左がキリンが10月に発売する「キリン 上々 焼酎ソーダ」(記者撮影)、右がサッポロが9月に発売した「サッポロ クラフトスパイスソーダ」(サッポロビール提供)

10月1日から実施される酒税改正。それに合わせて、ビール大手各社が対応策を打ち出している。

今回の酒税改正は、ビールを減税して、新ジャンル(いわゆる「第3のビール」)を増税するというもの。ビールは350ミリリットル缶あたり6.65円の減税となる一方、新ジャンルは同約9円増税され、発泡酒と同額となる。ビール類という同種の財に対する税額を、できるだけ合わせるという趣旨で行われる。

各社がまず取り組むのが、ビールの強化だ。4月サントリーが新しいスタンダードビール「サントリー生ビール」を投入したのを皮切りに、10月にはアサヒビールが看板ブランド「スーパードライ」に低アルコール商品を追加、キリンビールは高価格帯のクラフトビール「SPRING VALLEY (スプリングバレー)」で日本産ホップを一部使った新商品を投入する。サッポロビールも新商品を発売予定だ。

いずれもビール減税をにらんだ動きだが、もう一つ、各社が強化に走るカテゴリーがある。チューハイだ。

キリンは「食事に合う」チューハイを拡大

キリンは、麦焼酎をソーダで割った新ブランド商品「キリン 上々 焼酎ソーダ」を10月17日に発売する。

焼酎など原酒のソーダ割りは、チューハイの中でも近年販売数量が増加している商品群。理由の1つが「食事に合うこと」だ。今回キリンは焼酎の特長を引き立てる米麹抽出物や食塩などの素材を使い、クセのない味わいにして、食事との相性を一層高めた。また甘さを控え、糖類などの使用を抑えていることもウリの1つだ。


キリンの松村孝弘氏。今後もチューハイ市場は拡大すると予測する(記者撮影)

キリンビールのマーケティング部で缶チューハイ等を担当する松村孝弘氏は、「最近ではビール類のみを買うお客様が減っている一方で、ビール類と缶チューハイを同時に購入する“併買者”が増えている。今後もチューハイ市場は拡大する」と語る。10月には主力ブランド「氷結」の無糖シリーズのリニューアルも実施、チューハイの強化に本腰を入れる。

実際、チューハイ市場は近年大きく拡大してきた。


2022年の販売数量は約2億4600万ケースと、この5年間で約32%も増加した。家飲み需要の落ち着きや一部ヒット商品の減速で前年比では微減となったが、酒類の中で数少ない成長カテゴリーといえる。

対照的なのが、新ジャンルだ。その課税移出数量は2021年以降大きく減少している。

酒税改正で新ジャンルから流入

これは2020年10月に行われた酒税改正が影響している。この時も今回と同じようにビールが減税、新ジャンルが増税された。その際、チューハイの税額は据え置かれており、それによって、一部のユーザーが新ジャンルからチューハイに流れたと見られている。


実は今回の酒税改正でも、チューハイの税額は据え置きのまま。3年前と構図は同じだ。各社がチューハイ強化に動く背景には、需要の拡大に加え、こうした酒税改正の影響がある。

市場の変化を捉え、サッポロビールもチューハイの拡大を狙う。

同社は、9月12日に新商品「サッポロ クラフトスパイスソーダ」を発売。キリンと同様、高まる「食中酒」ニーズに着目した。「食事に合う」だけでなく、コリアンダーや生姜といったスパイスを用いることで、「食事を引き立てる」食中酒を目指した。

サッポロはチューハイでは後発。常務執行役員の武内亮人マーケティング本部長は、「(チューハイに強い)サントリーやキリンのようになりたいとは思わないが、市場で異彩を放つ存在を目指す」と語る。

いち早くノウハウを蓄積し、「異彩を放つ」ためにサッポロが重視するのは、スピード感をもった商品開発だ。チューハイはさまざまなフレーバーやアルコール度数の設定によって消費者の多様なニーズに応えやすい分、トレンドも変わりやすく商品の改廃が早い。

武内氏は、チューハイ事業について「(比較的流行り廃りの少ない)ビールの感覚でやってはいけない。絶え間なく提案を続け、ニーズに応えるのではなく新しいニーズを創出し続けることが重要」と語る。

サッポロは商品開発にAIを活用

そのために用いるのが、人工知能(AI)だ。日本アイ・ビー・エムと共同開発し、商品化の過程で過去検討してきた約1200種の配合や約700種の原料情報を含むレシピを学習させた。今後のチューハイ開発において「何らかのかたちで必ず活用する」(武内氏)方針で、商品開発にかかる総時間を約5割削減する効果が期待できるという。


サッポロビールの武内亮人マーケティング本部長。AI活用や内製化で缶チューハイ事業の収益性向上を狙う(撮影:佐々木仁)

生産能力の増強にも乗り出す。10月には仙台工場で缶チューハイの新しい製造設備を稼働させる。これにより同社の缶チューハイの生産能力は2倍に拡大する。サッポロではこれまで一部の生産を外部委託してきたが、自社製造に切り替えることで、生産の効率化や物流の最適化を図る狙いがある。

一般的にチューハイは、ビールに比べ収益性の低さが課題だった。安売りの対象になりやすいうえ、生産拠点が少ないために物流費が高くなることなどが理由だ。サッポロの戦略は、こうしたチューハイ事業の構造を意識したものといえる。武内氏は「『男梅サワー』といった基軸ブランドを確立できたことで、新商品にも積極的に投資できるようになった」と話す。

チューハイ強化は他社も同様だ。サントリーは「ほろよい」「−196℃」などの主力ブランドで新フレーバーや季節限定商品を投入する計画。アサヒも2025年までにチューハイ等の事業の売上高を2022年比1.5倍以上の600億円とする目標を打ち出している。

今回税額が据え置かれたチューハイは、2026年10月には増税が予定されている。だが、それでもビール類との税額差は続く見通し。ビール類の「補完役」として、チューハイの役割はますます増えていきそうだ。

(田口 遥 : 東洋経済 記者)