日本からアメリカなど、数時間以上の時差がある国や地域間を移動すると、睡眠障害や頭痛、吐き気が生じるなどの「時差ぼけ」が発生することがあります。ノースウェスタン大学の研究チームが時差ぼけから素早く回復するための方法について研究を行い、時差ぼけの克服には「食事のタイミング」が重要であることが報告されています。

A minimal model of peripheral clocks reveals differential circadian re-entrainment in aging | Chaos: An Interdisciplinary Journal of Nonlinear Science | AIP Publishing

https://doi.org/10.1063/5.0157524



Your Stomach Could Be The Key to Fighting Jet Lag, Scientists Say : ScienceAlert

https://www.sciencealert.com/your-stomach-could-be-the-key-to-fighting-jet-lag-scientists-say

Synchronizing your internal clocks may help m | EurekAlert!

https://www.eurekalert.org/news-releases/1000141

倦怠(けんたい)感や睡眠障害、頭痛などを伴う時差ぼけは主に、約1日周期の体内時計(概日リズム)と周囲の環境の違いによって引き起こされます。これまでの研究で、人間の体内には複数の体内時計が存在しており、これらの体内時計が互いに同期していないときに時差ぼけの症状が生じる可能性があることが示唆されています。

体内時計は体内のほぼ全ての細胞や組織に存在しており、それぞれが独自の手がかりを頼りに調整を行っています。人間の脳の体内時計は日光の明るさを元に調整を行っていますが、一方で胃や肝臓などの臓器は食事の時間によって調整が行われるとのこと。

研究チームのメンバーであるノースウェスタン大学のイートン・ファン氏は「脳が休息に入ろうとしている時間帯に夜食を食べるなど、体内時計と相反する行動は体内時計の混乱、非同期につながり、時差ぼけなどが生じる可能性があります」と述べています。

一方で研究チームによると、従来の研究の多くは主に単一の体内時計に焦点を当てていたとのこと。ファン氏は「相反する時間的な手がかりの下での複数の体内時計における同期についての理解には、多くの謎が残されています」と語っています。



そこで研究チームは体内時計間の相互作用を解き明かすために、体内時計の自然なリズムを模倣する2つの集団の数学的モデルを構築しました。各モデルは他のモデルに影響を与えるとともに、外部からの固有の刺激によって性質が変化するようになっており、環境や行動の変化によって現実の人間に生じる時差ぼけを模倣する仕組みとなっています。

モデルを用いたシミュレーションの結果、老化などに伴って体内時計間の信号が弱くなったり、光に関する感度が低下したりすると、時差ぼけなどの症状からの回復が遅くなることが証明されました。

さらに研究チームは時差ぼけからの回復をスピードアップさせるための方法について調べました。調査の結果、時差ぼけからの早期回復には「食事のタイミング」が重要であることが判明しました。

ファン氏は「移動先の新たなタイムゾーンで朝から大量の食事を行う生活を3日間続けることで体内時計が再調整され、時差ぼけを克服できる可能性があります」と述べています。一方で研究チームは「移動先で食事のスケジュールを日ごとに変更したり、深夜に食事をとったりすることは、体内時間のズレにつながる可能性があるため、お勧めしません」と指摘しています。



体内時間は老化に伴って次第にズレが生じると考えられており、複数の体内時計を同期させることは睡眠障害を改善するために非常に重要です。研究チームは「今回の実験から得られた結果は、体内時計の調節における食事のタイミングの重要性を浮き彫りにしました。また、加齢と体内時計との間の複雑な相互作用について、新たな知見が得られました」と報告しています。

研究チームは今後、断食を行うことが成人における睡眠障害の改善につながるかどうかや、アルツハイマー病の進行を遅らせることができるかどうかについての研究を行う予定です。