メインキャストの堺雅人(右)と阿部寛。濃ゆいトップ俳優のバディにも注目だ(写真:『VIVANT』公式サイトより)

堺雅人、阿部寛、二宮和也、役所広司(出演)、福澤克雄(監督)と、日曜劇場『VIVANT』(TBS系、日曜夜9時〜)はさながら“日曜劇場アベンジャーズ”。第1話のラストに満を持して登場した二宮がツイッターで、『VIVANT』の相関図を見た感想を「こんなにハイカロリーなクラスの担任は嫌だなぁっと思わせる席順」と表していたのが言い得て妙だった。

さらに二階堂ふみや林遣都、林原めぐみとキャストが豪華すぎる。2話以降には松坂桃李も出てくる。

豪華布陣なうえ、モンゴルロケによる圧倒的なスケールで、久しぶりに登場したリッチなエンタメであった。

あの「人気ドラマ」要素がふんだんに盛り込まれている

最近流行りの、事前情報を極力少なくする宣伝方式で、豪華キャストの発表だけして、なんだかすごそうな感じだけを強烈に匂わせた第1話の世帯視聴率は、11.5%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)。配信の時代、リアルタイム視聴率はもはや指標にならないとはいえ、この高すぎず、低すぎない数字が絶妙で、これからぐんぐん上がるのか、じりじり下がるのか、非常に気になる。これもまたエンタメ要素のひとつといっていいだろう。図ったわけではないだろうが、『VIVANT』は持ってるんじゃないかという気はする。

はたして、第2話以降、盛り上がっていくのか否か。

(以下、ネタバレを含みます)

第1話を分析して見えてきたものは、人物もストーリーも、すべてにおいて“日曜劇場アベンジャーズ”、お祭り企画にさらに新機軸をプラスした、非常に考え抜かれたオリジナルストーリーであることだ。

はじまりは「誤送金」という、みんな大好き「お金」ネタ。2010年代の日曜劇場の王者「半沢直樹」シリーズのキャスト、スタッフが集結と謳ったドラマだけはあって、「半沢」ファンを離さないサービス精神を感じる。

正確には、神に祈りながら砂漠を歩く堺雅人からはじまったのだが、彼がなぜ、灼熱の砂漠を歩いているかというと、堺演じる商社マン・乃木憂助が、中央アジア・バルカ共和国の企業に140億円を誤送信してしまったことに端を発している。

契約金14億円のつもりが、なぜか140億円送金されてしまい、差額を取り返す直接交渉のため乃木は中央アジアにやってくる。もしかしてスケールがでかくなったビジネスドラマ? と思うと、否。事態はものすごく大きくて、乃木はどうやら世界的な陰謀と関わっている。

ここから、『MOZU』(2014年)的なクライム・サスペンスふうになる。『MOZU』は日曜劇場ではないが、日曜劇場にも『S-最後の警官-』(2014年)というテロを扱ったドラマがあったが、今回の誤送金問題もテロと関連しているようだ。

テロリストの自爆テロに巻き込まれた乃木を助けるのは、公安部外事第四課の野崎守(阿部寛)。「世界中を巻き込む大きな渦」に乃木が入り込んだと謎の言葉を言い、日本を救うために責任をもって乃木を守ると宣言する。

自爆前のテロリストに「VIVANTか?」と問われ、何が何やらわからずパニックになった乃木を、チンギス(バルサラハガバ・バタボルド)率いる現地の警察が追ってくる。

乃木と野崎の逃亡劇にもうひとり加わるのが乃木の治療をした医師・柚木薫(二階堂ふみ)だ。ここは医療ものである。“医療もの”日曜劇場『TOKYO MER〜走る緊急救命室〜』(2021年)的、命に向き合う緊迫感漂う医療現場が描かれる。

ここでさらにまた1人加わるのは、野崎の協力者・ドラム(富栄ドラム)。日本語が喋れないのでアプリを使用する。その声が林原めぐみだ。『新世紀エヴァンゲリオン』の綾波レイや『名探偵コナン』の灰原哀の声を演じている大人気声優である。

「VIVANT」は何を意味する?

