作家・作詞家として活躍する高橋久美子さんによる暮らしのエッセイ。猛暑日が続いた今年の夏、「木」の存在に救われたと言います。その理由についてつづってくれました。

第105回「お家に木を植える」

暑い夏が少しずつ終わろうとしている。今年は酷暑が連日続いて、農作物もさすがに枯れてしまうし私も熱中症になってしまうしで、大変な夏だった。

30度以上になる夜のことを超熱帯夜と呼ぶらしいが、全国、寝苦しい夜も続いたことと思う。愛媛の家では、昼間は命の危険を感じるほどの暑さなのだけれど、日が沈むとあれれ…網戸で眠れるほどに温度が下がる。

周りが田畑や山なので、温度が下がるのが早いのだろう。

●庭の大きな木のおかげで、東京の家が涼しい

一方、東京の家はというと、あれ? 去年よりも夜が涼しい。気のせいかなと網戸で過ごしてみるが、いけちゃう。昼間はもちろん暑いのに夜になるとスーッと温度が引いて、網戸から涼しい風が入ってくる。去年と変わったことといえば、庭木が一段と大きくなり、二階の屋根まで茂っている。

私の家は賃貸の一軒家だ。小さな庭にはレンガを敷き詰められているけれど、家の周囲30センチはくるっと土のまま残してくれていた。そこに、4本の木を植えたのは6年ほど前だ。この連載でも度々出てくる、ユーカリやミモザアカシアなど、大木になることを考えずに植えてしまった。みるみる木は大きくなった。台風のときは枝が折れたり、電信柱の方まで倒れていったりと大変なこともあるけれど、この涼しさはきっと木々が木陰を作ってくれているからだろう。

猫の額ほどの裏庭にも、びわの種を落としていたら、それが6年の間に成長し、2階まで届く勢いだ。月桂樹も、ぐんぐん成長し同じくらいの高さになっている。

びわの木が成長したことで、1階の部屋には木陰ができスダレを一部垂らさなくてもよくなった。2階のベランダには、1階のミモザの木が悠々と茂り、風が吹くとさわさわと揺れて、寝室まで涼しい風を運んでくれる。

今年漬けた大量の梅を何回かに分けてベランダに干していると、風がプラムの甘い香りを運んでくれて、なんて気持ちよい夜だろう。

木は呼吸している。そのときに水分も出してくれているので、クーラーのようにひんやりとした風を吹かせてくれているのだ。どんなに暑い日でも、森に入るとひんやり涼しいのは、木陰を作ってくれているだけでなく木の葉っぱや枝から出る水蒸気の効果なのだ。

●木の存在は温暖化にとっても貴重なものになる

先日、知人と話していて、この話題になった。

「家を建てるとき、庭や駐車場をコンクリートで塗り固めるのをやめてる人が増えてるみたい」

と知人。ふむふむ、これだけ暑いとやはりそういう方向になるよね。

「都会は結局コンクリートが熱をためこんでるから暑いんだよね」

「そうそう。庭を土のままにした家とコンクリートで固めた家じゃあ、実際けっこう温度が違ってくるみたいだよ」

おおー。素晴らしいな。できるところからアスファルトをはがしていくというのも、温暖化対策には必要なのではないかな。

私の住んでいる区は、家々の緑化運動にも力を入れている。このあいだ自治会の方々が家にやってきた。こんな木がでっかくなってるから叱られるんじゃないかとヒヤヒヤしていたら、こういう家をモデルケースにして、もっと庭木を増やしてもらいたい、と言ってくれた。

剪定や落ち葉掃きなど、大変なこともある。でも、たったこれだけの木を大切にできなくてどうすんだと思い、ありがとうの気持ちを込めてお世話をする。

2階のベランダでも鉢植えでたくさんぶどうを育てている。土の中に手を入れてみてください。酷暑でもひんやりとしていますよね。そういう場所をマンションの一室でも少しずつ少しずつ増やしていってはどうでしょうか。

木々の呼吸は、今後いっそう私達の生活に必要不可欠になってくると思う。

 

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