東京メトロ日比谷線虎ノ門ヒルズ駅の地下2階コンコースと改札口。地下の駅前広場につながっている(記者撮影)

地下鉄の駅に広々とした「駅前広場」が誕生――。地上を走る区間にある駅ではなく、れっきとした地下駅の話だ。

東京メトロは7月15日の始発列車から、拡張工事を進めていた日比谷線虎ノ門ヒルズ駅の地下2階コンコースと新たな改札口の使用を開始した。同コンコースは、隣接するビルの地下に整備された地上1階まで吹き抜けの広場と接続。地下でありながらガラス張りのホームに発着する電車が見える、ユニークな空間が出現した。

開業から3年経て「本来の姿」に

虎ノ門ヒルズ駅は2020年6月、日比谷線の開業以来56年ぶりの新駅として霞ケ関―神谷町間に開業。もともと駅のないトンネルだった区間を掘削して建設した。同年の開業時はホームのある地下1階のみが完成した状態で、今回の拡張工事完成で「本来の姿」となった。

同駅は地下道で東京メトロ銀座線の虎ノ門駅と接続している。これまでの仮状態では、銀座線の駅から日比谷線中目黒方面行きホームには地下1階の仮改札口で直結していたものの、日比谷線北千住方面行きのホームに行くにはいったん地上に出て交差点を渡る必要があった。地下2階コンコースの完成で両方向ともに地下だけで乗り換えられるようになったほか、駅の東西移動や地上との行き来も容易になった。

地上から、または銀座線からの乗り換えで同駅に着くと、まず驚くのが改札口のある地下2階コンコースと接続する広大なスペースの広場だ。

コンコースの西側は、高さ約266m(地上49階・地下4階)の高層ビル「虎ノ門ヒルズ ステーションタワー」地下の「ステーションアトリウム」と呼ぶ面積約2000平方メートルの駅前広場につながっており、地上1階まで吹き抜け構造になった自然光が射し込む広場からは、ガラス越しに地下1階のホームが見える。コンコースの東側も商業施設「グラスロック」の地下広場に接続する。


地下に広がる「ステーションアトリウム」。中央に見えるのがホーム(記者撮影)

虎ノ門ヒルズ駅は、独立行政法人都市再生機構(UR都市機構)が事業主体となり、設計・工事を東京メトロが受託する形で整備した。ビルの地下空間と駅が融合した空間を、両者は「『駅まち一体』の空間」としてPRする。UR都市機構・東日本都市再生本部都心業務部の轟幸紀担当部長は、「周辺の再開発と駅を一体で行うという中で、街がどういう形であるべきかのコンセプトに基づき、一緒に整備を進めてきた」と話す。

駅前広場を「見下ろす」地下ホーム

ホームに上がると、ガラス張りになった部分の壁面からは駅前広場やコンコースを見下ろすことができ、地下駅とは思えない眺めが広がる。ホームの幅も広がり、北千住方面側の2番ホームは約6mから最大約14.3mに、中目黒方面側の1番ホームは約4.9mから最大約7.2mになった。


ガラス張りのホーム壁面(左)からは地下の駅前広場が見える(記者撮影)


北千住方面行きのホーム。大幅に拡幅された(記者撮影)

ホームの幅が大きく異なるのはトンネルの位置が理由だ。東京メトロ鉄道本部改良建設部の川上和孝第二工事事務所長によると、日比谷線のトンネルは国道1号の下を通っているが、「トンネルと道路の中心線の位置がややずれている」といい、道路幅に合わせて駅施設を建設すると左右対称にならない。このため、2つのホームの幅が異なる形になったという。最大幅はほぼ倍の差があるが、将来の利用者増加を見込んでも「どちらのホームも十分対応可能な幅」(川上氏)。ガラス張りの開放感とともに、地下駅としてはゆとりのあるホームといえそうだ。

虎ノ門ヒルズ駅は、2014年に「特定都市再生緊急整備地域」として虎ノ門周辺地区の交通結節機能強化などを図る計画が策定されたのを踏まえ、同年10月に整備計画が発表。2016年2月に工事が始まった。

既存の地下区間に駅を設けるため、開業時に造られたトンネルの側壁を撤去してホームを設置。その下に建設するコンコースの工事は、電車が走っているトンネルを下から支えながら直下を掘る「アンダーピニング工法」によって実施した。


工事中の虎ノ門ヒルズ駅=2019年(撮影:大澤誠)


コンコースにあたる地下2階の掘削工事=2019年(撮影:大澤誠)

建設中の2019年に取材に応じた東京メトロの担当者は、この付近は柔らかく掘りにくい地質だと述べ、その中で「駅全長約150mのトンネル側部を丸々掘って、さらにトンネルの下も掘削するという例は数少ない」と工事の難しさを語った。

駅は2020年6月、同年に予定されていた東京オリンピック・パラリンピックに合わせ、暫定的な改札口を設けて開業。駅としての使用が始まった後も、線路の下ではコンコース整備のための工事が続いた。川上氏は「地下2階の拡幅に当たっては、日比谷線を運行しながら細心の注意を払ってきた」と話す。

「臨海部への玄関口」になれるか

駅前広場のステーションアトリウムがある「虎ノ門ヒルズ ステーションタワー」は10月に開業予定。UR都市機構の轟氏は「より一層にぎわいのある駅になることを期待している」と語る。虎ノ門ヒルズ駅の1日平均利用者数は2022年度が約3万4000人で、周辺開発の進展により将来的には約8万人を見込む。


ステーションアトリウムからは地下1階のホームに発着する電車が見える(記者撮影)

虎ノ門ヒルズは2014年、「立体道路制度」を活用して都道環状2号線と一体的に整備した「森タワー」の完成を皮切りに開発が進み、ステーションタワーの開業で完成形となる。

今後の課題は、駅や周辺整備の目的の1つである「交通結節機能」を発揮できるかだろう。駅と接続する虎ノ門ヒルズのバスターミナルには、臨海部と都心を結ぶ新たな交通機関として整備されたバス高速輸送システム「東京BRT」が発着する。BRTはコロナ禍により運行開始が遅れ、現在も本格運行前の「プレ運行2次」と呼ばれる状態だ。以前と比べればルート数や便数は増えたものの、中心となっているのは新橋駅発着の便で、虎ノ門ヒルズのバスターミナルが臨海部への玄関口の機能を果たしているとは言いがたい。

都心の新たな拠点となった虎ノ門ヒルズ。渋谷や新宿、品川など都内各地のターミナルで大規模再開発が進む中、「交通拠点」の1つとしても存在感を示せるか。拡張工事の完成で「本来の姿」になった虎ノ門ヒルズ駅はその役割を担っている。


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(小佐野 景寿 : 東洋経済 記者)