくプレーして得点を決め、サポーターを魅了してみせた。

 ラ・レアルとアスレティックの哲学は同じではない。前者はカンテラ(育成組織)や自国の選手と外国人選手で成長することに賭け、後者はバスク出身の選手だけでチームを構成している。

 先週末や昨シーズンのダービーで、レアル・ソシエダは、試合に勝つためにはカンテラの選手以上のものがチームに必要であると改めて示した。今回の対戦で先発メンバーにはカンテラ出身選手が4人、他チームから加入したスペイン人選手が3人、そしてバスクダービーでは近年最多となる4人の外国人選手が名を連ねた。

 私は、久保のような外国人選手がスタメンにいることが、勝ち点3を得るための重要な要素だと考えている。なぜならその手の試合はクオリティーの差が勝敗を分けることになるためで、この日本人選手はそれを十分に備えているからだ。

 レアル・ソシエダは2010−11シーズンの1部復帰以降、アスレティックと公式戦で28回対戦してきた。そのうち27試合がラ・リーガ、1試合が2019−20シーズンの国王杯(コパ・デル・レイ)決勝で、通算成績は13勝7分8敗と大きく勝ち越している。

 ここ13年間のバスクダービーにおいて、外国人選手はあまり多く出場してきたわけではない。

 バスク地方の独特なダービーにおいて近年特に印象的な活躍を見せたのは、レアル・ソシエダのカンテラ出身で今や世界的スターにまで上り詰めているフランス人FWアントワーヌ・グリーズマンだ。バスクダービーでたびたびチームを勝利に導く活躍を見せ、4シーズンで8試合に出場し3得点を記録。今でもチュリウルディンのサポーターに特に愛されている選手のひとりである。

 ほかにバスクダービーで目立つ活躍をした外国人選手と言えば、いくつかの試合で勝利の鍵を握ったチリ人GKクラウディオ・ブラボとアルゼンチン人GKのヘロニモ・ルジ、永遠のライバルとの7シーズンに渡る対戦で3ゴールを決め、幾多のアシストを記録したメキシコ人FWカルロス・ベラ、4シーズン所属して2ゴールを挙げたスウェーデン人FWアレクサンデル・イサクなどを挙げることができる。

【彼は本当に日本生まれなのか?】

 久保はレアル・ソシエダ加入後、バスクダービーに3度出場しているが、その戦績は2勝1敗。ホームで2試合続けてゴールを決め、チームの鍵を握る選手となっている。

 今年1月にホームで行なわれたキャリア初のバスクダービーは、久保にとって最高のものとなった。開始前から闘志をみなぎらせ、キックオフと同時にトップギアに入れた。

 試合を通じてアスレティック守備陣の頭痛の種となり、チームの2点目を決めた時のDFダニエル・ビビアンを股抜きでかわし、名GKウナイ・シモン相手にゴールした一連の流れは、まるでテレビゲームを見ているかのようだった。

 多くのサポーターは彼が本当に日本生まれなのか、本当はギプスコア(※バスク州にある県。県都はサン・セバスティアン)出身なのではないかと疑ったほどだ。

 一方、4月にアウェーで行なわれた昨シーズン後半戦のダービーは、久保にとってラ・レアル加入後特に出来の悪い試合のひとつとなった。サイドで対峙したDFユーリを全く突破できず、絶望のどん底に突き落とされた。

 ディフレクトしたボールで1度、決定的チャンスを迎えたが、シュートはウナイ・シモンに素早く反応されてしまい、1時間近くプレーしたものの最低のパフォーマンスとなった。

 ここのところずっとチュリウルディンサポーターの間で話題になっていることと言えば、先日のダービーでのパフォーマンスよりも、久保のゴール後のセレブレーションだ。

 昨シーズン、得点後に広告パネルによじ登ったように、今シーズンも彼は世界中を駆け巡るジェスチャーを披露してみせた。この日本人選手は足をケガしているフリをして、チームメイトやサポーターが心配し始めた時、小さな"ペレオ"ダンス(※プエルトリコ発祥のお尻を激しく動かすダンス)を踊り、脚光を浴びたのだ。

 どうやらこれはチームメイトのアリツ・エルストンドに頼まれたとのことで、ゲーム『FIFA』でのゴールセレブレーションのひとつから来ているという。

 久保は今、サン・セバスティアンで快適に過ごしており、マジョルカ、ビジャレアル、ヘタフェ時代を完全に過去のものとした。彼はすでに自分にふさわしい居場所を見つけている。