ChatGPTなどの生成AIを日本の企業や地方自治体はどのように捉え、どのように利用しているのでしょうか(写真:Graphs/PIXTA)

生成AIに関するアンケート調査の結果を見ると、実務に導入している企業や地方自治体は少数派だ。しかし、今後は、API連携などを用いて、利用が大きく拡大することが期待される。企業では、カスタマーサービスや企業データベースへの接続、自治体では、住民向けの相談サービスなどが考えられる。昨今の経済現象を鮮やかに斬り、矛盾を指摘し、人々が信じて疑わない「通説」を粉砕する──。野口悠紀雄氏による連載第99回。

日本企業は生成AIをどの程度利用しているか?

ChatGPTなどの生成AIを、日本の企業や地方自治体はどのように捉え、どのように利用しているのだろうか? これについては、いくつかの調査がある。

(1)第1に、帝国データバンクが実施した「ChatGPTなどの企業における活用状況に関するアンケート調査」(アンケート期間:2023年6月12日〜15日)がある。

これによると、「業務で活用している」は、9.1%にすぎない。「業務の活用を検討している」が52%。その内訳は、「活用を具体的に検討していく」が14.2%、「現時点では活用イメージが湧かない」が37.8%だ。

他方で、「業務での活用を検討していない」企業が23.3%。内訳は「今後も活用するつもりはない」(17.7%)、「業務での利用が認められていない」(5.6%)。「知らない」(4.3%)、「わからない」(11.4%)という回答もあった。

企業の規模別に見ると、「業務で活用している」は「大企業」でも13.1%でしかない。「中小企業」は8.5%、「小規模企業」は7.7%だった。

(2)第2に、野村総合研究所が実施した「アンケート調査にみる『生成AI』のビジネス利用の実態と意向」(2023年6月13日)がある。

これによると、ビジネスパーソンの生成AIの認知率は50%を超えている。ただし、「確かに知っている」は15.3%しかいない。「聞いたことがある」が35.2%だ。年齢による差はあまりないが、30代が高い。

「業務効率・生産性を高める」というイメージを持つ人が多い(46.2%)一方で、「仕事を奪う」イメージも22.1%ある。

生成AIのビジネス利用は、「実際に活用中」が3.0%、「トライアル中」が6.7%だ。生成AIを利用している業務内容は、「挨拶文などの原稿作成」が49.3%、記事やシナリオ作成が43.8%、「ドキュメントの要約」が43.8%などだ。

このように、創造的なコンテンツ作成というよりは、定型的でパターン化された出力を活用している場合が多い。

(3)第3に、PwCによる「生成AIに関する実態調査2023」(2023年5月19日)がある。

全体の54%が生成AIを「全く知らない」と回答した。認知層における生成AIの自社への活用に対する関心は、「あり」が60%、生成AIの存在は自社にとってチャンスか脅威かの問いには、チャンス派が脅威派の5倍と、活用に前向きだった。ただし、すでに実際に予算を立てて案件推進に至っているケースは、認知層の8%程度しかなかった。

以上の結果で驚くのは、認知度の低さだ。また、実際の利用度も、思っていたより随分低い。

地方公共団体での利用状況

神奈川県横須賀市は、4月20日に、業務効率化の一環として実証実験を開始した。事業のアイデアづくりや文書作成に生かす。茨城県つくば市は、全職員を対象に庁内の業務で活用を始めた。

2市は、それぞれオープンAIとAPIの利用契約を結び、庁内で利用する自治体向けビジネスチャットサービス「LoGoチャット」を通じて職員に利用環境を提供する。横須賀市は「GPT-3.5」のAPIを導入し、LoGoチャットからChatGPTのプロンプトを利用できる機能を内製で開発した。つくば市はLoGoチャットからGPT-3.5のAPIを利用する際に、AIが文章生成で参考にしたと考えられる資料や出典を示す独自の機能を追加した。