乃木たち一行は、イスラム教徒の住む地域に隠れたり、排泄物を全身に塗りたくって鼻の利く警察犬の追跡をまいたり、遊牧民にまぎれて逃亡したりと、カーチェイスあり、銃撃ありの見せ場だらけ。

第1話のクライマックスは、懸賞金をかけられて国中から追っ手が迫る中、唯一の安全地帯である日本大使館に逃げ込むために、ずらりと並んだ車の上をどかどか走る、というアニメのような展開に。

ドラマのタイトルであり、乃木の隠された秘密と関係があるらしい「VIVANT」(乃木のスマホに「VIVAN」のアイコンがあったと話題になっていた。どんだけ動体視力がいいのか)という言葉は、フランス語では「にぎやかな」「活発な」という意味があり、活劇みたいなこのドラマを言い表しているようにも思える。

堺雅人、阿部寛、二階堂ふみ、元力士のユーチューバー・富栄ドラムの逃走劇は楽しく見られた。排泄物のくだりは、悪ノリしすぎな気もしたが、堺も阿部も二階堂もいい意味で漫画っぽい演技のできる俳優なので成立していた。

とりわけ堺は映画『DESTINY 鎌倉ものがたり』(2017年)などのファンタスティックな作品にもハマる俳優だ。既存の漫画やアニメのキャラになりきる2.5次元とは違う、生身の人間が漫画やアニメのような超越した存在に肉薄することのできる俳優なのである。演劇をやっている人にはそういう人たちがいる。堺が爆弾を体に巻いているテロリストを見て、のけぞり、怯える動きは身体表現を大事にしてきた俳優らしさがあった。

ローマ人ならぬアラブ人かと思った、と言われる顔が濃くて背丈のある阿部寛との組み合わせも、濃い2人が食い合うかと思ったら、いい感じのバディになっていた。

「Netflix」を意識か

乃木の高校時代からのアメリカの友人でCIAのサム(マーティン・スター)が好きな「ルパン三世」のようなアクションを生身の俳優たちでやろうとする意欲は買いたい。

その一方で、林原めぐみが、あくまで声優として参加していることも声の仕事へのリスペクトを感じて好感触であった。CIAの友人がバルカ共和国のことをたまたま調べていて、いい感じに協力してくれるという、まさにアニメの世界である。

ビジネスもの、サスペンスもの、医療ものと日曜劇場の人気題材を盛り込むなかで、この、ちょっとアニメのような冒険活劇風味こそが新機軸であろう。馬、ラクダ、羊と動物もいっぱい。ラクダに乗った中央アジアの民族の父子が星空の砂漠を歩く画や、少女がパンを焼くシーンなどはジブリアニメのよう。

ビジネスもの、警察もの、医療ものに冒険活劇と、ファミリーで見られるドラマを真剣に模索しているように感じる。無国籍感は、配信で海外にもーーという狙いであろう。かなりNetflixを意識しているような印象である。

そして忘れてはならないのは、考察要素。二宮が主演した“考察もの”日曜劇場『マイファミリー』(2022年)的な謎がふんだんにちりばめられている。「VIVANT」とは何か、誤送金を仕組んだ者は誰なのか、乃木には何か秘密があるのではないかと視聴者の考察心をくすぐってくる。

乃木の唯一の特技である手の感覚で重さを測れること、乗馬のコツを思い出すこと、CIAに友人がいること、夢に出てきた過去の謎、多重人格のようにもう1人の乃木が出てくることなどが、気になる点である。

砂漠で1人で行動するときに独り言ばかりになるのも手持ち無沙汰だから、もう1人の自分と会話することにした、という劇作の都合かなとも思うが、さて?

また、“日曜劇場アベンジャーズ”といえば、乃木の同僚・山本巧を演じる迫田孝也も、考察系日曜劇場『天国と地獄〜サイコな2人〜』(2021年)で極めて重要な役で出ていたが果たして今回は? ……等々、考察要素が多いことで、後半戦で確実に視聴率を上げてくるであろうと予測する。


第1話の印象的だった冒頭シーン。“もう1人の自分”と会話しながら砂漠を彷徨う乃木(写真:『VIVANT』公式サイトより)

「日曜劇場」に新しい時代が来ている

さまざまにちりばめられた要素を、視聴者それぞれが楽しめる。ひとつの方向に熱狂させないところが巧妙で、今、こういう作品を選択してきたことが、時代を捉えているといえるだろう。

かつて、『半沢直樹』が「倍返し」「土下座」のパワーワードで誰もが間違えようなく、同じ方向で楽しむドラマであったことに比べて、『VIVANT』はずいぶんと角度の広い、多様性があるドラマになっている。

脚本も共同脚本体制のようだし、原案が福澤とのことで、ハリウッドのライターズルーム的に、複数のライターが集結して、それを統べているのが福澤なのではないかという気もする。いずれにしても日曜劇場に新しい時代が来ているのだと『VIVANT』を見て感じる。

題材がバラけすぎ、風呂敷を広げすぎで求心力をなくすか、1つひとつが強い柱となってより多くの人に訴求するか、勝負どころである。

(木俣 冬 : コラムニスト)