暑い夏に食欲をそそる「ナスの黒酢炒め」の作り方を伝授します

料理の腕を上げるために、まず作れるようになっておきたいのが、飽きのこない定番料理です。料理初心者でも無理なくおいしく作る方法を、作家で料理家でもある樋口直哉さんが紹介する『樋口直哉の「シン・定番ごはん」』。

今回は暑い夏に食欲をそそる「ナスの黒酢炒め」です。

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「炒め物」は夏に重宝するメニュー

炒め物は加熱が短時間ですむので、夏に重宝するメニュー。「塩炒め」「しょうゆ炒め」「みそ炒め」という具合に味付けによってバリエーションがつけられるのもいいところ。今回、ご紹介するのは夏にピッタリの「黒酢炒め」です。

通常、炒め物の味付けにはあらかじめ調味料を準備します。例えばしょうゆ炒めの場合はしょうゆとみりんが1:1の割合、みそ炒めの場合はみそ1:みりん1:酒1という具合に割合で覚えておくと便利です。黒酢炒めの割合は、

酢1:しょうゆ1:砂糖1:酒1

が基本。黒酢は通常の穀物酢や米酢よりもコクとうま味があり、炒め物や酢豚にピッタリ。ふつうの酢よりも濃い色をしているのは製造工程の違いによるもので、熟成期間の長いほど色が濃くなります。

スーパーで買える黒酢には日本と中国のものがあり、原材料や製法などが異なりますが、同じ酸味の役割を果たすので手に入る種類を使えばよいです。

今回は中国の鎮江香醋を使いました。中国三大名品酢の1つとして挙げられ、深い味わいが特徴。黒酢酢豚のような料理に欠かせませんし、餃子のタレに垂らしたり、麺料理に少し加えたり、といろいろ楽しめるお酢です。黒酢がなければふつうの酢を使った<甘酢炒め>にすればいいですが、試してみるのもいいでしょう。


国産の黒酢を使う場合も色が濃いものを選びます

ナスの黒酢炒めの材料
豚薄切り肉     170g
しょうゆ      大さじ1
酒         大さじ1
片栗粉       小さじ2
サラダ油      小さじ1

ナス        250g(3本が目安)
塩         ひとつまみ
サラダ油      大さじ1

(合わせ調味料)
黒酢        大さじ1
しょうゆ      大さじ1
砂糖        大さじ1
酒         大さじ1

今回は豚バラ肉を使いましたが、薄切り肉であれば小間切れやもも肉など、好みで選んでください。バラ肉を使うとこってり味に、脂の少ない部位を使うとあっさり味になります。


生姜焼き用の豚肩ロース薄切り肉がおすすめです

薄切り肉は5cm長さに切り、しょうゆと酒で下味をつけます。

ナスと油の相性がいい理由

旬の夏野菜の1つであるナスは油と相性がいい野菜と言われます。そもそも油と相性がいいとはどういうことでしょうか?

ナスの果肉は空洞の多いスポンジ状のため、油をよく吸い込みます。それによって油のコクが加わるとともに、ナスに含まれるクロロゲン酸に由来するエグミがマスキングされ、食べやすくなるのです。


ナスは個体差が大きいですが250gは3本が目安です

クロロゲン酸は酸化酵素 (ポリフェノールオキシダーゼ)の影響で、切ってから放置すると酸化し、色が黒くなる(=褐変物質を生成する)性質があります。そのため、ナスは切ってから水にさらす、という下処理がよくとられます。水にさらすことで酸素を遮断し、色が変わるのを防げるからです。

下処理にはさまざまな方法があり、プロは1%程度の塩水に放すことが多いです。予備実験として水と塩水で仕上がりがどのように異なるか、実験してみましょう。

切ったナスをそれぞれ水と1%の塩水に浸し、15分放置した後、キッチンペーパーで表面の水気を拭ってから、同量の油で加熱しました。


左が水、右が1%の塩水です

加熱後に試食をすると水に浸したものは、なにもせずに焼いたものに比べて風味がやや薄く感じられました。ナスが水を吸ったからでしょう。


左が水下処理、中央がなにもしない、右が塩水

塩水で下処理したナスは焼き色が比較的早くつき、食べると甘みをやや強く感じます。塩水に浸すことでナスから水分が引き出され、味が濃縮し、同時に塩味がつくことで対比効果により甘みを強く感じた、と考えられます。

この実験から塩水に漬けることには意味があることがわかりました。ただ、塩水を準備したり、キッチンペーパーで拭いたりとやや面倒ではあります。

そこで今回は塩ひとつまみとサラダ油をまぶすことにしました。塩水下処理の要点は塩で味を凝縮し、酸素を遮断することですから、これで十分、その目的は果たせます。

水溶性であるクロロゲン酸を溶出させる効果は期待できませんが、現代のナスはアクが少ないので、市販されているナスを使うかぎりは問題ないからです。


塩ひとつまみは0.8gが目安です

ナスをフライパンに入れたら蓋をして中火に

この方法のメリットは少ない油でナスを加熱できること。フライパンに塩と油をまぶしたナスを入れ、蓋をして中火にかけます。


なるべくフライパンの底に広げるようにしましょう

1分経つとナスから出た水分で蒸された状態になります。この工程でナスの空洞が潰れ、余分な油を吸わなくなるので、少ない油で加熱できるのです。


パチパチという音がしてきたらフライパンの温度が上がった証拠です

3分経ったら裏返し、さらに加熱します。


焦げるようであれば火を弱火に落としてください

4分加熱したら一度バットなどに取り出します。


ここまで加熱したら生姜じょうゆをからめるだけでもおいしいです

下味をつけた豚肉に片栗粉を振ります。全体にまぶさなくても大きな問題はありませんが、なるべくだまにならないように少し高い場所から振るといいでしょう。


この時点で10分くらいは経っているはずです

サラダ油をひいたフライパンに豚肉を並べ、中火にかけます。


加熱すれば肉ははがれるので神経質にならずに大丈夫

片面焼きのイメージで焦げ目がついたらナスを投入

薄切り肉は、加熱しすぎを防ぐため、イメージとしては片面焼きです。焦げ目がついたら裏返し、さきほどバットに移しておいたナスを戻します。


焦げ目もおいしさのうち

ざっくりと炒め合わせたら、合わせ調味料を加えます。


合わせ調味料は一気に加えると焦げにくいです

調味料が全体に絡むまで軽く煮詰めたら出来上がりです。この工程で酢の酸味がやや飛び、味にまろやかさとコクが出ます。


肉に振った片栗粉と砂糖のおかげで軽いとろみがつきます

ご飯によく合うやや濃いめの味付けなので、好みでナスの量を増やして調整してください。夏は酢の味、という言葉があるように、気温が高くなると酸味がおいしく感じられます。酸味を上手に活用して、暑い季節を乗り切りましょう。


熱々がおいしいので急いでテーブルに運びましょう

(写真はすべて筆者撮影)


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(樋口 直哉 : 作家・料理家)