三浦知良選手(写真:なかしまだいすけ/アフロ)

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大正製薬(東京都豊島区)が三浦知良選手の広告起用を巡り、三浦選手の広告出演管理をしているロードアンドスカイグループ(東京都渋谷区)のハットトリックと、サントリーウエルネス(東京都港区)を非難したことが注目を集めた。訴訟にまで発展しており、専門家は「こんなに話がこじれてしまったのは今まであまり見たことがない」と驚きを口にする。一連のトラブルについて、広告業界の慣習や常識などの観点から見解を聞いた。

契約中に競合の可能性ある他社の広告に出演することは「珍しい事例」

大正製薬は2023年8月4日、公式サイトで「株式会社ハットトリックとの訴訟について」と題するコメントを発表した。発表文書によると、同社が「リポビタンD」シリーズの広告に長年起用している三浦選手を錠剤タイプの商品にも起用しようとしたところ、ハットトリックが拒否。さらにサントリーウエルネスが錠剤タイプの健康食品に三浦選手を起用したため、契約上の競合禁止規定に違反しているとしてハットトリックを提訴した。

裁判の結果について、大正製薬は「契約書に『錠剤』の文言がないとの形式的な理由」で同社の訴えが認められなかったとし、「長年にわたり三浦選手を起用し、同選手とともに広告対象商品のイメージを作り上げてきたものであり、裁判所の判断は、業界の健全な社会常識に明らかに反するものです」と批判した。

また、高額な契約金は、起用しているタレントが、競合する他社製品への広告に出演しないことを前提にしたものであり、「仮に他社の競合製品の広告への出演が許されてしまうのであれば、長時間をかけて、また、莫大な金額を費やして築き上げたイメージを競合他社に瞬時に奪われるおそれがあることとなり、これまでのように高額な出演料をお支払いすることは難しくなります」と説明。「そもそも当社が長年にわたり起用中の三浦選手を自社の競合製品に起用するサントリーウエルネスの行為自体にも問題があります」とサントリーウエルネスも批判した。

一連のトラブルについて、電通での勤務経験を持ちマーケティング戦略やブランド戦略に詳しい田中洋・中央大学名誉教授はJ-CASTニュースの取材に対し、タレントが広告契約終了後に競合にあたる他社製品のCMに出演することはよく見られるが、今回のように契約中に競合となる可能性のある他社と広告契約を結ぶことは「記憶になく、珍しい事例」と驚いた。

通常は「事前に了承を取ることが望ましい」

大正製薬とハットトリックが訴訟にまで発展したことについて、田中教授は特定の企業に落ち度があったと断定はできず、さまざまな原因が考えられるとした上で、「こんなに話がこじれてしまったのは今まであまり見たことがないので、少し事の進め方を急ぎすぎたのかなという印象」という見方を示した。「大正製薬さんの商品は液状で、サントリーウエルネスさんの商品は錠剤なので、これは別(競合にあたらない)という判断もあり得るとは思う」とし、その結論に至るまでの進め方に問題があったのではないかとした。

田中教授は「大正製薬さんも、サントリーウエルネスさんも、広告については知識も経験も非常に持っている会社なので、そういう会社同士で訴訟にまで発展してしまったというのは残念です。(間に入った)ハットトリックがどう調整したのかについて知りたいところです」とハットトリックの調整の仕方について疑問を示した。

広告業界の通例を考えると、田中教授は「同じカテゴリーの商品であれば、競合かもしれないということで、一応お伺いを立てるなどするのが普通ではないかと思います。広告業界はお互いの信用で成り立っているところがありますから。日本の場合は特に、全てが契約で縛られているわけではないので、できるだけ事前に了承を取ることが望ましい」とした。

サントリーウエルネスは「事前に確認する立場にはない」

J-CASTニュースはハットトリック、サントリーウエルネスそれぞれに「三浦選手の広告起用についてどちらからの提案だったか」「大正製薬側に事前に確認をしたのか」について取材を申し込んだ。

ハットトリックは8月15日、「個別のご質問にはお答えいたしかねます」と回答した。

サントリーウエルネスは17日、三浦選手の起用をどちらが提案したかについては「個々の契約に関する内容・経緯についてはお答えしておりませんが、当社としては適切な契約を締結し、それに基づきタレントを起用しております」と回答。大正製薬側への確認については「広告対象となる商品カテゴリーが異なり問題ないと考えていますが、当社が事前に確認する立場にはないと考えています」とした。