こちらは北米仕様の「ダットサン240Z」ではなく、日本仕様の1971年式「フェアレディZ」をアメリカでフルレストアした車両。隅々まで手の入った完成度が評価され、JCCS2022のベスト240Zアワードを獲得していた(写真:平野 陽)

歴史的価値の高い旧車に対して税制面での優遇のあるアメリカ。その代表例が「ヒストリカル・ビークル・ライセンス」。古いクルマほど課税が重くなる日本とは真逆とも言える制度だ。今回は、アメリカの自動車文化や登録制度も交えて「ヒストリカル・ビークル・ライセンス」を紹介したい。

ヒストリカル・ビークル・ライセンスについて


このフェアレディZのナンバープレートは、カリフォルニア州のヒストリカル・ビークル・ライセンスになっていた。白地に赤い文字のシンプルなデザインで、“HISTORICAL VEHICLE”と書かれているのが特徴(写真:平野 陽)

自動車に付いているナンバープレート。アメリカでは州ごとにデザインが異なり、その州の特徴を図案化していたり、カラフルな背景を採用していたりするものも多い。また、「ヴァニティ・プレート」とか「パーソナライズド・プレート」と呼ばれる、日本で言うところの希望ナンバーも古くから制度化されており、人によってはクルマの年式や車名で登録を行うなど、ナンバーを通してクルマに対する愛着が表現されていたりする。


ハチロクの愛称で知られるトヨタの「カローラレビン」および「スプリンタートレノ」。アメリカでの車名は「カローラGT-S」といい、本来はスプリンタートレノと同じリトラクタブルヘッドライトを装着。こちらの1985年式の車両は、オーナーの好みで日本仕様のカローラレビンのバンパーやヘッドライトを用いた顔面移植が施されている(写真:平野 陽)


こちらもカリフォルニア州のヒストリカル・ビークル・ライセンスを装着。車齢25年以上という条件は2023年を起点にすると1998年以前が該当するので、意外と新しめ(?)な印象のモデルも対象に含まれてくる(写真:平野 陽)

また、それとは別に、クルマが持つ文化的側面にフォーカスしたユニークな登録制度も存在する。それが一般的に「ヒストリカル・ビークル・ライセンス」と呼ばれる制度だ。呼び名や内容は州によって微妙に異なるが、全米50州で採用されており、基本的には製造から一定期間を経た歴史的に価値のあるクルマを、一定の条件下で登録するにあたって登録費用を減免する、という点で共通している。

毎年カリフォルニア州で開催されている日本の旧車愛好家イベント「Japanese Classic Car Show(以下JCCS)」の会場を歩いていても、各州のヒストリカル・ビークル・ライセンスを付けた車両を見かけることがある。そのプレートもまた州ごとにデザインや文言が異なり、ちゃんとレトロな雰囲気も再現されていて、どれもなかなかかっこいい。


JCCSの会場で見かけたヒストリカル・ビークル・ライセンスは、さすがは地元ということで、カリフォルニア州のものが最多。この1988年式のホンダ「CR-X」は無限製のパーツを使用したさまざまなカスタマイズが施されているが、カリフォルニア州の場合はカスタマイズの有無は登録の認定条件に含まれていない(写真:平野 陽)


このクルマを含め、なぜかCR-Xのヒストリカル・ビークル・ライセンスの取得率が高かったのだが、登録条件の使用用途のひとつにクラブ活動が挙げられているので、同じ車種を愛好するクラブのメンバー同士でタイミングを合わせて取得すると、何かと動きやすいという現実もあるのかもしれない(写真:平野 陽)

JCCSの開催地であるカリフォルニア州を例にとると、ヒストリカル・ビークルとして登録できる車両の条件は、1922年以降に製造された車齢25年以上の歴史的に興味深いモデル、と規定されている。ちなみに1922年より古いモデルには、「馬なし馬車」として登録する同様の特例が用意されていたりもする。

カリフォルニア州では、クルマを新規で購入した際と、1年に1度、登録を更新する際にVLF(Vehicle License Fees)という登録料を支払う必要がある。VLFはクルマの市場価値(新車時販売価格もしくは現在の所有者に譲渡されたときに支払われた費用)をもとに算出され、その0.65%もしくは1.15%の費用を支払うことになっている。減価償却されるので、更新のたびに年々減額されるのも特徴だ。

だが、ヒストリカル・ビークルとして登録をすると、VLFは年間たったの2ドルで済み、オーナーは維持費を大きく節約することが可能となるのだ。ただし、クルマの使用用途はショーでの展示やオーナーズ・クラブでの活動、そのほかの類似した非商業的な目的における移動に限定され、日常的に走ることはできなくなってしまう。

