「ホリエモンがフジテレビの経営者になっていたら、日本のテレビ局は変わっていた」RIZINをつくった男が語る「地上波の未来」と「自身の引き際」

PRIDEの売却から7年。一時はサッカーの世界に身を投じていた榊原信行氏は、再び格闘技の世界に戻ってきた。「RIZIN」「THE MATCH」など数字の獲れる興行を次々と打ち立ててきた同氏が、初の著書『負ける勇気を持って勝ちに行け! 雷神の言霊』刊行を記念して、勝てるエンタメビジネス論を語った。

PRIDE売却後の7年間

――2007年のPRIDE売却後、契約の中に7年間の協業避止義務があったせいで、榊原さんは格闘技の世界を離れ、サッカーの世界に身を投じられました。ただ7年後、すぐにRIZINを立ち上げて、格闘技の世界に舞い戻ってこられます。やはり格闘技の世界で得られる興奮は、他では味わえないものだったのでしょうか。

榊原(以下同) 本の中では書き切れなかったのですが、小中高と、私がいちばん必死になっていたのはサッカーだったんです。つまり、原点でもあった。やっぱりサッカー界は世界の中でも、もっとも確立されたスポーツ組織なわけじゃないですか。だから、それに触れてみたかった。

それで当時、まだアマチュアだったFC琉球のオーナーとなって、日本の最南端から日本一のサッカークラブをつくるというロマンを追いかけてみたんです。最初の頃は、のめり込みましたよ。住民票を沖縄に移して、相当な額のお金も注ぎ込みました。ゲームの『サカつく』をやっているような感覚に近いのかな。

榊原 信行(さかきばら のぶゆき)
1963年11月18日、愛知県生まれ。大学卒業後、東海テレビ事業株式会社に入社。退社後、1997年に「PRIDE.1」を開催し、2007年の売却まで唯一無二の地位を築く。2015年より、「RIZIN」始動。2022年開催の「THEMATCH 2022」では、那須川天心×武尊戦を実現させ、総売り上げ50億円超を記録

――でも、何か違ったわけですか。

格闘技とのギャップをいちばん感じたのは、ビジネスとしてのダイナミズムですよね。サッカーはその点が、エキサイティングじゃない。まずは、オーナーになったところで、そこで生まれる放映権のコントールができるわけではない。その権利はJリーグ本体に握られていますから。メインスポンサーもJリーグについていますし。

無論、そうした収益はのちに各チームに分配されるわけですけども、それって社会主義の発想だなと思って。僕らができるのはチームを継続するためにローカルスポンサーを探すことと、チケットの売り上げを伸ばすことくらいなんです。そこへいくと、格闘技は国内にとどまらず、世界へ向けても独自に放映権を売買できる。自分たちで作り上げたものが世界中で絶賛されているという高揚感がありました。

プロモーターとしての「引き際」

――やはり榊原さんは規格外の夢を追いたいというか、規制の枠そのものをぶち壊すようなことがしたいわけですね。

サッカーで言うなら、日本サッカー協会の向こうを張るような、新しいリーグに携わってみたいですね。数年前から、エア・アジアがバックについて、東南アジアを中心とした新リーグを作ろうという動きがあるじゃないですか。そうなったら、Jリーグではなく、そっちのリーグに所属するようなチームを持ちたい。

将来的に人口12億人のインドも新リーグに参加するようになれば、世界最大のマーケットを持つリーグになりますから。日本にそんなことをしようとするチームはないでしょう。Jリーグって結局、企業閥と学閥に守られている組織なんですよ。どこの大学出身かということで、先輩が引き上げたりする。そういうのが見えちゃったので、もう無理だなと思っちゃったんですよね。

――2015年にRIZINを旗揚げしたとき、「これから10年、とにかく命をかけてやる」と宣言されました。あと2年くらいで、その10年になるわけですが、そのリミットまでにこれだけはやっておきたいというものはありますか。

私は日本の総合格闘技のあけぼのは、1976年の猪木・アリ戦だと思っているんです。アメリカは1993年に誕生したUFCが、その第一歩です。つまり日本で50年、世界的にはたかだか30年の歴史しかない。

でも、この30年で、ここまで世界的な発展を遂げたスポーツ競技は他にないと思うんです。総合格闘技はサッカーや野球に負けないくらいのポテンシャルがあることを証明できた。これから50年、100年と続いていくスポーツだと思います。

私は今年で60歳になります。なので、30代とか、20代でもいい、私自身が30代のときにPRIDEを盛り上げようと奔走していたときのようなバイタリティやエネルギーをもっている世代に早くバトンタッチしたい。私たちは2021年6月に東京ドームで『RIZIN』を開催したのですが、東京ドームで格闘技イベントが開かれたのは実に14年半振りのことだったんです。


――ひと昔前までは毎年のようにやっていたんですけどね。

東京ドームだけでなく、さいたまアリーナとかで、4万人規模のイベントを当たり前のようにやっていた。それが、この15年で縮小してしまった。なので、あと2年で、若いスタッフに5万人、6万人が入るようなイベントを経験して欲しいんです。あとは旗揚げ10周年の記念に、新国立競技場で10万人規模の格闘技イベントを開催して、それを最後に引退するというのはどうですか(笑)。

「今の経営陣を刷新しない限り、テレビ局は生まれ変わらない」

――美しい幕引きですね。

今の放送局もそうですが、日本社会は、年寄りがポジションにしがみつき過ぎだと思っているんですよ。総合格闘技は、まだ未来のあるコンテンツなので、とにかくいい形で次の世代に引き継ぎたい。新国立の10万人イベントは、私が最後に残していく道しるべのようなものになればいいなと思っているんです。次の世代が「あのとき、新国立で10万人入ったイベントがあったよね」「自分たちはこれを超えていかなければならないんだ」と。


――これからの格闘技界を考えたとき、もうテレビ局は眼中にはないのでしょうか。

K-1やPRIDEの時代は、テレビのコンテンツにするというのがひとつのゴールだった。でも今は、地上波に向けてコンテンツをつくっても世界で戦えない時代になってしまいました。それよりもネットや通信の世界で、ペイパービューなどの有料コンテンツとしていかに熱を作り出していくかの方が大事ですよね。

――テレビ局は衰退の一途をたどるしかない、と。

いや、もちろん、テレビ局にもまだまだチャンスはあると思っているんですよ。テレビ局の今まで培ったノウハウというのは大変なものだし、中継車やカメラなどべらぼうな規模の機材を持っているわけです。それらを活かさない手はない。ただ、今の旧態依然とした経営陣を刷新しない限り、テレビ局は生まれ変わらないと思います。ホリエモンのフジテレビ買収騒動のとき、ホリエモンがフジテレビの経営者になっていたら、テレビ局は変わっていたでしょうね。


――それにしても、プロモーターという仕事は希望と失望の起伏が激しく、とにかくストレスがかかる仕事だという気がしますよね。

ストレスはかかるけど、めちゃくちゃおもろいですよ。ただ、ひとつのプロジェクトが終わるたびに、「もういいかな」とは思います。それぐらいエネルギーを消耗する職業ではありますね。でも、だからこそ、結果が出たときは、たまらないんですよ。

取材・文/中村計 撮影/村上庄吾

「負ける勇気を持って勝ちに行け! 雷神の言霊」

榊原 信行

2023年7月27日

1,760円

208ページ

ISBN:

978-4046060600

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プロデュース:Kaori Oguri