ビッグモーターによる保険金不正請求問題で、損保ジャパンは弁護士など第三者による調査の実施に踏み切る計画だ(写真:編集部撮影)

損害保険ジャパンに自浄作用はあるか。

中古車販売大手・ビッグモーター(東京都港区、兼重宏行社長)が事故車修理における保険金を不正に水増し請求していた問題で、幹事会社である損保ジャパンは、損害査定や保険金支払い態勢などに問題がなかったか、弁護士など第三者による調査チームを立ち上げる方向で検討に入った。

損保ジャパンは、ビッグモーターの修理を担う板金部門や自動車保険の販売を担う保険部門などに、これまで延べ37人の出向者を送り込んでいる。

にもかかわらず、「不正請求を認識していなかった」との弁明を繰り返していたことで、癒着疑惑が一向に晴れず、批判の声が高まっていた。

監督する金融庁の視線も日増しに厳しくなってくる中で、第三者調査に踏み切ることで自浄作用があることをアピールする狙いがあるとみられる。

ただ、その調査によって損保ジャパンは「パンドラの箱」を開けることになるかもしれない。

疑惑の色を一層濃くしているのが、2019年4月にビッグモーターへ導入した事故車修理における「完全査定レス」の仕組みだ。

それまでは、ビッグモーターが修理作業の見積もりを作成し、損保ジャパンの損害査定人(アジャスター)が見積もりをチェックし、問題がなければ修理に着手するという流れだった。

そのチェック工程を完全に省略し、ビッグモーターの見積もりをほぼノーチェックで通して保険金を支払う形に変えたのだ。

当時の板金部門の部長は社内向けのLINEで、「全29工場が完全査定レスとなり大幅に業務効率が上がります」と高らかに宣言していた。

しかし、この時点ですでに実態のない修理作業による保険金の水増し請求は横行していたわけだ。

「見積もりの出来が悪い」「作業と関係ない部品が請求に含まれている」といったクレームが、三井住友海上火災保険や東京海上日動火災保険からビッグモーターへ頻繁に寄せられていた時期でもある。

そのような状況で、損保ジャパンのみが完全査定レスの保険金支払い態勢を敷くことは、「通常ならあり得ない」と大手損保の幹部は話す。

損保ジャパンはビッグモーターの第2位株主として長年密接な取引をしてきた。完全査定レスの仕組みについて「BM(ビッグモーター)社におけるプレゼンスアップにつなげる」と、損保ジャパンの社内資料には記されている。


2015年時点で、損保ジャパンはビッグモーターの第2位株主だった(写真:記者撮影)

損保ジャパンの関係者によると、この時期からビッグモーターによる「不正請求がさらに加速していったように感じる」という。

一段と疑惑を濃くしているのが「営業ノルマ」だ。

不正の経緯などについて調べた特別調査委員会(委員長・青沼隆之弁護士)の報告書によると、ビッグモーターの板金部門は、最大33あった工場に対し、「アット」と呼ぶ営業ノルマの達成を強く求めていた。

ビッグモーターにおいてアットとは、車両修理1件当たりの工賃(作業代金)と、交換した車両パーツの粗利益(販売代金から仕入れ代金を引いた金額)の合計額を指す。

その平均値を上げるノルマを課し、平均値が低い工場の責任者に対しては、会議の場で本社役員などが厳しく問い詰めたり、見せしめのように降格処分にしたりといったようなことが常態化していたという。

しかし本来、修理1件当たりの工賃は持ち込まれた車両の損傷状況によって決まるものだ。工場スタッフの営業努力によって上げるものではない。

にもかかわらず工賃をノルマに設定していたことの意味について、ある工場スタッフは「(水増し請求の)不正を指示しているのだと思った」と調査委に証言している。

つまり、損傷のない車両のパネル部分に、あえて板金塗装を施すといった手口での水増し請求に手を染めなければ、達成が容易ではないノルマを本部が設定していたということだ。

報告書においても、水増し請求によって「手っ取り早く目標を達成しようとするものが現れることは(本社は)容易に予測できた」「著しく不合理で、大きな問題であった」と指摘している。

損保ジャパンの出向者は、この営業ノルマの存在を認識していたにもかかわらず、これまで是正しようとはしてこなかった。

それだけでない。不正請求が内部告発によって顕在化した後も損保ジャパンはノルマについて触れようとせず「作業員のミス」などと片付け、ビッグモーターの片棒を担ぐようにして早期の幕引きを図ろうとした。

その結果、自賠責(自動車損害賠償責任保険)の契約が損保ジャパンへ一気に流れていった。

そうした一つ一つの「状況証拠」が、ビッグモーターとの癒着を示唆している。そのような中で第三者調査委員会を立ち上げて、損保ジャパンはウミを出し切れるのか。経営陣の責任はもはや逃れられない局面にきている。

(中村 正毅 : 東洋経済 記者)