出産に伴って女性の体内でホルモンバランスが崩れることで、出産後に数週間から数カ月にわたって心理的障害が発生する「産後うつ病」の症状を緩和するための経口薬「ズラノロン」がアメリカ食品医薬品局(FDA)に2023年8月4日、産後うつ病に対する経口薬として初めて認可されました。

FDA Approves First Oral Treatment for Postpartum Depression | FDA

https://www.fda.gov/news-events/press-announcements/fda-approves-first-oral-treatment-postpartum-depression



Sage (SAGE) Tumbles as Depression Pill Approval Omits Major Disorder - Bloomberg

https://www.bloomberg.com/news/articles/2023-08-04/biogen-sage-pill-is-first-cleared-for-postpartum-depression

5 things to know about Zurzuvae, the first postpartum depression pill : NPR

https://www.npr.org/2023/08/08/1192665598/postpartum-depression-pill-zurzuvae

FDAによると、産後うつ病は他の形態のうつ病と同様に、深い悲しみを感じたり、以前は楽しんでいた活動への興味を失ったりする症状があるとのこと。また認知障害や活力の喪失、希死念慮などの症状を示す場合もあります。アメリカ疾病予防管理センター(CDC)は、産後の女性の死亡のうち約20%は自殺だと報告しています。

FDAの医薬品評価研究センターで精神医学部門のディレクターを務めるティファニー・ファルチオーネ氏は「産後うつ病は、他のうつ病と同様、最悪の場合生命を脅かす可能性のある深刻な状態です。また、産後うつ病は母と生まれた子の関係を崩す可能性もあり、子どもに危害を加えるなど、子どもの身体的および感情的な発達にも悪影響を及ぼす可能性があります」と述べています。

このように、産後うつ病は母子ともに悪影響を及ぼす可能性のある深刻な病気でしたが、これまで産後うつ病の治療には、専門医による注射や認知行動療法などのカウンセリングが用いられるだけでした。



ファルチオーネ氏は「産後うつ病に対して経口薬が導入されれば、産後うつ病に苦しむ女性にとって有益な選択肢になるでしょう」と述べています。

商品名「Zurzuvae(ズルズバエ)」として製薬会社・バイオジェンとセージ・セラピューティクスが開発した産後うつ病の経口薬「ズラノロン」は、産後うつ病を発症した女性での治験が2度にわたって行われました。

治験では、妊娠中または出産後4週間以内に産後うつ病を発症した女性に対し、それぞれ50mgまたは40mgのズルズバエもしくは同量のプラセボ薬を1日1回、14日間にわたって投与しました。



14日間にわたる投与の後、うつ病の状態を測定した結果、ズルズバエを投与された患者はプラセボ薬を投与された患者と比較して、産後うつ病の症状が有意に改善していることが判明しました。

特筆すべき点として、一般的な抗うつ薬は服用後、効果が表れるまで数週間を要しますが、ズルズバエは服用からわずか数日で治療の効果が表れました。治験を行ったファインスタイン医学研究所のクリスティーナ・デリジャンニディス氏は「早い人では2回目のズルズバエ投与後、つまり3日目には急速な抗うつ効果が表れました」と報告しています。



さらに、ズルズバエによる治療効果は、ズルズバエの最後の投与から4週間後となる42日目でも継続していることが明らかになりました。

一方でズルズバエには、眠気やめまい、下痢、倦怠(けんたい)感、尿路感染症を伴う副作用があるとされており、安全のために、服用後約12時間は自動車などの運転は控えるべきとのこと。

ズルズバエは、乱用防止のために今後アメリカ麻薬取締局(DEA)による承認を受けてから、2023年の第4四半期に市販が始まる予定です。