中国の大手通信機器メーカーであるHuaweiは2023年8月30日、前触れもなく最新スマートフォンの「Mate 60 Pro」を発表しました。少量のみ流通したとみられるMate 60 Proを分析した結果、搭載されているチップは中国のチップメーカーであるSMICの7nmプロセスで製造されていることや、5G接続に対応していることなどが判明しました。

TechInsights Finds SMIC 7nm (N+2) in Huawei Mate 60 Pro | TechInsights

https://www.techinsights.com/blog/techinsights-finds-smic-7nm-n2-huawei-mate-60-pro



Look Inside Huawei Mate 60 Pro Phone Powered by Made-in-China Chip - Bloomberg

https://www.bloomberg.com/news/features/2023-09-04/look-inside-huawei-mate-60-pro-phone-powered-by-made-in-china-chip

While under US sanctions, where did Huawei get the advanced chips for its latest Mate 60 Pro smartphone? | South China Morning Post

https://www.scmp.com/tech/big-tech/article/3233166/while-under-us-sanctions-where-did-huawei-get-advanced-chips-its-latest-mate-60-pro-smartphone

Huawei's New Mystery 7nm Chip from Chinese Fab Defies US Sanctions | Tom's Hardware

https://www.tomshardware.com/news/huaweis-new-mystery-7nm-chip-from-chinese-fab-defies-us-sanctions

近年、アメリカは安全保障上の脅威からHuaweiをはじめとする中国企業の通信機器の販売を規制しているほか、SMICをはじめとする半導体企業に対し、最先端の半導体および半導体製造技術の輸出規制を強化しています。中国はこうした規制に対し、国産チップの製造技術強化に向けて取り組んでいることが報じられていました。

そんな中国企業への規制に関わるアメリカ合衆国商務長官のジーナ・レモンド氏が訪中していた8月30日、Huaweiは突如として最新スマートフォンの「Mate 60 Pro」を発表しました。HuaweiはMate 60 Proのモバイル通信や搭載チップに関する詳細について発表していませんが、搭載チップは既存モデルにも使われた「Kirin 9000」の後継である「Kirin 9000s」だとみられています。

Mate 60 Proは少量しか流通しておらずすぐに売り切れてしまいましたが、一部のメディアは実物を入手することに成功しています。実際にMate 60 Proを手にしたテック系メディアのGizmochinaは独自にAnTuTuベンチマークテストを行い、「5Gネットワ​​ークが戻ってきた」と報じており、Kirin 9000sは5G接続に対応している可能性があると話題になりました。

Huawei「Mate 60 Pro」は規制回避のため独自開発の5Gチップ搭載か - GIGAZINE



そんな中、Mate 60 Proを入手したBloombergは、さまざまな電子機器の技術分析やコンサルタントを手がけるTechInsightsにMate 60 Proのチップ解析を依頼しました。カナダのオタワにある研究所で調べた結果、TechInsightsはMate 60 Proのチップにみられるさまざまな識別要素やダイの寸法測定から、チップがSMICの7nmプロセスで製造されたものであると結論付けました。

Bloombergが公開した「Mate 60 Proに搭載されているチップ」の写真が以下。



by James Park/Bloomberg

SMICは厳しい半導体技術の輸出規制が設けられる中でも、7nmプロセスでのチップ製造に成功していることが以前から指摘されていました。

中国の半導体メーカー「SMIC」がIntelすら苦戦した7nmチップを大量生産し世界第3位相当のファウンドリへ急成長している実態が判明 - GIGAZINE



TechInsightsの技術部門副会長を務めるダン・ハッチソン氏は、「Huaweiの新型スマートフォン『Mate 60 Pro』でSMICの7nm(N+2)ファウンドリプロセスを使用したKirinチップが発見されたことは、中国の半導体産業がEUVリソグラフィツールなしで技術的進歩を達成できたことを示しています。この難しさは、中国のチップ技術力の回復力が高いことを示すと同時に、重要な半導体製造技術へのアクセスを制限しようとしてきた国々にとっては、大きな地政学的挑戦でもあります。その結果、現在よりもさらに大きな制限が設けられることになるかもしれません」と述べています。

なお、香港の日刊英字紙であるサウス・チャイナ・モーニング・ポストは、「Mate 60 Proに使用されたチップはアメリカの規制強化前に台湾のTSMCから輸入されたもの」という可能性も提唱していますが、この説明はチップの特徴からSMIC製だと結論付けたTechInsightsの報告と食い違うものです。

Bloombergは、Mate 60 Proの流通量が少ないためSMICが7nmプロセスの5Gチップを大量生産できるかどうかは不明であり、実用に耐えうるコストで製造できるのかどうかもわからないと指摘。それでも、「Mate 60 Proのチップは、中国の軍事力強化に使われるのではないかという懸念から、中国の最先端技術へのアクセスを阻止しようとするアメリカ主導の世界的キャンペーンの有効性に疑問を投げかけるものです」と述べました。