排ガス検査などの項目についても一部省略


こちらの初代CR-X(日本名はバラードスポーツCR-X)は、中西部にあるミシガン州のヒストリカル・ライセンス・プレートを装着。かつてカリフォルニアのコスタメサに実在したストラーマンというコーチビルダーで製作された、希少なコンバーチブルモデルだ(写真:平野 陽)


アメリカにおける自動車産業発祥の地とも言われるミシガン州だけあり、州内にはアンティーク車両のオーナーが多く、安価に車両を維持できるヒストリカル・プレートの制度は1956年からスタートした(写真:平野 陽)


ミシガン州では車齢26年以上、コレクターズアイテムとしてのみ所有され、ヒストリッククラブ活動、パレード、カーショーなどのイベントでのみ使用されることが登録の条件。白地のプレートに6桁の青い数字が並ぶのが特徴だ(写真:平野 陽)

ちなみにスモッグ・チェックと呼ばれる、2年に1度の排ガス検査に関しては、もともと1975年モデルより古いクルマは、そもそも検査を受ける必要がない。1976年モデル以降の場合はチェックが必要だが、ヒストリカル・ビークルとして登録すると検査項目が通常よりも省略されることになっている。

VLFは1年に1度払うという意味では日本の自動車税と似ているが、大きな違いは算出のベースが市場価値に置かれているところだろう。古くても高額で売買される人気の旧車ほどVLFも高くなるので、「使用用途は限られてもいいからナンバーを切らしたくない」と考えるユーザーにとっては、ヒストリカル・ビークル・ライセンスがひとつの選択肢になるわけだ。

であれば、それこそJCCSに参加している旧車などは、みなこぞってヒストリカル・ビークル・ライセンスを付けていてもおかしくなさそうなものだが、そうはなっていないのは、やはり日常的に乗れなくなるのは困るという人の方が多数派だからなのだろう。そもそも税率もそこまで高くないので、よほどの高額車両でない限りは更新料も大きな負担とは感じないのかもしれない。


ショーの展示用としてフロントに日本のナンバープレートのコピー商品を付けている1990年式のホンダCR-X。日本から輸入した右ハンドル車で、貴重な無限製のホイールをブラックに塗装して装着している(写真:平野 陽)


リヤにまわってみるとアリゾナ州のヒストリック・ビークル・プレートを装着していることが判明。アリゾナ州の場合は、車齢25年以上が条件で、年間更新料は10ドルとなる(写真:平野 陽)


アリゾナの砂漠を表現したのだろうか、サンドベージュっぽいプレートに赤い文字で“HISTORIC VEHICLE”と“GRAND CANYON STATE”と書かれているのがかっこいい!(写真:平野 陽)

転じて我が国はというと、排気量をベースに年額が決まる自動車税は、ガソリン車は車齢13年、ディーゼル車は車齢11年を超えると、概ね15%の重課となり、古いクルマが優遇されるどころか冷遇されているのが現実だ。車検時に支払う重量税も同じく13年超と18年超のタイミングで高くなるので、負担は年々増すばかりである。

高い維持費に耐えかねたユーザーは、一時抹消登録を行うか、売却したり廃車にしたりといった選択に迫られがち。その結果、時を経て文化財としての価値を持つようになったクルマたちは、いずれスクラップにされるのを待つか、より購買力に富んだ海外市場へ流れていくしかなくなってしまう。

文化や歴史な価値を尊重するアメリカの自動車登録制度


ほぼノーマルの状態がキープされた1990年式のホンダCR-X。カリフォルニア州のイベントで見かけることはかなり珍しい、東海岸のバーモント州のアンティーク・ナンバーを取得していた(写真:平野 陽)


バーモント州の場合は「アンティーク・ビークル」という名称を使用し、車齢25年以上が対象。1年の登録料は23ドルとなっている。展示会、クラブ活動、パレード、その他公共の利益を目的とする行事で使用するために維持されている車両に限定されるが、許可される使用として「週1日以下の旅客または財産の臨時輸送」も認められている(写真:平野 陽)

実際に日本で旧車を我慢強く所有している人の多くは、たまにイベントに参加したり、仲間とツーリングに出かけたりするときにだけ使用していることだろう。そうした用途に限定されても構わないので、税の減免や控除といった優遇が得られる特例ナンバーというものが日本にも存在すれば、きっと利用したいと考える人は多いに違いない。


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歴史的なクルマを価値ある文化財と捉えるのか、使い捨ての古びた道具と捉えるのか。アメリカで開催されているJCCSに参加し、クラシックカーとしての日本車の魅力が海外でこそ高く評価されている現実を見るたび、今問われているのは日本人が自国の文化財としての旧車に対する誇りを再認識し、保護していくことではないのかと感じさせられる。

(小林秀雄 : ライター)