結婚を考えている相手に宗教二世であることを打ち明けるには、どのようなタイミングでどんなふうに話せばいいのでしょうか(写真:nonpii/PIXTA)

2022年秋に婚約して、今年入籍した理恵さん(仮名、33歳)は宗教二世です。自身は今は信仰していないそうですが、両親は現在も熱心な信者で、子ども時代の理恵さんは週末ごとに信者の集会に参加していたといいます。

婚活中は、自分と同様の背景を持つ人の婚活体験談がなく、不安を抱えながら活動していました。宗教二世の助けになるのであればということで今回、取材に協力していただきました。

初デート直後に宗教二世を打ち明けた

理恵さんが、「自分は他の人と違う」と感じたのは小学校の頃です。

「まず、クラスメイトは“信者の集い”に参加していないことに気がつきました。実家には教団トップの写真を飾っていたのですが、友だちが家に来ると、よく『この人誰?』と質問されました。そう尋ねる子たちには信仰がないことにも気がつきましたが、当時は宗教活動を“良いこと”と考えていたので、その違いを疑問には感じませんでした」(理恵さん)

なお、理恵さんには兄がいます。理恵さんと違い、兄は集会に参加していなかったそうです。両親が子どもたちを集会に強制的に参加させていた記憶はなく、理恵さんは自主的に参加していました。

ところが高校時代、教団の教えに疑問を持つようになったといいます。図書館で『カルトの子』(米本和広著、文藝春秋)などの本を読み、徐々に脱会の意思を強めていきました。集会に足が遠のいている理恵さんに、両親は「行かないの?」と聞いてくることはありましたが、ちょうど受験を控えた頃だったので、特にとがめられたことはなかったそうです。

このときのことを、理恵さんは「自分のアイデンティティーを否定することになるので、脱会の覚悟を決めるのはとてもつらかった」と話します。

理恵さんには、マッチングアプリで出会い付き合ったものの、すぐに別れてしまった彼氏がいました。その男性は会話の中で宗教を馬鹿にする発言がたびたびあり、自分とはわかりあえないと思ったそうです。

その後、離婚歴がある大祐さん(38歳)とマッチングしてデートします。初対面のとき、理恵さんが質問したわけでもないのに大祐さんは「気になると思うけど、そちらからは聞きにくいと思うから」と離婚の経緯を話してくれました。

その日は連絡先を交換して解散したそうですが、家に帰ってから「この人は離婚理由も話してくれたのだから、私も話すべきでは」と思い立ち、その場で電話をかけて宗教二世であることを伝えました。

大祐さんからは「今も信仰しているの?」と確認されました。

理恵さんは「信仰していない。でも信者だったときの友だちとは今もつながりがあって会うことはある」と伝えました。

それに対しては、「つながりがあることは育った環境だから仕方がないと思う」と言われたそうです。

その後、大祐さんは事情も知ったうえで理恵さんに交際を申し込み、お付き合いが始まります。ちなみに大祐さんには特定の信仰はありません。

理恵さんの両親は2人の結婚を歓迎し、大祐さんに布教することもありませんでした。また、大祐さんの両親は理恵さんが宗教二世であることを知っているそうですが、特に宗教に関して質問されたことはないそうです。

宗教二世の女性と結婚した男性が気にしていたこと

大祐さんによると、交際前に気になったことが2つあったそうです。

1つは現役信者である理恵さんの両親の“信仰レベル”です。理恵さんはもし、自分の両親がパートナーに布教するなど宗教関係で迷惑をかけてくるようなことがあれば、親子の縁を切るぐらいの覚悟があったと話します。

2つめは、理恵さんが印象を良くするために「脱会して今は信じていない」とうそをついているのではないか、という点です。

もちろん、理恵さんは印象アップの方便で脱会していると伝えたわけではありません。しかし、それを証明する脱会届けのようなものがあるわけではなく、入信も脱会も自己申告だといいます。

