生成AI実装が「デキる個人」、「勝ち残る企業」の常態に。

ChatGPTのブームが収まらない。7月24日発売の『週刊東洋経済』は「ChatGPT 超・仕事術革命」を特集。個人での利用に次いで、今、企業でのビジネス活用も盛り上がりを見せる。そんな生成AIの「最新事情&実践術」を大公開。いち早くChatGPTを特集した本誌だからこそお届けできる特集シリーズ第2弾!


「グループを挙げてAI革命、情報革命の先端を歩んでいく。私もめちゃくちゃ忙しくやっています」

6月21日に開催されたソフトバンクグループの株主総会。登壇した会長兼社長の孫正義氏が約1時間近く熱弁を振るったが、その内容は、ChatGPTなどの生成AI(人工知能)と半導体がほとんどを占めた。

2022年11月、米オープンAIがChatGPTを公開するや、利用者数はわずか2カ月で1億人を突破。プログラミング言語でしか扱えなかったAIと日常の言葉で会話できるとあって、世界中に大きな衝撃を与えた。

孫正義氏が超本気モード

孫氏もその虜(とりこ)となった。「私自身、毎日使っている。アイデアを投げかけ『君はどう思うんだ?』と知恵比べをしている」。

そして、生成AIへの熱狂は今や個人レベルを超えた。今、盛り上がっているのは法人だ。あらゆる業界が、この技術のビジネス活用に知恵を絞っている。

ソフトバンクグループでも、事業会社では5月から約2万人の全従業員が社内環境で生成AIを使えるようになった。3月には1000人規模の生成AI活用の新会社を設立。大規模言語モデルを自社で開発する計画もある。


株主総会で、生成AI活用への意気込みを熱く語った孫正義氏(画像:ソフトバンクグループ)

生成AIの特徴は、金融や流通・小売り、製薬など、ITが本業ではない業界にも巨大な影響を及ぼすことだ。

チャットボットとして知らないことを聞いたり、アイデア出しに利用したりする事例は多いが、活用領域はもっと幅広い。これまで人間が手作業で行っていた資料の洗い出しや、定型書類の代筆などもできる。先行導入する企業の多くが、大幅な業務効率化の効果を実感する。人手不足の中、「人海戦術」型の事務仕事が多い業種ほど、活用メリットは大きい。

ボストン コンサルティング グループ(BCG)の試算によれば、生成AI市場は27年時点で1200億ドル(約17兆円)に達する。市場規模が最も大きくなると予想されるのが、金融だ。


メガバンク3行が一斉に導入

日本のメガバンク3行はすでに生成AIの利用環境を導入。例えば三菱UFJ銀行では、5月から一部の行員が稟議書作成や、行内手続きの照会などにChatGPTを使っている。BCG金融グループ日本リーダーの陳昭蓉氏は、「DXに保守的だった銀行も、今回ばかりはスピートが速い。他社に後れまいとの危機感が強いのだろう」と指摘する。

もっとも現状は、「目的なき活用」も目立つ。企業向けに生成AIの導入支援を行うある企業は困惑する。「具体的な計画の下で導入するケースは少なく、新規事業として上から『何かやれ』と言われているケースがまだまだ多い」。


米オープンAIのサム・アルトマンCEOは6月に再来日。多くの日本企業トップと面会し、商機を探った(撮影:尾形文繁)



法人はセキュリティ対策した導入が基本に

一方、活用に二の足を踏む企業の懸念は、セキュリティーだ。

ChatGPTをデフォルト設定のまま使えば、入力情報の漏洩リスクがある。NECジェネレーティブAIハブリーダーの千葉雄樹氏は、「生成AIの法人利用は、企業が対価を払い、安全な通信経路かつ学習データに使われない設定で社内システムに導入するのが基本になってきた」と話す。

社内の一般的な業務効率改善のために使うのか、あるいは自社のサービスに搭載して事業を創出するのに使うのか。それによって構築すべきモデルやセキュリティー対策、コストは異なってくる。


生成AIは汎用的に業務をこなすが、「万能AI」ではない。得意・不得意がある。どう使えば仕事効率化や自社の競争力向上につながるか。その「正解」を吟味する段階に入っている。


(印南 志帆 : 東洋経済 記者)