期待されているのは、文書作成の効率化や、政策立案や標語の着想など創造性を要求される場面での補助的活用だ。横須賀市は「文書作成の所要時間が半分〜数分の1に短縮できる可能性がある」とした。

静岡県は、6月15日、県職員がChatGPTなど対話式の生成AIを業務で利用する上でのルールを定めたガイドラインを策定し、運用を始めた。業務効率化や行政サービス向上のため、積極的な活用を打ち出した。

県がガイドライン作成に向けて、ChatGPTの認知度や利用意向を職員に尋ねたアンケートでは、「業務や人を限定した使用」「積極的に活用」など業務利用を求める職員が87%に上り、「使用すべきでない」は4%にとどまった。使用経験のある職員は42%いたが、業務での使用経験は7%でしかなかった。

福島など4県は業務で本格的に利用

時事通信は、ChatGPTなどの生成AIの活用について、47都道府県を対象にアンケートを実施した。2023年6月1日にアンケートを送付。22日までに全都道府県から回答を得た。

回答結果によると、福島、茨城、群馬、新潟の4県は業務への本格利用を開始。栃木、千葉、神奈川、富山、長野、静岡、兵庫、山口、高知、佐賀の10県は試験的に導入した。事務作業での使用が中心だが、茨城は観光PRにも活用している。

残る33都道府県は利用の可否や方法を検討中で、「利用予定はない」はゼロだった。

生成AIを本格導入した4県は、いずれも使用上のルールを策定済み。全庁的な利用を認め、文書や資料の作成、要約、情報収集、施策のアイデア出しなどで活用する。

なお、2022年6月、総務省 情報流通行政局 地域通信振興課は、「自治体におけるAI活用・導入ガイドブック」を公表している。これはChatGPT登場以前のものだが、先行団体におけるAI導入事例を紹介している。

生成AIの利用の方法は、いくつかある。

第1は、OpenAIなど生成AIサービス機能を提供している事業者から直接サービス提供を受けるパターンだ。この場合には、利用コストは、低く抑えられる。ただし、できることの範囲が限られる。また、外部のサービスにデータを直接渡すため、機密情報や個人情報の取り扱いに注意が必要だ。

第2は、生成AI事業者が提供するAPIを利用するパターンだ。API連携とは、ソフトウェアやアプリケーションを別のプログラムと接続し、機能の一部を共有することだ。自社で開発したシステムからAPI経由で生成AIの機能を呼び出すことによって、独自の仕組みを構築できる。フィルタリングなどの仕組みを組み込めば、機密情報や個人情報の流出を避けられる。

ただし、開発コストがかかる。

今後に期待したいこと

以上を見ると、生成AIの利用法としては、文書作成の効率化に重点が置かれているようだ。

そうした利用は、確かに有効だ。しかし、生成AIのポテンシャルは、これよりずっと大きいと思う。もっと積極的な活用が考えられてもよいのではないだろうか? 特に横須賀市やつくば市などのようにAPI連携を行って独自の仕組みを作る場合には、用途が大きく広がる。

企業では、自動応答サービスなど、カスタマーサービスへの応用が行われるだろう。また、企業データベースへの接続も考えられる。 

地方自治体においても、事務処理だけでなく、住民に向けた自動応答サービスの創設などが考えられる。

例えば、電話を通じてChatGPTに何でも相談できるような仕組みが考えられる。行政に関することだけではなく、プライベートなことも相談できるようにすれば、住民に対する大変大きな助けになるだろう。デジタル難民になった高齢者も、これを利用すれば、さまざまな問題が解決される。そうしたサービスを提供する地方団体は、人気を集め、移住者が増えることになるだろう。

おそらく電話回線がすぐにパンクしてしまうだろうが、こうした要請に応じて回線を増設するのは、十分に意味があることだ。


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(野口 悠紀雄 : 一橋大学名誉教授)