大祐さんは、「現在は信仰していないことを相手に信じてもらうためにも、宗教についてはお付き合いする前に伝えたほうがいい」と言います。後から打ち明けられると、相手にはそのつもりがなくても「隠された」と感じてしまったかもしれないからです。

理恵さんの宗教つながりの友人の中には、結婚も視野に入れてお付き合いしていたけれど、結婚の話が出てから信仰を打ち明けたため、相手の男性は騙されたように感じてしまい、婚約破棄になった方もいたと話します。

2022年7月8日に発生した安倍晋三銃撃事件以降、宗教二世の報道をよく見かけるようになりました。事件は、彼らの婚活にどのような影響を与えたのでしょうか。

「あれから、これまで何ら興味関心を持っていなかった人も宗教を意識するようになりました。統一教会に限らず、おそらくほとんどの宗教の信者はごく普通に生活していて、興味がない人に無理に布教することはないと思います。ごく一部の信者が行っている極端な事例を、宗教を信仰している人みんながそうしていると受け取られかねないと感じる報道もあります。

宗教は謎の洗脳をするカルト集団というイメージを持つ人が増え、より宗教二世であることを打ち明けにくくなっていると感じます」(理恵さん)

結婚を考えている人にカミングアウトするには

では、自分が宗教二世であることを、無宗教の相手に受け入れてもらうコツはあるでしょうか。

「カミングアウトの経験は重ねたほうがよいと思います」と理恵さんは言います。

これには私も同感です。マッチングサービスを使って婚活をすれば、同時並行で数人の異性と会えます。特に女性に多いのですが、「結婚生活が100%イメージできない」と断ってしまい、次のデートに進まないケースがほとんどという方もいます。誰とも深い話ができず、初対面の人と距離を縮める経験値がないまま出会いを繰り返し、婚活歴だけ長くなるのです。

初対面でピンとこなくても試しに2回、3回と会ってみたら居心地がよくなり、そのまま結婚する場合もあります。宗教二世をカミングアウトしたいなら、2回目のデートに行ける人を増やして、打ち明ける練習をしてもよいと思うのです。

理恵さんも、経験値が低かった学生時代には、自分が宗教二世であることをどのように伝えていいのかわからず、なかなかうまくいかないことが多かったと話します。

「今でこそ相手が怖がるポイントがわかるし、感情的にならず淡々と話せますが、昔は違いました。学生時代に初めてできた彼氏に打ち明けたときは、号泣しながら話してしまいました。

20代の頃に職場の男性と付き合ったこともありました。交際を申し込まれた際に実家の宗教の説明をして、『いろいろ面倒くさい家族だから覚悟がいるかもしれないけど、いい?』とポロッと言ってしまったんです。彼はそれを聞き、恋人としてはありでも結婚は無理だと思ったそうです。

たとえ結婚して子どもが生まれたとしても、その当時の私だったら夫に『実家には教団トップの写真が飾ってあって、親が孫に誰の写真か説明するかもしれないけれど、それは布教しているわけじゃないから』としか言えなかったと思います。でも今なら、実家に夫と子を連れて行くときには両親に『孫を連れて帰るから写真はしまっておいて』と根回しもできるはずです。

確かに、両親の信仰はどうにもならないことですが、私自身はもう脱会していますし、相手には迷惑や負担をかけない方法はいくらでもあります。これから結婚を考えている方は、それを上手に伝えて、理解してくれる人と関係を育んでいってほしいです」

宗教二世の結婚で幸せになった人もたくさんいる

この記事が、宗教二世で婚活中の方や婚活で知り合った相手から宗教二世であることをカミングアウトされた方の両方に届くことを強く願います。

「宗教名 結婚」で検索すれば、結婚は辞めたほうがよいという意見の記事が多く上位表示されます。でも、幸せになっている人がいるのも事実。信仰の違いを乗り越えて家族になった人たちの多くは、ネットに体験談を書いたりしないのです。

結婚を考えている相手がいるのなら、検索するよりまずは相手と向き合ってほしいと切に思っています。

(菊乃 : 恋愛・婚活コンサルタント)